第21話 全ては資料の中
「………もしかしたら」
ギィイ、
「あれ? お疲れ様です。まだらっしゃったのですか?」
「………お疲れ。いや、まぁ、いるけども」
「そうですか……なにか調べているのですか?」
「えぇ、少しだけ」
先ほどの学生共の案内を終え、俺は司書室で資料を漁っていると、聖さんは何事も無いような表情を見せながら司書室に入ってくる。
だがそんな彼女の無視して俺は机の上に山積みにされている資料を読み続ける。
「もしかして、今日の出来事ですか?」
「あ? まぁ、そんなところ」
「……そうですか」
今日の出来事、それはあの大人と学生の問題だろうか?
そのような内容でさえも、俺にとっては古い昔のようなことだと感じられる。
「その資料は未発見魔書、ですか?」
「あ、うん、そう」
俺の手に持っていた資料は現在、未発見されている魔書の情報が入っているファイルだった。
この中には、有名な物からほとんどの人が知らないマイナーな作品な物までがこのファイルには入っている。土地に住み着く限定的な昔話もこのファイルには入っている。
そんなファイルをただ俺は覗き込んでいた。
「今になって何を気にしているのですか?」
「何を?」
「昔のことです」
「……あぁ、今調べているの
「では、一体何をお調べになられているのでしょうか?」
「いや、今日来た学生について、少々、気になったところがあるので」
「気になった所、ですか……」
「えぇ、少し……ね」
「そうですか」
聖さんはそれ以上、何も言わず踏み込もうとはしなかった。
その行動は一体、正しい事かそれとも正しくないことかよく分からなかったが、社会的には正しい事なのだろう。人の仕事や考えには深く踏み込まない。暗黙の了解。体にしみ込んだ内容は正しいのだろうと思うのだろう。
そう、そのはずだ。
「発見されていない魔書の内容をデータ移転させて、こっちの端末に……」
俺がそうぶつぶつ言いながらファイルに保管されている
「ごめん、聖さん。少し、手伝ってくれない?」
「はい、なにをでしょうか?」
「データの移転……」
「…………」
そんな目で見ないでくれ。
俺だってここに勤務して何年か経つけど、機械には弱いんだよ。できるのパソコンのキーボード早打ちぐらいだよ。ぐすん。
「分かりました。では作業を始めましょうか」
「ふぁい」
聖さんはそう言うと、俺の机の上に合った資料を持ち出すと、目の前にある会談用の机で作業を始める。
その作業の手際は、伊達に秘書を務めているものではないと思わせるもので、俺が一つの資料からデータに移転する際には、彼女は10個の資料を移転させていた。
「終わりました」
「あ、ありがとうございます。早いですね」
「貴方が資料にどれをどこに移してくれるということを教えてくださったからです」
そう言いながら彼女は、資料の隙間から一枚の付箋を取り出して見せた。
あぁ、そういえば、俺はそんなものを挟んでいたんだってけ? 今日中に終わりそうじゃないという事を知っていたし明日の俺に任せようとそんな付箋を貼っていたことを思い出す。
「私はこのようなこまめな所のおかげでスムーズに仕事が進みました」
「あ、そうですか……」
「ですから、このような細かい所は案外、好きですよ?」
「うっす、分かりました」
今後もそういう細かい所も気にしていけという事ですね。
大丈夫です。細かい所が気になりあすぎて注意されることもありますから。
「…………これは理解していませんね」
「はい?」
「何でもありません」
すると、急に小さく聖さんは何か言う。
だが残念なことに俺はその言葉を聞き逃してしまった。
なんと言っていたのだろうか。
「そちらの方は終わりましたか?」
「あ、少しだけ……」
「…………」
その視線はやめてください。
死んでしまいます。心が……。
確かに、これほど使えない人が上司だと嫌ですよね。俺だっていやです。
もうこのようなことを起こさないようにきちんと心に言い聞かせてPCとかタブレット端末の使い方を学びたいかと思います。基本的な動作だけじゃやっていける気がしない。
「貸してください」
「え、いいの?」
「はい、これも秘書の仕事ですから」
「…………そうですか、分かりました」
すると聖さんはそう言い始める。
確かにそのように考えると、一理ある。
だがこれ以上、仕事を取られてしまうと、こちらとしてはメンツが持たなくなる。男の子だから、ね? そういうのに本当に弱いの。権力とか名声とかね?
