第2話 パパスとママス

 何とかして美味い物を喰いたい転生者ゴールド、悩みに悩んでみたが方法が思い浮かばない。それもそのはず、俺にはチート能力も何もない、それでも俺はとても恵まれていると思っている。健康な体と立派な両親、そして気の良い村の皆がいるのだ。前世ではそんなものは全く無かったが何とか成っていたのだ、恵まれている今の状況ならばもっとマシな人生が送れるはずだ! でもな~俺はツイテ無いんだよな~、頑張っても2番なのだよな~。まあ、それでも出来ることを精一杯やってみようかな、死ぬときに後悔だけはしないようにな。


「ゴールド、これから授業なの?」


「うん、今日は足し算と引き算を教える予定だよ」


 家に帰って午後からの授業の支度をするとママスが声をかけてきた。俺は午前中はスライム討伐隊の隊長、そして午後からは領民の子供達の教育を受け持っているのだ。最初は子供達だけだったのだが、今では読み書きや計算を習いたい大人まで来るようになった来た。多分自分の子供に知識で負けると気まずいのだろう。

 因みに俺のママスは男爵家の3女、この村では一番のインテリなのだ、読み書きや足し算、引き算が出来て更に魔法まで使えるというスーパーお貴族様なのだ。最も魔法はローソクの火位の物が指先に出たり、コップ1杯程度の水が出せる位なのだがそれでも凄い、何せ俺には全く理解不能の現象が起こせるのだから。貴族の中には攻撃魔法と言う凶悪な魔法が使える者も居るらしいが、そう言う人は辺境には居ないので見たことは無い、凄い魔法が使える人間は貴族や国が大金を払って雇うからだ。

 ちょっと話がそれたな、では何故俺が教育をしているかと言えば、この村の人間の底上げの為に読み書きや計算を教えているのだ、論理的な思考が出来ないと意志の疎通がしにくいからだ、俺は領主の息子なので自分の領地を豊かにする責任があるのだな。領地を豊かにするには領民の力が必要だ、だから領民の基礎能力を上げなくてはならない、つまり教育を施し合理的な思考形態を持たせて領地を発展させるのだ。理論が通じないと話をしても無駄、一々殴りながら仕事をさせるのは効率が悪い、自発的に仕事をして勝手に育つ領民が俺の理想なのだ。まあ、何が言いたいのかと言えば、俺一人で村を発展させるのは無理なので村人達に替りに働いてもらいたいのだ。

 

「ハハハハ! 精が出るなゴールド。タマにはワシと遊ばんか?」


「お帰りパパス、今から講義だからまた後でね」


 俺のパパスが帰って来た、パパスは今は領地持ちの騎士爵をやっているのだが、元は農民の小倅、飯を食うために男爵領で兵士を長年やって来た人間なのだ。その兵士生活の時に隣の国との戦争時に男爵の命を助けた功績で出世して男爵の3女を嫁に貰って騎士爵を賜ったと言う経歴の持ち主なのだ。今は自分の領地の見回りを部下と一緒にやって魔物を狩って領地の平和を保っている人物だった。まあ。見た感じ小太りのオッサンだ、読み書きが一応出来る位のほぼ平均的な兵士って感じだな。


 パパスは俺と遊びたがると言うよりも、俺に槍や剣の稽古を付けるのが好きなのだ、多分自分の跡取りを鍛えたいのだと思う、しかし俺は村人の教育に忙しいのだ。そして此れは俺にしか出来ないのでパパスの相手は後回しなのだな。


「何か悲しいの~、ママス」


「まあまあ、また後で遊んでもらいなさいなパパス。ゴールドは忙しいのですよ」


「トホホ・・・・・・じゃのう」


 そして昼飯を食って眠くなった村人たちに読み書きを教える、ママスに貰った紙に自作の墨汁で書いた手書きの教科書が1冊、生徒は地面に木の枝で字を書いたり計算をするという青空学習である、でもまあこれも俺が楽をする為なので全力で頑張るのだ。


「ゴールド、何でこんなことするんだ? 字が読めなくても良いじゃ無いか」

「そうだそうだ! 計算なんか出来なくても困らないぞ!」


「天誅~!」


バシ! バシ!


「「いていてて! なにすんだよゴールド!」」


 俺はスパルタ教育なのだ、逆らう奴には鉄拳制裁、何が何でも賢くなって貰い村の発展の役にたってもらう、役に立たない連中など存在価値は無いのだ。


「よく聞けキサマら! 字が読めないと冒険者になった時に掲示板のクエストが分からないのだ、難しいクエストを間違って受けて死んだり怪我をしたらどうする?」


「「「「おおお~成程」」」」


「いいか貴様ら、俺は貴様らが憎くて殴っているのでは無い! 貴様らが大事だから殴っているのだ! 此れは愛なのだ~!」


「「「そうだったのか! ゴールドすまん! オラ達が間違っていたよ」」」


 プルプル震えなが、少し目に涙を浮かべながら俺は彼らを諭す。そうすると彼等は感動して俺の言う事を聞くのだ。村人マジチョロイっす。


「それと良く覚えておけい! 計算が出来ないと冒険者ギルドに魔石なんかを納品した時に代金を誤魔化されるかもしれん。命懸けで手に入れた商品を誤魔化されたらどうする? 商人から物を買うときも一緒だ、村人以外を信用してはイカ~ン! 他人を見たら泥棒と思え! 甘い人間は騙されるのだ!」


「「「゚オオォ~そうだったのか~流石ゴールド、勉強になるな~」」」


 この世界は甘くない、魔物が襲いかかって来るだけでも面倒なのに、盗賊に戦争等は日常茶飯事、甘いことを言っていられないのだ。だから少し大げさに言ってでも村人の結束を固める、まあ、洗脳と言えば洗脳なのだが、非常事態なので仕方無い。背に腹は変えられないって昔の偉い人も言ってたから、文句が有るならその人に言って欲しい、俺は一切関知しない。









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