第10話 出会ってはいけない出会い

 目が覚めると、既に日が傾き始めていた。


 俺は懐に入れてある懐中時計を出すと、そこには三時二十八分という中途半端なところに針が向いていた。秒針は、それでも進み続け、時間は過ぎていく。


「早く戻らなきゃ」


 さすがに寝すぎたと思うが、前は五時近くまで寝てしまって夜寝れなかった時があったし、その時は聖さんのお説教も一緒にされたからなぁ。少しだけ急がなければいけない。午後に執務がないとはいえ、一日は短い。時間なんてあっという間に消えてしまう。それは過去の思い出と共にいとも簡単に泡のように消えてしまう。


「本、取りに行くか」


 図書館の中に入り、目的の物を探す。


 手帳を翳し、Level制限が掛かっている場所に入り本棚から三冊か本を出す。


「………」


 目的の本を取り出すと、それをそのまま脇に挟みLevel制限が掛かっているところから出る。


 カツカツカツ、


「ねぇ」

「うわ」


 するとどこからかヒソヒソと話している声が聞こえる。


「…………」


 だが自分には関係なかった。そんな話を聞いているほど俺は暇ではなかった。


 パスッ、


「キャッ」


 すると誰かとぶつかる。足元を見ると、そこにはセーラー服に似ているブレザーを着ていた女学生がいた。


「大丈夫?」


 目の前に倒れている女学生に手を差し伸べると、女学生はなぜか呆けたような顔でこちらを見てくる。


「何か?」

「貴方って『怠けの松原』」

「? そのあだ名は知らないが松原なら俺だが」

「そう、そうなのね」


 すると女学生は俺の手など取らず、そのまま立ち上がり俺の前に精一杯胸を張って言う。


「……私は貴方を認めないわ!」

「は?」


 いきなり『認めない』宣言。


 これが皮肉にも俺とこの小娘との初めての対面で出会いだった。

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