金、権力、女、この三つは男性が欲しがるものの三種の神器的なものだから……ほんの少しでもプライドが傷つくとつらいからね?
「あ、けど、ここの部分や俺がやっちゃうよ」
そう言って俺は聖さんが持っていこうとした資料の半分を手に取り、机とにらめっこを始める。
「……そういうのでしたら、別にいいのですが」
これは断じて逃げでもなく恥でもない。
ただ己の役目をきちんとこなすだけ。そう、こなすだけだ。
あのような悲劇はもう見たくないからな。
「そんなしんみりとした表情しないでくださいます?」
「え、していました?」
「はい、していましたよ」
暗い館内でぽつりと光っている司書室の中で、聖さんはしんみりとした声で言ってくるが、俺には全くそのような自覚は無く、言われて気付く。
「そうでしたかぁ……」
「えぇ、そうですよ」
自覚が無かった分、彼女の言葉は案外来るものがある。
「そういえば」
「はい?」
「
「えっ?」
約束? 一体何のことだ?
聖さんに言われ、俺は既に回しつくした思考回路を回して彼女の言う内容を思い出そうとする。
「あ」
そして一つだけあることを思い出す。
俺のポケットの中から一枚の紙きれを取り出すと、そこにはあの先生の連絡先が書かれていた。
そう言えば、そんな事を約束したなぁ、と内心、思いながら頭を抱え始める。
「行かないのですか?」
「あー、どうしましょ」
「閉めるのは私がやりますが?」
「………マジですか?」
「えぇ」
「………分かりました。お願いします」
苦悩した末にそのような選択を取った俺は、行くという事を選んだ。
聖さんを図書館に残してしまうという無礼千万な内容に、心のどこかでは頭を痛めていた。変な風に話が広がるのは良いけど、それが上に伝わる尾はいろいろと面倒くさい。
けど、ここで無断で放置してたら変な風に報告されそうだと思ってしまう。
「いいですよ。別に」
「え?」
「鍵を閉めることぐらいは私にはできます」
「……そ、そうですか」
「それに、貴方が心配なされていることはしませんから」
「え?」
「あの人への報告でしょう? でしたら、既に報告済みですから」
「…………」
手遅れ。圧倒的手遅れ。
今後、あの人からなんていわれるかわからない。
「局長からは、やっと、人間らしいさが来たか、とわかっておりましたよ」
「……そうですか」
「早くいってください。片付けの邪魔です」
「あ、はい」
なんか予想していたのと少し違う気がするが、聖さんがOKというのならいいのだろう。
俺はすぐに荷物をまとめると、掛けてあったコートを手に取り、司書室を飛び出した。
「お先に失礼します!」
「はい、お疲れ様です」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
残された司書室の中で私は深いため息をつく。
「帰りましたか」
そういうと私は残された司書室で、散らかった書類などを綺麗にまとめる。
「貴方は本当に根を詰めすぎだと思うんですがね………まぁ、貴方が調べようとしたことは彼女の素性についてでしょう。でなければ、こんなことを調べませんから」
片付けをいながら先ほどまで彼が使っていた机を眺めると、そこには一つのファイルがあった。
そのファイルの中には、鳳堂龍璽学園の生徒たちが一人一人のグラフ値さえもきちんと記載された内容がそこにはあった。
ただその中でも『Attention』と印が引かれたいた『絹宮 ひつ』と呼ばれる、生真面目そうな女生徒の顔をファイルの中から除かれていた。
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