第20話 塀の中
「で? 言い訳は?」
俺は被害者の女子高生共と共に加害者の男性たちと共に司書室に来ていた。ちなみに俺の司書室ではなく、業務用の司書室で、俺たち司書の中では『取調室』と物騒な呼ばれている。
そりゃそうだ。普通の司書室の様な明るく広い場所ではなく俺たちが今いるこの司書室は窓が一つもなく、何かあるとしても薄暗い照明と簡素な机、そして冷たいコンクリート壁しかない。
「それでも、私は悪くないわ」
「御託はいい。さっさと非を認めろ」
誰もお前の面倒ごとの理由を聞きたいというわけではねぇ。
さっさと非を認めて、書類にサインをしてもらいたいだけなの。
既にあのヤンチャした老g、いや、男共にはサインを書かせたから、二度とやりませんからってな。次やったら出禁といった書類を書かせたから、それに対して女子高生一号に渡した書類は『反省しています。今後はこのような問題を起こしません』という罰の一つもないただの反省の書類だけなんだけど?
それに何一つサインをしないとかどういうことなの?
「それでも悪くないわ」
「いや、悪いから」
「どこがっ!?」
「そういう所」
すぐに激情になるのはよろしくない。
淑女的にも宜しくない。何でもかんでも感情を表に出すという行為はあまり、宜しいとは言えないんですよ?
そんなことを思いながら俺は女子高生の座る目の前で冷たい灰色の聴取台を挟みながら彼女のことを見つめる。
「はよ書け」
「矢駄」
んー、こうしている間にも時間がSU・GI・TE・KU!!
まじでふざけんなよ? こちとら学生様の様に暇じゃないんだけど? 次の仕事があるんですけど?
だが既に二十分近くかかっているというのに、何一つ書きやしない。本当に迷惑だな。こう頑固だと、
「なんで書かないの?」
「必要が無いから」
「本当にそう思っているんですかねぇ?」
「えぇ、必要ない物」
あぁ、頭が痛くなる。こんな面倒くさい子が司書になると考えると………………胃が痛い。
「………………はぁ、あんたそれでも司書におなりになるつもりかい?」
「何がよ」
「あんた一体どこで騒ぎましたか?」
「中庭」
「どこの敷地ですか?」
「図書館内」
「はい書いてください」
「なんで!?」
そこまで言って分からないは無いでしょう!?
当たり前のことを聞いているの。図書館内ではないとはいえ、敷地内で騒ぐの禁止なの! 騒ぎたきゃ近くの公園いけや!
「あー、もう、説明するから、オタク、図書館で、騒いだ、OK?」
「NO」
「OK言えや」
なんでこうすぐに拒否の反応を飛ばすの、この子。
さすがに出会って短いけれど、こう拒否までの判断が早いと何も言えなくなってしまう。というかメンドくさい。
「………………はぁ、何で認めないの?」
「私は悪いと思っていないから」
「はぁ、そうであっても敷地内で問題事、大騒ぎ厳禁。分からないのですかね?」
「知らないわ。書いてない物」
「知れ、感じろ。何もかもルールブックの様に何もかも書いてあると思っているんじゃない」
世間や社会はそう甘くないぞ。
常識なんてすぐさまに崩れ去るこの世の中でそんなことを言うな。
ルールブックなんて一から作られているわけでもないのに、そんな事を望むな。大人が子供の為に何もかもしてくれるとは思えないし、大人はそんなに万能ではない。というか、無能そのものだ。
そんな大人の衆に、ルールブックなんて与えるな。
社会の生物でなら、空気を読め、辺りを察しろ。そうでなければ社会としていきれない。それを知れ。
「でも」
「お前さんは一体、何になりたいんだい?」
「え?」
「司書だろ? 図書館の」
「え、えぇ」
「だったらさ、ほんの少しは察してくれない? こちとら組織なの」
「………………」
「ご理解できましたか? 何が何であろうとも、反省文を書いて貰いたいの」
嫌味半分で、組織の厳しさを教える俺の言葉に女子高生はどこか苦虫を噛んだかのような表情を見せてくるが、俺にとってはどうでもいい。
世間の難しさを少しは知れ。
「分かったわ」
「ありがとさん」
そして、やっとの思いで女子高生は机の上に置いてある紙に反省文を書いてくれる。
「ねぇ」
「?」
「一つ聞いてもいいかしら?」
「答えられる範囲ならな」
「そう、ならあの人たちはどうなったのかしら?」
「あの人たち?」
一体誰のことだ?
「私と揉め事を起こした人達よ」
「ほぅ、揉め事をしたという自覚はあるんだな」
「ぐっ!」
こいつ本当にバカなんじゃねえか?
自らの罪を自白する犯罪者の様なものじゃなぇか。
苦虫を噛んだかのような表情を見せている女子高生に俺は余裕そうな表情を見せる。
「既に釈放した」
「……」
「なんだ、その顔。不服か?」
「……えぇ」
「あっそ」
確かに問題があちら側にあろうとも、すぐに釈放したのはよろしくなかっただろうが、あちらには既に『一ヶ月の出禁』を突き付けてやった。案外、軽い罪とは言うな。
重すぎると後でクレームが来るんだ。
「ま、罰は与えといたよ。痛くないほどにな」
「……」
俺はそんな呑気な事を言うが、女子高生はどこか疑うような視線を向けていた。
「はい、これでこの話終わり。さっさと戻れ、もう時間。集合時間」
「あ」
俺はそういいながら内ポケットから懐中時計を取り出すと、女子高生にへと向ける。
すると、女子高生は驚いたような表情を見せていた。さすがに、優等生様には時間厳守をしていない状況はあまりよろしくはないだろう。ガタガタと音を鳴らしながら、司書室から去った。
「ん?」
だが最後に変なものが見えた。
彼女の袖の下から……まぁ、さすがに見間違いか。
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