第2話 プロローグ
ポタッポタッポタッ、
空に浮かんでいる形容しがたい怪物になりかけている物と、その母体となっている少女をただ俺は眺める。形容しがたい怪物を中心に、空は赤黒い色と共に黒い暗雲が広がっていく。
「あっ、あっ、あっ」
その光景を横で目の当たりにしながら座り込んでいる少女を横目に俺は彼女を安心させるかのように肩を叩く。
「安心しろ」
「えっ」
座り込んでいる少女を背中に、目の前に映る巨大な怪物とその怪物の足元にいる胡散臭い宗教衣を着ている男を俺は見つめ、
「まったく、くだらんものを作るな」
と語る。
「くだらない……ですか。どこがですか? これほど素晴らしいものがどこにあるのですかぁ!?」
大きく叫ぶ宗教衣の男に自分自身、乾いた笑いしか出てこない。
「これのどこが素晴らしい? 醜悪極まりないものではないか」
ヘラヘラ、と笑いながら俺はかつてこの眼で怪物を眺める。
あぁ、まったく汚らしい。あの時見た怪物の方がまだ美しい。
「お前にとっては、あの時の再現をしているようだが……これじゃあ、あの時には程遠いな」
「何、分かっているように言っているんですかぁ? 雑魚の人間のつもりにぃぃ」
「ははっ、そうですよ。雑魚です。そんな雑魚に今からお前は、………絶望見せられるんだよ」
「!!」
あぁ、何というか、まったく、まったく!! 汚い。汚い。汚い! あの時の再現なんて、汚らわしいっちゃありゃしない。
沸々と心の中に起こりゆく怒りを思いとどめながら、宗教衣を着ている
だが、 もう遅い。
「………おい、絹娘」
「何?」
俺は、後ろに座り込んでいる少女に向けて話す。
「あいつ、救えるかわからない。けど、別に殺してしまってもいいだろう?」
「!? だ、駄目よ! そんなことしちゃ!?」
「でも、救えない。……だけど、できる限りやって見せる」
「………」
少女は俺の姿、いやいつものようなダルそうな雰囲気では無い事を察し、俺に聞こえないように静かに唾を飲む。
少女の唾を飲む音にさえ、俺は何一つ反応せず目の前にいる形容しがたき怪物を見る。過去に見た宿命の相手もどきを……。
「だから、……………誓え」
「え?」
「誓約だ。俺は
「…………分かった、誓う。なら、
少女は大きな声で宣言する。
「ふっ」
乾いた笑いと共に、胸の奥底にある何かが開く。思考がモノクロになり、視界が一気に広くなる。それだけではなく、肺の中に入っていく酸素の量が多くなって体の隅から隅まで血流が流れる感覚さえもが感じられる。
「了解した」
右太腿に挿してあったナイフを取り出し、素早く持ち替えると形容しがたき怪物に向かってナイフを向ける。
「ふぅ」
「何をやっているんですかぁ? そんなナイフで、私たちが生み出した旧世界の神に勝てるんですかぁ! もっとも弱小の人、間、がぁ!」
「一つ質問」
「?」
俺は宗教衣の男の言葉をと途中で遮るように、先程までと違う声音で宗教衣の男を見る。
「それが、
「えぇ、えぇ! これは人間が絶対に勝てない存在。旧世界の支配者の一人『クトゥグア』なのだからぁ!」
宗教衣の男がそう大きな声で宣言してくれる。
《あれが》?
俺はその答えを聞いた瞬間、思考が停止するような感覚に見舞われた。
目の前に映る何とも言えない形容しがたき怪物。それが、それが………、
「ふっ、ふふふふ」
「何が、おかしいぃ? 人間」
「何もかも」
自分はまるで宗教衣の男がやってきた事を全て嘲笑うかのように、憐れな目で視ながら嘲笑の声でただただと言葉を言う。
まったく、先ほどまでの緊張感を返して欲しい。
「あれが、『クトゥグア』」
「そうだぁ! 人間ン、あれが! 旧支配者の!」
「笑わせてくれる」
「………………はっ?」
自分の答えに宗教衣の男から呆気ない声が聞こえる。
「あれが『クトゥグア』なのなら、あの戦いがまるで茶番だ」
徐々に炎を纏いつつある巨人のような怪物を眺めながら言葉を並べ宗教衣の男に言う。
「お前が『クトゥグア』といった不良品は『炎の精』になれるかなれないかの欠陥だらけの不良品だ」
「なっ! あ、あ、あ、あり得ぬ。そのようなでたらめな事を! お前如きがかの姿なぞ、見た事もあるまいし!!?」
宗教衣の男がなぜか慌てながらこちらを見てくるがもう遅い。
「お前が今から目にするのは本当の『クトゥグア』を目にし、『クトゥグア』より上位の神々を討った
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