第4話 執務
「終わりました」
「終わりましたね」
「きゅ~」
俺の部屋が久しぶりに綺麗な状況になっていた。本がほとんどなくて、必要最低限の家具と机の上には探して見つかった書類の山が乗っかっていた。ぐふぅ。
「……なんで女性司書君が?」(名前を知らない)
「手伝ってくれたからだ」
「あぁ、そうですね」
俺の部屋にあるソファの上で女性司書がかわいらしい声を上げながら横になって倒れていた。
俺もそこに座りたい気分なんだがなぁ。
「貴方が座るのは椅子は椅子でも、ソファではありません」
うぐっ、聖さんからの冷たい視線が俺に突き刺さる。
わかりました、と俺が言うとそのまま執務机が前にある椅子に座りそのまま聖さんの監視の元、しぶしぶ書類にサインを書いていく。
「まったく、きちんと仕事をすれば早く終わるのに、なぜ貴方は仕事をしないのですか」
「無所属の俺にそれ聞いちゃいます?」
「一応、所属場所はあるじゃないですか」
「うへえ」
まぁ、ありますけど……正式では、ないような気がするんですけど。
聖さんに痛いところを突かれながらも、ただ淡々と書類を終わらせていく。にいても、この書類らは一体、どのくらいたまっていたものだろうか?
「大体、三か月近くです」
「あ、はい」
先程から聖さんから心が読まれている気がする。というか、読まれている。心を読む、ということは無いが、先ほどから姿や行動で俺の心が読めれている気がするのですけど?
「貴方が行動によく出るのが悪いのです」
「あぁ、そうですかぁ」
俺ってそんなに出るのかぁ。今後、気を付けようかなぁ。
「で、一体、あの子はいつもまでいるつもりなんだい?」
俺が指さした先には、先ほどまでソファに倒れていた女性司書が俺のソファに座っており、そして、いつの間に出されているお茶とお茶菓子を食べていた。
「えっ、いちゃだめですか?」
「いやぁ、いてもいいけど、変な噂立つよ?」
「変な噂、ですか」
不思議そうな顔でこちらを見てくる。
あれぇ? この子知らないのかなぁ? 新人さん?
「えっと、知らない?」
「はい、何か噂になっているんですか?」
「あぁ」
「この方、松原
「ぐふぅ、聖さん、よく本人の前でそれ言えますよね」
まぁ、よく言われているから平気だけど。平気だけど。
「あぁ! 知っています! 本の毒虫って言われている人ですね!」
「うぐぅ」
さすがに何も知らない人にこういわれるとめちゃくちゃ心に突き刺さる! なぜかって? 純粋だからな!
つい口から血がでていないか確認する。よし、してない!
「ま、まぁ、こんな使えない老人一人、必要な人間、いるのですかねぇ?」
俺はポリポリと頭を掻きながらも、そう己自身にも痛い所に刺さる言葉を言う。
「今現在は必要ですね」
「うそぉん」
だけど、シリアスな展開が一瞬で消え去る。くそうっ……!
聖さんにトントンと、書類にペンを叩きながら言ってきた。
「それに今、必要なくても
「あー、分かってますよー。どうせ、俺なんてその程度の人物だすよっと」
俺は聖さんの言葉を遮って机の上に置いてある書類にサインを書いていく。
「あのぅ」
「私、ここにいていいんですか?」
「あ」
そういえば、彼女の事、完全に忘れていた。
唖然とした顔でこちらの方を見てくるが、その茶菓子を食べる手を止めない。
「…………どうしましょうかねぇ?」
「一応、業務の方は?」
「あ、大丈夫です!」
「そうですか……」
聖さんの質問に大きな声で答える女性司書。その答えを聞いた聖さんは何か考え込むように顎に手を当てるが、それでもなお片手で俺がサインを書いた書類を処理していっている。あれ、どうやったらできるんだ?
「……あー、ごめん。君の名前、何だっけ? 聞いてなかったけど?」
「あ! そういえばそうでした!」
俺がずっと思っていた疑問を言うと、女性司書が慌てたように手に持っていたティーカップを置き、内ポケットから
「私は新藤 海里と言います! よろしくお願いします」
なんと、丁寧に証明手帳を見せるとはなんと真面目なのだろうか………ん? 『京都支部 12月8日赴任』?
