特訓だ!
「特訓だと?」
「ああ。相手はあの
アクノは顎に手を当て少し考えるような動作をした後、顔をこちらに向けた。
「そうだな。確かに、奴らは根はクズだが、腕だけは確かだ。それに、サイガは管理者権限を握っている。本番でどんなチートを使ってくるのか分からん」
あの三人の中で最も注意すべきはそいつだな。確かに、もし本物の銃とか持ってこられたら俺達は勝ち目がなくなる。銃がこの世界にはないことを願おう。
それに、問題は彼女だ。言っちゃ悪いが、俺達二人に比べて、圧倒的に実力が不足している。そこらの敵ならまだカバーしきれたものの、今回は相手が相手だ。彼女のこれからの為に、徹底的に鍛えさせてもらう。
「エレナ。
『は、はい。私、頑張ります!」
彼女は拳を握り、真剣な眼差しで答えた。よし。やる気はあるようだな。前は急げだ。早速始めよう。
「アクノ。練習用にフィールドは使えないのか? 使用できるのなら、是非ともお願いしたい」
「使えるな。すぐに始めるのか?」
「ああ。今すぐにでも」
アクノはバーダーを操作し、例によって青いゲートを作り出す。
「よし、いくぞ」
『はい、頑張ります!』
俺達は数日後に控えた
「エレナ! 撃ったら別の場所に移動しろって言っただろ! 敵に位置が割れてしまう」
『ご、ごめんなさい!』
かなり困った。練習してから、少しずつ立ち回りは上手くなっているものの、やはり上のレベルには遠く及ばない。まぁ、練習を始めてまだ三日だし、仕方がないか。
奴らが提示してきた日付は五日後。あと二日しかない。それまでになんとか完成したチームにしなければ、到底勝つことはできない。
「よそ見は禁物だぞ、栄華!」
アクノが走り込んで、手をかざしてくる。俺はそれを見て一歩引き、距離を取った。体が硬直し、動きが一瞬止まる。
「何っ?!」
このスキルの対処法は何も先打ちだけではない。後ろに引けばその分距離が生まれ、避ける猶予が生まれる。
アクノは銃を構え、俺に向けて発砲。だが距離を取ったことで弾が俺に到達するまでに余裕がある。
このくらいなら十分躱せる範囲だ。俺は横に飛び、弾丸を回避する。がら空きになったアクノの頭に水を撃ち込んだ。
「くっ……」
「アクノ。お前はスキルに頼りすぎだ。依存しているせいで、対処された時に焦りが見える」
「では、余り頼らずに他の立ち回りを意識した方がよいと?」
「お前のスキルは確かに強力だ。使うなとは言わない。だが、使い過ぎもダメだ。目に見えてないだけで、弱点も多いからな。状況に応じて適切な場所で使った方がいい」
「……分からん。例えばどのように使えばいいんだ?」
「うーん……これは俺の考えだけど、直前まで使わないでおいて、ここだ! っていうときに使えばいいんじゃないか?」
「なるほど……練習してみる。あ、それと」
「どうした?」
アクノが急に俺を呼び止めた。何だ? 自分から呼び止めるなんて、珍しいな。
「これは先日買ったものなのだが。
アクノは自分の荷物から、水鉄砲を取り出した。綺麗な緑色のフォルムだ。見た目は……小銃だな、これ。いずれにせよ、エレナから受け取ったハンドガン型のものよりは性能が良さそうだ。
「大切にしろよ。それ、かなり高かったんだぞ」
「高かったのか? そんなものただじゃ貰えねぇよ。返す」
「……人からの厚意は素直に受け取って置いた方が身の為だぞ。いつまでもそんな銃じゃいつか痛い目に遭うぞ」
「……ありがとう。それじゃ、素直に貰うよ」
俺はアクノから、水鉄砲を受け取った。あのハンドガンだけでは敵を倒すのにかなり近づかなければならなかったから、このプレゼントはありがたい。
値段が高かったと聞いたから、一度は遠慮したけど。
アクノが受け取れっていうんだから、仕方ないよな。素直に貰っておこう。けど、アクノが俺を気遣ってくれていたなんて。
俺は現実世界では人付き合いが苦手で、友達なんてできないとばかり思っていたけれど、それは違ったみたいだ。
俺は貰った小銃型の水鉄砲をフィールドに向かって構える。性能と使用感を試さないとな。今まで使っていたものよりはいいと思うが。
引き金を引き、水流が発射される。高威力の水圧。まるで今まで溜め込んでいたものが一気に吐き出されたかのような勢いだ。
射程も十分。放出された水は、フィールド中央から端の建物近くまで届いた。水鉄砲特有の弾速の遅さがなければ、射程、威力共に十分な銃だ。実に良いものを貰った。
「アクノ、ありがとう」
「気に入って貰えて何よりだ」
「じゃあ、俺はエレナの方を見てくる」
さてと。問題はこっちの方だ。あの強力な
「エレナ、調子はどうだ?」
『うーん。やっぱり、難しいです。止まっている相手に当てるのなら練習すればできそうなんですけど、動いている相手に当たるのはちょっと……』
エレナが持っている水鉄砲は、超遠距離型、いわゆる狙撃銃だ。
