第11話 小娘

 ズズズッ、


 エンカウント直後に『認めない』発言をした小娘は、目の前にいてご丁寧にも俺の出した茶を啜っていた。


「何、呑気に飲んでいるんだよ」

「何? 飲んではいけないのかしら?」

「そういうことじゃねぇ。何、俺の部屋で呑気に茶なんぞ飲んでいるんだよ」

「あら、心外だわ。お茶を出されたから飲んでいるだけよ?」

「…………………」


 こいつ、イラつく。


 茶色い髪を靡かせながら、俺が出した紅茶を飲んでいた。


「………おい」

「おい、とは何かしら? 私はきちんと名前があるのですけど?」

「……もうちょっと綺麗に飲めよ」


 それにお前の名前なんてどうでもよいわ。


「!!」


 小娘は、口の中にある紅茶吹きそうになると先ほどまで持っていたカップをすぐに置き、口元を抑える。


「…………な、なによっ!」

「お上品ぶるなら、もうちょっと静かに飲めや」

「…………」


 すると小娘は、静かに茶をすする。


 そうだ、それが本当の流儀だ。静かに茶を飲むこと、これが本場に似たやり方だ。単に本場のやり方が好きなわけではなく知り合いがその飲み方をしていただけだが……。


「……で? なんで認めんと?」


 やっとここで本題に入る。


「…………………貴方の不適切なことが多いからです」

「不適切、とは?」

「司書でありながら自堕落な生活で勤務態度も悪いと聞いたからです」

「…………………あっそ」


 一体、どこからそんな話が出たんだ?


 目頭を押さえ、その話の発生源を考え始める。


「私は司書になりたいんです。けど、貴方のような人がいれば司書全体の評判が落ちます」

「……そう、それが?」

「貴方の行動は許されないことなんです!」


 半ばやけくそじゃんか。


 小娘が言いたいことは大体分かるが、この支離滅裂な内容はまだ直接、愚かと言われる方がまだよい。


「………支離滅裂」

「はい?」

「いや、気にしないでくれ」

「…………………」

「………お前にとっては嫌なことかもしれないが、組織にとっては必要なんだよ。それに俺は誰にも迷惑をかけているつもりはない」


 この言い訳に関しては何個か俺は嘘をついた。


 長瀬のおっさんや聖さんとかに迷惑はかけている。まぁ、極わずかだけど、俺より迷惑かけている人物はこの世界に入ってしまえば嫌というほどいる。俺なんてまだましな方だ。


「………そう。ですけど、きちんと司書の仕事をしている人がそういうことを言ってください!」

「そうすか」


 真面目そうな顔で怒ってくれてる小娘に対して、ポリポリ頭を掻いて答えると癪に障ったのか更に大きな声で怒号を飛ばしてくる。


「ふざけないでください! それが、司書としての姿ですか!? 人の話を聞く態度ですか!?」

「知らないよ」

「…………」


 この子、真面目だな。真面目過ぎて振り切りすぎるタイプだろ。それとも正義、という名前を背中に何でもかんでも噛みついてくるタイプだろうか? 真面目なタイプなら、クフ王や安〇首相みたいに空振りタイプの可能性があるよな。


 だがそれに関係なく、小娘は大きな声で俺のことを注意付けてくる。


「お前にとっての『司書』と俺にとっての『司書』は全くと言っていいほど逆だ。別に俺は偉いから、とか関係ないよ。俺は単に………」

「単に、なんです?」

「いや、何でもない。お茶、飲んだらさっさと帰りなさいや」


 自分は無理やり話を切り上げる。


 このタイプの話になると長続きはしない、というか長続きさせない、の方がいいと感じる。ただ俺の傷口を広げるだけなのだから。


「…………」

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