「もしかして、最近転勤してきたばっかりの人?」
「はい! 京都支部から来ました!」
まぁ、それは先ほど見せてもらったからいいよ別に。
「となる
「は、初めてです!」
「そう……となると、新人になるのか」
「はい!」
「よし、決まった。今日から君をシンジン君と呼ぶから」
「えっ」
唐突のシンジン君呼びに驚くシンジン君。だってしょうがないじゃない本当に新人みたいなんだもん。
「ですが、松原さん。この、新藤さんが新人がなくなったらどうするのですか?」
「さぁ? そこんとこよく考えていない」
正直言うと、俺にとっては関係ないことに近いから。ましてや覚えているのかも疑問だし。
「考えましょうよ」
「えー」
「あ、あの、なんでこのような話に?」
「んー、何だっけ?」
そう言えばなんでこんな話になったか俺も知らないや。
「はぁ、あなたの悪評からです」
「おう、そこからかぁ。長ない?」
そこからこの会話が続いていたらめちゃくちゃ長くなると思うのですか!?
「長くなりますね」
「そうですか……」
長くなるというのなら、少しは考えないといけないのかな。
まずは、シンジン君の対応から……。
「んー、まぁ、ここにいてもいいんじゃない? けど、御茶菓子とか食い終わっちゃたり、次までの時間の鐘が鳴るまではいてもいいよ」
「!!」
「そうですか!」
ふむ、シンジン君は喜んでもらえたようで少し嬉しい。
けど、なぜか聖さんの目がとてもじゃないが怖い。まるで、いつも真面目じゃない奴が真面目な発言をして驚いているような目だった。
「あっ、けど、今後はあまり来ない方がいいよ」
「えっ、何でですか?」
「変な噂立つでしょ」
「あぁ」
あぁ、そんな素っ気ない反応されると少しだけ辛いものがあるよなぁ。
シンジン君は冷静そうな顔で俺のことを見てくるけど、そのままだと……まぁ、いいや。
「で、なんで、聖さんがそんな目で見てくるんですかい?」
先程から変な目、というか怖い目で見てくる聖さんに俺は理由を聞こうと話しかける。
「だって、貴方が真面目に執務をしていることに驚いています」
「あのね? 僕にも真面目に仕事するという時あるから」
「それが毎日あればよろしいのですが……」
「それに付いてはごめんなさい」
「反省しているのならきちんと、姿に表してください」
聖さんから厳しい一言を受け取ると、俺はしぶしぶ、目の前にあった書類を処理し続ける。内容を流し読みをして、頭の中で理解すると、すぐにその書類のサイン記入欄に名前をスラスラと書いていく。
「は~、早いですね」
するとシンジン君から驚いたような声が聞こえてくる。
「これぐらい、普通じゃないか?」
「えっ、そうなんですか?」
「いえ、早い方ですよ」
「へぇ」
自分自身の作業速度が速いと言われるが、喜ばしい一片、喜んだ瞬間、怒られるから喜んではいけないという緊張感に似ている物に挟まれて変な気持ちになっていた。
「普通の人ではそれほどの執務量を一時間近くで処理できるのは私が知っている中では少ないですよ」
「そうですか……」
あ、ちょっと嬉しいかも。
「……この書類は? なぜ、サインをしないので?」
「えっ、あぁ、それ?」
聖さんが差し出した書類は、東京第四区支部の書類だった。これかぁ、これねぇ……。
「それね、作戦には杜撰すぎるし、何よりもこれに賛同させるの内の所、絶対いらないよね。てか、この書類、絶対長瀬の旦那にできますよね」
俺は半ば嫌そうな顔で、聖さんに説明すると聖さんは何も言わなかったが理解してくれたようだった。やはり、こういう時に理解値が高い秘書は便利だ。
「まず、俺ってそんな偉くないのに……この書類とか全て長瀬の旦那に送り返そうかな……」
「それだと、長瀬さんの仕事が増えてしまいます」
「うす」
俺は渋々、上が本来やる書類さえも消費していった。
「あぁ、面倒臭い。ちょっと、休みたいね」
「休んでもいですが……知らないうちに仕事が増えますよ?」
「まだ、午前中だから良くないかな?」
「なら、終わらせてください」
「うへぇ、了解」
俺は聖さんに言い組められてそのまま書類の処理を進める。
「あの、目黒通さん」
「はい? 何でしょう?」
シンジン君は俺の書類の処理作業を手伝っている聖さんに何か質問していた。
「松原さんは、偉いのですか?」
「えぇ、一応」
「一体、なぜでしょうか?」
「………それを答える際には、貴女の身は保証できませんし、貴女の『Level』では教えられません」
「えっ?」
「………」
シンジン君は俺の何かを聞こうとしたけれども、聖さんから何か止められたようだった。そのせいか、聖さんはその言葉を答えを沈黙へと落とした。
「それって、どういう」
「松原さん、ここの件なんですけど……」
「あっ、そこ?」
すると聖さんは逃げるかのように俺の方にやってきて書類を見せる。って、このメーター表示についてかぁ。
「ここね、目視観察した結果をもうちょっと、俺的には欲しいと思う。あれは少し管理を強くしたらいいと思う」
「そうですか……わかりました。少し、上に問いかけてみます」
あれは、少々、こっちでもきついような気がするけど聖さんが上に問いかけるのなら、少しはまともになるだろう。上の方もあれは出したくないはずだし。
「……あ、あの?」
「うん?」
シンジン君は不思議そうな顔でこっちの顔を見てくる。
「管理って何ですか?」
「「え?」」
もしかして、この子、例の件を聞いていないのだろうか?