アクノに聞いた話だが、射程を上げる為に内部の圧力を高めているから水量の消費が激しいんだとか。
水鉄砲合戦では水の補給はない。弾切れを起こしたらそこで
あまり連発はできない。アクノのスキルと同じく、勝負のときに使うことになりそうだ。
「……止まっている相手になら、当てられるんだな?」
『はい。頑張れば、ですけど』
「よし、これからは固定射撃の練習をする。フィールドの奥に大木があるだろう。それを狙え。今から試合まで、ずっとそれの練習をする」
『え……実践練習はしなくてんですか? あと二日なのに……私、自信がないです」
「これでいいんだ。今日からひたすら、止まっている相手に当てる練習をするんだ。……それが、お前の武器になる」
『は、はい……分かりました』
エレナは
やり方は簡単。一つ的を決め、それに向かって撃ち続ける。これをずっと続ける。これだけ。
動く的を撃った方がいいんじゃないかという疑問がでるかもしれない。だが、固定射撃は、エイム技術における基本だ。
基礎が出来ていれば、応用も効くようになっていく。全ての物事は、基礎が土台となっていると言っても過言ではないのだ。
努力した結果は必ず後からついてくる。だから、今は辛いかもしれないが、頑張るんだ。
「俺も練習しないとな」
みんな今までよく頑張ってくれた。絶対に負けたくない。
--否。
必ず勝つ。勝って、奪われたエレナの力を取り戻す。
それだけだ。
「おい、しっかりしろ、本番だぞ!」
『あ、あう……で、でも、緊張しちゃって』
「大丈夫だ、自分の力を信じろ! 今まであんなに練習してきたじゃないか!」
こんな調子で大丈夫なのだろうか。まぁ、気持ちはわかる。相手があの
だが、こんなに大勢の観客が居てくれたことは助かった。こんなに多くの人の目があれば、サイガもそう易々とチートを使えない。いわば監視者の役割だ。
「おい、大丈夫か? ……しっかりと指導したんだろうな」
「ああ。とっておきの武器も持たせて置いたからな。そっちは大丈夫か?」
「愚問だな。俺はこのゲームの頂点に立つ男だ。当然だ」
おお。流石は
「よお。俺の餌食になる準備はできたか?」
サイガが、女の子二人を
「その言葉、お前にそっくり返すぜ。こっちには元、
「威勢がいいな、野良よ。虚勢を張っていられるのもいまの内だがね」
「サイガ様が負けるなんてあり得ません。わざわざお手を下さずとも我々が仕留めてみせます」
俺とサイガの話に、赤髪の少女が割って入ってきた。
一人は、茶色のパーカーに、青の髪。白の長いズボンを履いている。もう一人は黒のシャツに赤の髪。向日葵柄の短いスカートを履いていた。
二人とも顔がよく似ている。双子なのだろうか。ゲームや創作ではこういうキャラは連携性能が非常に高く、厄介なイメージがある。
彼女らも
「さて、お喋りはここまでにしないか。さっさと試合を始めよう」
「……ああ、そうだな」
『これより、試合を開始します。転送の用意をするので、動かずに暫くお待ち下さい』
その場にいる全員が、青い光に包まれ、ゲートに転送されていく。いよいよだ。
気を引き締めよう。
目を覚ますと、俺はフィールド内にいた。見渡す限りの平原。俺はバーダーでマップを空中に投影させた。
ふむ。平原マップだ。だが、平原と言っても、所々に民家が点在している。今回は家が重要なキーになりそうだ。
「よし、みんな。行くぞ、準備はいいか?」
「勿論だ」
『ひゃ、ひゃい! ばっちりです!」
俺達は、広大なフィールド内へと駆け出した。なんか一人不安な奴がいるが、大丈夫なのだろうか。沢山特訓したし、あとは練習の成果を本番で発揮してくれればよい話なのだが。
それにしても、普通のFPSゲームとは違って、最初から全員が同じ位置にいるんだな。前回は途中参加だったから、分からなかった。
「おい、栄華。どこから攻める?」
アクノが平原を走りながら俺に訊いてくる。
「そうだな……」
とりあえずは敵に見つからぬよう、射撃が可能な民家に待機するのが定石かな。こういうゲームは基本、芋ってた方が強いし。
「よし、じゃあ……」
『どうしたんです? 急に立ち止まって』
「アクノ。お前は聞こえるか。この音を」
「ああ、来てるな」
俺は嫌な気配を感じ、立ち止まった。
来てる。左右から、瓦を蹴る音が聞こえる。建物を移動してるってことは……。
「栄華! 上だ!」
「!!」
上を見上げると、サイガの隣にいた二人の少女が銃を構えながら、襲いかかってきた。
身体能力化け物かよ。屋根の上を渡ってくるなんて。
「私はレイ。そしてこっちの赤髪の子はコア。対戦よろしく。……あ、もう死んじゃうから対戦ありがとう、か」
「こんな奴らに挨拶など無用です。サイガ様の邪魔をする者は消えてもらうまで。サイガ様に代わり、私たちが裁きを下します」
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