第17話 面倒事はNo Thank you

「んあ? もう時間かな?」


 先ほどの出来事なんか無視をして、自分は先程から座っていた椅子で静かに寝ていると、胸元から微弱な振動を感じて目が覚める。


 胸元から懐中時計を見ると、既に仮眠時間が終える時間であった。


「にしてもよく寝た」


 久しぶりの睡眠はこれ程、気持ちよかったものか。目がしパしパするがさすがに起きなければ、自由時間で生徒たちを視なければ、監視かつ護衛お守り役としての仕事を真っ当にできない。


「っと、あの童共どこに行ったのかねぇ?」


 さすがに仮眠していた影響か、誰がどこに行ったかさえも把握していない。


 それに大体、今の一クラスの人数は三十人近くって所かな? あぁ、昔はまだ三十人だけど…………最近は、少子化で減ってんだっけ? となると二十人が妥当かぁ?


 …………三十人じゃないことを祈るしかないんだよね。ましてや四十人なんているのなら、もう俺諦めるよ?


「にしてもどこだよ。あの小童共」


 頭をがりがりと掻きながらも、俺は探す手を辞めない。


 けれども、ここの図書館は何年もいるけど予想以上に広く探す領域はばが、一人では到底難しいものであった。


「何するのよ!!」


 ………………あぁ、了解。一人見つけた。

 この声、あぁ、女子高生一号かな? まぁ、いいや。


 中庭近くを散策していると、どうやらあの女子高生第一号は中庭にいるようで、その声音と内容から誰かと争っているように聞こえた。


 うへー、まじでか。できることなら、争いごとはNo Thank youなんだけど………。


  けれど、困っている人がいるのなら助けなきゃいけないし………図書館内であるのならなおさらだし………本当に面倒くさい。


「けれどなぁ………」


 行かないとこれはこれで聖さんからどやされる。めっちゃっどやどやされる。


 そうなると、長くなるんだよなぁ。書類処理………。


「よし、行くか」


 あのような地獄に近い状況に行きたくはない。


 そう決めると、自分はすぐさま行動に移す。


 女子高生第一号の声がする方へと向かい、状況を見る。


「何をするのよ!?」

「うるせぇな! そっちが勝手、ぶつかったんだろ!」

「いいえ、あれは確実にあなたがわざとぶつかってきたわ!」

「んなことどうでもいいじゃねぇか!」

「それに、今あなたが持ってい本は紫藤さんが先程持っていた本です。あなたはそれを奪ったのですか!」

「うるせぇな! これは俺が最初っから持っていたんだよ!」

「嘘ですね。先ほど、紫藤さんが借りているところはこの私の目がきちんと捉えていましたから」

「ちょ、ちょっと、二人とも落ち着いて………」


 ………………………子供かよ。


 なんというか、ちんけと言うか、低レベルと言うか………気にした俺が馬鹿だった。


 急いだつもりで近くまで来たが、会話の内容が聞こえると、どうやらぶつかった奴は誰かなぞとどうでもよい話ではあったが、貸し出した本を奪う、と言う形はあまり宜しくないと俺は考える。


「………止めるか」


 さすがにこんな所に、ただ呆然と立っているのは問題になるかもしれない。


「ふざけんなよっ!」

「!!」


 そうすると、言い争いをしていた男性が手を思いっきり上げる。


 ……………さすがにそれは、


「目に余るものがあるんだよなぁ」


 俺はそう言うと、すぐさま動き出した。


「何をしていますか?」

「「「!!?」」」


 タイミングよく、けれどもほんの少しでも遅れていたら女子高生第一号にその男性の振り上げた手が当たるかもしれなかった。


「もう一度聞きますよ。何をしているんです? ここ、一応図書館の中と言うこと忘れていません?」

「なっ、あ、えっと」


 さすがにここで司書が出てくるとは思わなかったのだろう。男性はすぐさま振り上げていた手を下げて、何か誤魔化すかのように、慌て始める。


「……………再度確認いたします。一体’’何をしていたんですか’’’’’’’’’’?」


 俺は更に威圧を掛けるかのように、彼らに話しかける。


「な、何も「嘘ですね」、!!」


 震えながら答える男性に対して、俺はすぐさま否定の言葉を入れる。


 それにしても、それほど、俺らが馬鹿に見えるのだろうか? 目は節穴では?


「な、何をっ!?」

「先程の会話、聞かせて貰いました。ぶつかった事には何も言いませんが虚偽の内容及び館内による暴言、暴力は目に余るものがありますから」

「…………そ、それなら、あいつらはどうなんだよ」


 すると女子高生第一号に手を振り上げた仲間と思わしき男性がなぜかしゃしゃり出て、そのような事を言ってくる。


「彼女たちですか?」

「あ、あぁ、嘘をついているかもしれないだろ」

「嘘? 何のことでしょうか?」

「こ、この本のことだよ!」


 …………本当に馬鹿だろ。


 俺は、そう思いながら半ば憐れな目でしゃしゃりだした男性を見る。


「では、照合いたしますのでカード出してください」

「は?」

「『は?』、じゃありませんよ。図書カード持っているんでしょ? それ借りたなら図書カードに貸し出し記録が記載されているはずですから」

「………………」


 俺がそう言うと、しゃしゃり出た男性は徐々に顔を蒼く染めていく。

 本当に馬鹿だろ。


「………もしかして持っていないのですか?」

「………………」

「では不法持ち出し、と言うことになりますが?」

「……………………て、てか、ここは館内じゃねぇじゃんか!」

「んな御託は良いんだよ。出すもん出せや」

「は?」


 おっといけない。つい本音が………、


「何か勘違いしているようですが、ここは第二十三区国立図書館の敷地内ですから、十分、館内と言うことになります」

「…………は? そ、そんなことは良いんだよ」

「あんた達が先に言ったんだろうが」

「「「!?」」」


 おっと、また本音が。

 つい油断すると、すぐに本音が出てしまう。



「で? 図書カードは持っていますでしょうか?」

「…………………」

「持っていないんですね。なら、ちょっと、俺と一緒に司書室に来ましょうか?」

「っ、なんでそんなことで行かなきゃいけねぇんだよ」


 何でって、不正貸し出しをしようとした奴を取り締まるのが司書の役目を持っているし、不正、いわばルールから外れた間違った奴をみすみす見逃す馬鹿はいない。


 てか案外常識だろ。


「……………来ないのですか?」

「行く訳ねぇだろ」

「なら理由を変えましょう。不正貸し出しではなく、暴行未遂、及び脅迫、迷惑行為で取しませさていただきます」

「はぁ!? お前にそれほどの力があるのかよ!」

「ありますよ。一応、司書なので」


 万引きをした少年少女をスタッフルームに連れていくのと同じく、迷惑行為を取り締まる司書のこの行為は許されるものなのである。


「なにおうっ!」


 あぁ、抵抗するのか。


 なら、


「拘束させていただきます」

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