「もしかして、本の管理ですか!?」
「あっ、うん。そうだけど……」
「でしたら、私もやらせてください!」
「「えっ」」
もしかして、本当に聞かされていない?
俺と聖さんは、なんか言いにくい顔で合わせる。
「え、えっとね? その件なんだけど……」
「無理です。『Level』が無いので」
「ちょっ!?」
せっかく、どうやってオブラートに包むかと考えていたところで聖さんがストレートに答える。先ほどまでの気まずい顔はどうだったんですか!?
「『Level』ですか?」
「……あぁ、うん」
「『Level』って何ですか?」
「はい?」
この子、今、なんて言った?
「『Level』が、分からない?」
「はい、何ですか? もしかして管理制限みたいなものですか?」
「あっ、うん。それみたいなものなんだけど………
「あっち、京都支部ですか? もしかして、あちらの方でも何か関係が!?」
「」
あっ、これ、墓穴掘ったかもしれない。横で、聖さんから何してんだオーラがこちらに照り付けられる。これは本当に間違えたかもしれない。
「えっと、ですね。京都支部での貴方の教育担当及び上司は誰でしたか?」
「はい? 教育担当ですか? それでしたら、観音寺
「」
「命都さん……」
まさか、ここで聞きたくなかった名前を聞くとは……この世の中で一、二を争う聞きたくない名前だった。
「説明されなった、といっていいんだよね?」
「はい……あ、何か悪いことでも?」
「まぁ、ねぇ」
もうこうなるとなんて言っていいかわからなくなる。
シンジン君のせいでも、聖さんのせいでもない、完全にあのイカレ女の差し金じゃないか。
「ですが、管理については」
「いいよ、聖さん」
「ですが!」
「良いよぉ。別に、説明にしてないのはあいつなんだし。これは同じ穴の狢がやったことだ。はぁ、行くぞ」
俺がそういうと席を立ちそのまま部屋を出ようとする。
「えっ?」
「まさか! あれを見せるというんですか!?」
「見せなきゃいけないだろ」
シンジン君は何も分かっていないような顔でこっちを見てくるが、聖さんは驚いた顔をしながら大きな声で俺のことを止めようとする。が、俺はその言葉に止まろうとせず、司書室を出ようとする。
「どした、来ないのか?」
「で、ですが……執務が……」
「聖さん」
「何ですか?」
聖さんは不機嫌な顔で見てくる。
「書類終わったからこれか休憩にするわ」
「…………ちっ………わかりました。後はこちらでチェックしておきます」
聖さんは俺にも聞こえるような舌打ちをするが俺にはどうでもよく、そのまま司書室を出ていく。
「え、えっと」
「行きなさい。今回は見逃します」
「は、はい!」
シンジン君は聖さんの鋭い視線を受けながら司書室を出る。俺がそれを確認すると、司書室の扉をゆっくりと閉める。司書室の扉を閉める際に聖さんの視線が見えたが、ありゃあ、少し怒らせたかもしれない。
なぜなら、聖さんの視線が『あとで始末書書かせるから覚悟していろ。そして、彼女には例のことを黙らせておけ』というものだった。こりゃ、一歩間違えたら俺の首が物理的に飛ばされる。
「気を付けないとな」
「はい?」
「いや、何でもないよ」
何も分かっていないシンジン君は置いていて、俺は先に進んだ。
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