第3話 辺境の異端児

 村人を教育しつつ近代化を図る事2年、俺も10歳になった。2年間で全ての村人に教育を施した結果、俺の村の識字率はほぼ100%になった。結局どこの誰であれ教育さえすれば何とかなるのだ、それにこの世界は何も楽しみが無いので本人にやる気が有れば元の世界より余程良い環境で勉強が出来るのだな、同じ人間、大して能力なんかは変わらない。それに読み書きと足し算、引き算しか教えていないので実際の労力は大した事は無かった、だが計算を覚える事による論理的な思考って奴が一番大事な事なのだ、何でも信じたり疑ったりするのではなく自分で正しく考えて結論を出すと言うのが究極の目的なのだが、まあハッキリ言えば達成するのは無理だな、頭の悪い教授等は掃いて捨てる程いるし、間違った学説が世界の常識になる事なんか珍しくもない、人って言う奴は基本的に馬鹿なのだ、大きな声を出した奴が勝つなんて野良猫の喧嘩の様で情けないが人間社会では普通に起こる社会現象なのだ。

 さて村の強化計画の第1弾は終了した、他にも色々やったが目立つものは衛生状態の改善、此れは生水は飲まない、手を洗う、そして毎日水浴びをするなどだな。たったこれだけだが、病人が減って労働力の低下は最低限になっているので結構な成果が出ているとは思う。そして次に行うのは戦闘力の増強である、教育者もまあまあ得意だが、俺の得意技は戦闘なのだ。


「構え~! 打て!」


 今は村人の弓矢による射撃訓練の最中なのだ、晩飯を食ったあとに暇なので弓と矢を毎晩作っていた。村人や両親は俺が働き者だと感心していたが、この世界は暇なのだ、ネットも本も何もないので兎に角暇な時間を持て余す、だから暇つぶしに弓と矢を作りまくる、此れは狩りにも使えるし魔物退治にも使えるので一挙両得なのだ。


「スゲ~な!」


 俺の手製の弓と矢なので性能は多分悪い、弓の強度もバラバラだし矢だって曲がってる奴も多い、しかし村の連中は20m程離れた的にバシバシ当てているのだ。此れは暇な時に訓練が出来るように適当に的を置いた射的場を造ったのが良かった様だ。

農作業や家事が終わった後で暇つぶしに村人が遊んでいたので射撃精度が上がったのだろう、村人の中には俺の造った粗悪な弓矢では物足りなくて自分でマイ弓矢を造る連中が出てきた事も大きな原因なのだろう。辺境の村は貧しいが暇な時間がタップリ有るのが特徴なのだ、そして村人全員が体力と持久力が凄かった、彼等は生まれつきの肉体労働者なので一日中農作業を出来る持久力と体力があるのだ。なにせ自給自足、腹が減った時は自分で魚を釣ったり、野山で狩りをしてご飯を食べる連中なのだから。


「ゴールド兄ちゃん、80点取れたよ!」


「まじかよ! 俺より上手いじゃん」


 村の教育の中に足し算が有る、覚えるのを嫌がる人間も中には居た。村人の中でも子供達は普通に覚えていたのだが、大人の中には何故か苦手意識を持って居る者がいたのだが、弓矢の的に点数表示をして当たった矢の合計点数を競わせる様にした結果大人達も積極的に足し算を覚える様になった。覚えないと弓矢で遊べないからだ、要は面白かったり自分に得になるなら皆自然と学ぶって事だな。


「ゴールド! 遊ぼう!」


 村の広場で弓矢で遊んでいたら、パパスがやって来た。村の治安を守ったり魔物退治をするのがパパスの主な仕事なので普段は結構暇なのだ。


「パパス、暇なの?」


「うむ、儂も暇なのだ」


「仕方無いな~、じゃあ新しい遊びをやろうかパパス?」


「うむ! 負けないぞゴールド」


 弓矢遊びは娯楽の無い村では結構評判が良かったのだが、中には性格的に合わない人達が居た、弓って奴は結構な技術と集中力が要る。そして本気で長距離射撃をする時には重力による弾道計算、横風による偏差等まで計算する必要が有るので、誰にでも出来るというわけではないのだ。そしてパパスは基本的には脳筋、ハッキリ言えば落ち着きの無い性格なので弓矢は苦手な人なのだ。


「まず円を書きます」


「ふむふむ、それで?」


「この円から出たり、自分の足以外の部分が地面に着いたら負けです」


「ふ~ん・・・・・・で? どうするんだ?」


 初めて見た地面に書いた円、これだけでは何の事か分からないのは当然だ。この世界にも組み合ってじゃれる事は有るが相撲は無い。だがこれは地面に円を書くだけで出来る立派なスポーツなのだ、特に良い点は脳筋にも覚えやすく手軽な事だ。


「それじゃパパス、行くよ~」


「うむ???」


 円の中に入ったパパスにブチカマシを仕掛ける、パパスは身長が160cm位しか無い小太りのオッサンなのだが農民出身の兵士上がりなので滅茶苦茶頑丈な体なのだ。10歳の俺が本気で体当たりしたくらいではビクともしない。


「うおお~!」


「ふむ、良い体当たりだぞゴールド」


「父ちゃん! 円から出たり、倒れたら負けだぞ」


「ワハハ、そうかそうか。こうして遊ぶのか?」


 何となく相撲が分かったパパスが俺を押す、本当に人間なのかなって言うくらい力が強い。しかし、この世界にはまだ技術って奴が少ないのだ。


「えっ!」


「「「「オオオ~!!!」」」


 パパスが俺を円から押し出そうとした瞬間、俺の内股が豪快に決まりパパスが地面に叩きつけられる。相撲なのだが、俺は柔道の技を使ったのだ。技に慣れていれば力の差が大きすぎて直ぐに潰されて通じないのだが、技を知らない人間では返せない、これが技術や技って言われる物なのだ。


「「「スゲ~! ゴールド。何だ今の!」」」


「うむ! 今のは技である」


 何時の間にか集まっていた村人達、村で一番強いパパスを豪快に投げた事で村人全員が興奮していた。何故かパパスも大喜びだった、怪我をしないように投げたのだが地面だから結構痛かった筈だがピンピンしていた。パパスは頑丈だな、でも受身を教えなくてはな。


 それから相撲の普及は早かった、弓よりも簡単に出来るので。暇を見つけては村人達が相撲で遊ぶようになった。そしてある程度の技を教えた後は俺は大人に勝てなくなった、ちょっと残念だが体力が違いすぎて技でどうにかなる次元を超えていたのだな。


「クソ、俺が一番強かったのに・・・・・・関節技でも使おうかな~」


 負けず嫌いの俺はチョコチョコ関節技を使って勝っていたが、それもその内真似されて偉く痛い目にあったのだった。


「畜生~! 脳筋共! 今に見ていろ、俺は頭脳労働者なのだ」


 相撲では全然勝てなくなった俺は、俺が簡単に勝てる次の遊びを考え出した。俺は簡単に勝ちたいのだ。

 大人げないかも知れないが、ゴールドはこの世界では10歳なのだから仕方無い、そう仕方ないのだ。










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