第14話 案内
「~ではお願いします!!」
「あっ、はい」
もうそろそろ行こうかと思った瞬間、女教師に呼ばれ結局、心の準備ができないまま生徒の集団の前へと晒された。
「………あぁ、えっと、今回、案内をする松本 命都です。…………まぁ、よろしくお願いします」
「「「…………」」」
まぁ、こうなるよな。多分、俺のことを知らない人がいるとは思えないし、まず、こんな挨拶の時点で何人かに引かれているに決まっている。
「よ、よろしくお願いします!」
「!?」
するとどこからかそんな声が聞こえる。
おぉ、こんな半ば屑野郎にも挨拶をしてくれる奴がいるんだな。おじさん、少しだけ嬉しい。
そして、その挨拶に引かれる様に次々と挨拶が湧いて出てくる。
「……………何だか有難うございます」
やっと、そのよろしくお願いしますコールが収まると、俺は次の段階へと移す。
まぁ、本音を言うとさっきまでの行為、とてもじゃないほど無駄な時間だった、ということは黙っておこう。世の中には、口に出していいことと出してはいけないことがある。
「では説明を、今回の案内に関しては大体の説明を終え次第、自由行動のための時間は取ってあります。質問がある方はその時にお願いします」
俺がそうやって説明すると、さすがに『司書科』の生徒たちと分かる。すぐさまスイッチが入れ替わり、生徒たち全員がポケットの入れていたであろうメモ帳でメモをし始める。
「では次は注意点です。えーっと、注意する点と言えばここは公共の場であるため走り回ったり、大きな声で喋らないでください。あとはできる限り、…………無いと思いますが飲食は可能場所以外は厳禁です。飲食をしたい方は、近くにいる職員にイーストスペースがあるところを教えて貰ってください。イーストスペースで出たゴミは持ち帰ってください。貸し出しなどは既に学園側で説明を受けていると思われていますが、本と生徒手帳さえあれば貸し出しは可能です。………他に……あぁ、あと最後に、ここでは立ち入り禁止エリアがあります。そこには関係者以外立ち入り禁止なので、入らないでください。入っても私たち一同、責任は一切持ちませんのでご注意ください。では説明は終わりです。次は案内に入らせてもらいます」
俺がそうだらだらと長ったらしい話をしながら歩き出すと、クラスの集団もそれに付いてくるようにゾロゾロと歩き始める。
そこからは何というか、一度でも人生経験した人はいるだろうけど図書館の案内&見学とは案外、つまらないもので、それを口で説明するにも難しいものがある。
最初は、何気ないエントランスから各本のコーナーを見せ、徐々に慣れると多目的ホールやインターネットルームなどの本当に図書館に必要か、と思わせる所まで見せる。
まぁ、確かに利用者は使用しないであろう場所も俺たち司書達にとっては必要なところが多いからなぁ。最近は福利厚生なども厳しくなっている面があるため、上はそうことを気にしている一面があり、利用者と現場で働いている人に挟まっているのだから苦労は絶えないだろう。
中間管理職も、そして、案外苦労しているかもしれない………言いたくはないが政治家さん達も苦労しているのかもしれない。
思想は、誰とでも付き合ってくれるとは思わないから。
「ではこれで、案内を終わりにします。これからは自由行動です。禁止事項をきちんと守り行動してください」
「では、解散です!」
俺がそう言うと、女教師は解散の合図を出し生徒たちはすぐさまに蜘蛛の子が散るように皆、行きたいところへと向かった。
そんな中、説明&案内を終え俺はその場を去るように、近くに置いてあった椅子に座り半ば項垂れながら欠伸をする。
「うへぇぇぇぇぇ」
欠伸を終え、口の中から今まで通りの疲れが出てくる。
「………お疲れ様」
「あ?」
すると声がかかり顔を上げるとそこには先ほどから鋭い視線でずっと俺のことを見ていた女子高生がそこには立っていた。
「………わぁ」
一応、驚いた顔はしとく。
「何よ。その顔」
「疲れてんの」
「はぁ、本当に呆れたわね」
「ごめんなさいね」
「……で、話は変わるけど」
え、なんで、変わっちゃうの? そのままでもいいじゃん。
「歴史や御伽話に関係するところをどこかしら?」
「はっ? 急に何?」
意外な質問に一瞬だけ引いてしまう。
「何よ! 駄目かしら」
「駄目じゃないけど、もう少し静かにね」
「!! で、あるのないの?」
「ありますねぇ。大人版? それとも子供版?」
「大人」
「了解。アダルトね」
「その言い方やめてくれないかしら?」
「えー」
なんで、おたくがあれやこれやって自分に言いつけるんだろうかねぇ? 俺の勝手じゃんか。
注文の多いお客さんは嫌われちゃうよ?
「で? なぜに?」
「司書はそこまで聞くのかしら?」
「いんにゃ、ただの好奇心」
「好奇心で、人のプライベートまで入り込む」
「それなら、初対面の人に対して暴言に似たようなことを言うか?」
「…………言わないわね」
「だろ?」
「けど、それとこれとは関係ないじゃない」
「関係はないが一緒だよ」
「何よそれ」
「さぁ?」
そう言われても俺自身、何言ってんのか分からない。虚言癖とは言わないがそれに似たようなものだ。
「……………………………私も少しは興味あるのよ」
「!!……そ」
女子高生は一瞬だけ顔に影がかかったが、俺はそれ以上、踏み込もうとしなかった。
踏み込んだ所で、何か解決できるというわけでもない。
こういうのを、多くの人は自分勝手なぞいうのだろうか。案外、人間自身そういうのが多い。
逆に踏み込んで、何かをできるとか、全く思ってはいない。
聞いて何もできない状態なら、そりゃ無粋のだから。自分勝手よりはそっちの方が嫌かな。俺は、
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