第12話 指令書
小娘が帰り、司書室に俺だけ残る。
「はぁ……」
重い溜息を吐くが、それを重量的なことはないのでただ部屋の中に霧散し消えていく。
「…………………」
沈黙がただ司書室の中に響き続ける。どこで選択を間違えたのだろうかと、そんなことを考えながら目の前にある机を見つめる。だが、それを見たところで何も解決はしない。ただ空虚だけが自分の頭の中に残り続けた。
コンコン、
「いませんよ~」
「失礼します」
「いませんって言いましたよね!?」
「返事が聞こえたので、居ると判断しました」
「…………」
扉を開けて入ってきたのは、毎度恒例となりかけている。いや、恒例か。まぁ、長洲のおっさんの秘書、聖さんがいた。いつも通り表情が硬く、一目見たらピリピリしてるように見えた。
「どうしたんですか?」
「用がなければここには来ません」
「ですよね」
「そうですよね」
「…………………」
聖さんは表情一つ変えず、ただ俺と会話していた。
「で、用とは?」
「上層部から手紙です」
「アナログだなぁ」
「いいから受け取ってください」
聖さんはそう言いながら自分の前にその上層部の手紙を差し出すと、俺はその手紙を素直に受け取り、読み始める。
「………………はぁ、了解」
手紙には、なんというか俺の嫌い、苦手な任務が書かれており、その任務とは、『私立
別に楽な仕事だが、無駄に体力を使う仕事なのだ。
「はぁ、まぁ、分かっていたけれど」
「?」
「いえ、なんでも」
不思議そうな顔で見てくる聖さんを無視しながら俺は手紙をただ茫然と見る。
それより、これが見学するのが鳳堂龍璽学園の生徒というのがほとほと面倒くさいのである。なぜなら、相手の学校は俺の出身校であり、表立って言ってはいないが我々、司書を生み出すための学校なのだから、面倒くさいのである。
「どうかしましたか? 貴方の母校ですよ?」
「あ~、母校だからです」
「上京して入った学校ですよ?」
「知っていますよ……………って、待ってください。なんであんたがこの手紙の内容知っているんですか」
「私は支部長から聞きました」
「この手紙送ってきたの長洲のおっさんだなぁ!?」
「…………」
この野郎、野郎じゃないけど野郎……しらばっくれやがった。
俺がそのまま眉間を抑えながら椅子にもたれかかる。
「一体、あの人は何がしたいんだ」
「で、仕事は受けるんですか?」
「受ける以外にあるんですか?」
「ないですね」
「あ、そっすか」
そうストレートに言われると苦しいなぁ。
「じゃあ、受けますよ」
「分かりました」
「………………てかなんで隣にある学校がここに来るんですかねぇ?」
大きな窓から映る先には大きな木々と舗装された道、その上を通る多くの人々、そしてそんな道の横には車道を挟み、朱殷色の大きな校舎の壁があった。
「実習なのでは?」
「現地実習? それならもっと分散させたほうが、『司書科』としては嬉しいのではないのですかね?」
「小学生の社会勉強みたいですよ」
「うちら、そんな扱いなんですか……」
現地実習の怖いイメージじゃなく、小学三年生で行った工場見学と同じレベル!? もうここ必要なのかな!?
じゃあ、俺ら工場に働いているおばさん達なの!? まぁ、あの人たちってすごいなって思うけど!?
「まぁ、冗談です」
「そ、そうすか」
聖さんがジョークなんて言うの珍しいな。真顔で冗談なんか言いそうにないのに、長洲のおっさんもそんなこと言いそうにないのに………どこで悪影響受けたんだ?
「遊園地レベルです」
「誰だぁ!? この人に冗談というもの教えた人ぉ!?」
さすがにここまで行くと病気の類だよ! もう重症だよ。何、平然とした顔でジョークなんか言っているんだよ。もう、そこまで行くと普通に見えないよ!?
ドアを思いっきり開け、そう叫ぶが近くにいた人たちから遠くにいた人が一斉にこちらを向いてい来る。
「何しているんですか。静かにしてください…………すみませんでした」
ガチャ、
聖さんが俺を引っ張り司書室の中に引きずり込むと、聖さんは静かに平謝りしながら扉を閉める。
「何しているんですか」
「うす」
「ここ、図書館ですよ? 司書とあろう人が騒いでどうするんですか」
「う、うす」
だってここまで聖さんがジョー君なんて言うとは思わなかったから、少し取り乱しただけなんです。
「まったく、それでも国立図書館の司書官なんですか?」
「一応、書類上はそうです」
「そうですか………消しときますか?」
「勘弁してください」
そこまでやる地位にいるのでいつ俺の書類状の扱いが変わるのか可笑しくないのだ。あいて支部長の秘書ですよ? いつ消えてもおかしくないですよ?
さすがに書類上では今の地位だけど、これでも苦しくなるんだから勘弁してください。
「はぁ、なら少しは落ち着きというものを持ってください」
「ういっす」
俺は床に正座をしながら聖さんの足元を見ていた。
「では、受託ということで」
「はい」
「では、きちんと準備してください」
「うぃす」
「そんな返事ではだめですよ」
「はい」
「できましたね」
聖さん、御宅は俺の母さんか。いや、実際の母さんというか姉に言われるかもしれないな。
まぁ、そういうことは置いといて、俺は再び椅子に座ると、聖さんは短い挨拶をすると、そのまま部屋を出ていく。
「………はぁ、本当に疲れるよ」
自分はその姿を見るとそのまま椅子に項垂れながら机の上に置いてあった本を取り、読み始めた。
「明日から、大変だ」
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