第3話 司書室の主《マスター》

 国立図書館———、


 ガラガラガラッ、


「~~~♪」


 大きな図書館の中で一人の男が鼻歌交じりに小さなカートを走らせる。


 バサッ、バサッ、バサッ、


 そして、黙って次々と本をカートの中へと入れていき、本の山を積み上げていく。そして、目的の本を入れ終わると次の目的の本がある本棚へと向かうためにカートをまた再び走らせる。


 ガンッ!


「キャッ!!」

「あっ、ごめん。大丈夫?」


 するとカートが通りすがりの司書の人にがぶつかってしまい、俺は顔を見せて謝罪をする。


「あ、大丈夫です」

「そう」


 相手は、どうやら大丈夫だというので、俺はぶつかってしまった所と相手の顔をちらっと見ると再びカートを走らせる。


 俺が走らせるカートの後ろから冷ややかな視線とひそひそと声が聞こえるが俺はそれらを無視をして、目的の本がある本棚へとカートを走らせる。


「あった、ここかぁ」


 目的の本がある本棚に着くとその本棚から目的の本を取り出し、カートの中に入れると、俺はカートを押していつものように司書室の中に入っていく。


「はぁ、ヤダヤダ」


 俺は現実から背けるようにカートの中に入っている本を取り出し、読み始めていく。ソファの上でゴロゴロと読むのも良いがあれは体が痛くなるからできる限りやりたくはない。だからこそ、軽くソファによっかかる程度で本を読み続ける。


 コンッコンッ、


「?」


 すると、突然、ドアがノックされる。


 今日は、誰か来る予定なんかあったけっ? と考えながらもドアの方に向き、ノックの返事をする。


「はい?」

「失礼します」

「あっ」


 ガチャ、


 返事が聞こえた瞬間、嫌な予感がした。というか、今日一番聞きたくない声が聞こえてしまい、ドアが開くのと同時に本を手から滑り落してしまう。


「………おはようございます」

「あー、おはようございます」


 既に御昼近くだが、部屋に入って来た本人はきちんと挨拶を済ませる。


「今日もいつもながら汚らしい部屋になっていますね」

「あはは……」


 部屋に訪問してきた本人はきりっとした目で部屋を一周してみると、氷のような声で俺に向けて言ってくる。


 うへぇ、確かに最近、片づけなんて一切、やっていないから部屋が確かに本だらけなっているけど、そう言われると辛いものがある。


「……はぁ、少しは片づけぐらいはしてください」

「へーい」

「はぁ」


 彼女からそう忠告を受けると、俺は項垂れながら返事をした。


 すると、訪問してきた来客が俺の部屋にある本を片付けていく。


「……ってちょっと待ってください。なんで、目黒通さんいるんですか!?」


 俺は訪問者、目黒通 聖めぐろどおり せいさんに対して驚いた声で質問する。


「なんでって、貴方の秘書だからですよ」


 そう言いながら本を持ち抱えている聖さんは、きりっとした目をしながらも毛先の一本一本まで手入れされているであろうブラウンのロングヘアをしており、それに似合いそうな軍服か修道服のようなキャリアウーマンスーツを着ていた。


「いやいや、御宅、長洲支部長の秘書でしょ」

「えぇ、そうですけど。……ですが、支部長から貴方の秘書業務と管理を頼まれていますから」

「あっ、そう」


 このように、彼女、目黒通 聖は、長洲支部長の秘書であるが、彼女は一応、自分の秘書(仮)をしてもらっている。にしても、そんなブラックな内容、よく受けれるなぁ。


「貴方はともかく、長洲さんはきちんと一人で書類のチェックなどの仕事を終わらせます」

「ぐふぅ」


 何気ない聖さんの言葉が俺の心を傷つける。


 確かに事実だけど、そう冷たい目でこちらに言われると少しだけ辛いもの、いや、十分、辛いものがあるんだよなぁ。そして、そんなことが関係なないかのように聖さんは次々と置いてあった本を片付けていく。


「あのすみません」

「はい? 何でしょうか?」

「この本を、元の場所に戻してくれませんか?」

「こ、この量をですか……」

「すみませんが、お願いします」

「は、はいっ」


 俺がそんなことを考えるうちに、聖さんは部屋の前に通りかかった女性司書さんに聖さんが持っている本の山を渡し再び部屋の中にある本の山を片付けていっている。


「まったく、きちんと読んだ本は元の場所に戻してください! 先程、任せた子、渡した量に引いていましたよ!」


 それは片手で二十冊程、持っている貴方が化け物だからでは?


「戻しているよ。ただ需要と供給とバランスが悪いだけ」

「でしたら、バランスよく!」

「へい」


 聖さんがそう厳しく注意、軽々と本の山を片付けていく。それに合わせるかのように、女性司書さんが大変そうに走っている。


「………手伝お」


 さすがに化け物元 回収者についていく女性司書が可哀そうに、なってきたので俺も部屋の片づけを手伝おうかと思った。……まずこの部屋、俺のだった。

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