真実
「何だと……」
「俺達さ、まだ二人しかいないんだ。固定メンバーを組んだ方が連携も取りやすいし、何より
アクノを仲間にできれば、この先三人でパーティーを組んで試合に臨むことができる。野良を呼ぶ必要もないしな。
「そんなことでいいのか? もっと他にあるだろう。金を寄越せとか、持っている武器をくれだの」
俺を盗賊か何かと勘違いしてませんか? 心優しい俺は、そんなことはしない。何事も、慈悲の心を持って相手と接することが大切なのだ。
「ああ。その方が、エレナの助けにもなる。……でも、いいのか?
一番の問題はそれだ。俺が契約によって無理矢理アクノを奪ったとなれば、反感を買いかねない。彼にとっても、元いたチームを離れるのは悩ましい問題だろう。
「その点は問題ない。俺は既に、チームを抜けているからな」
「……どういうことだ?」
チームを既に外れているだと? お前は誇り高き精鋭の一人ではなかったのか?
「あいつらのやり方が気に食わなかっただけさ。だからこの試合に勝って、あいつらより早く、その女の力を手に入れたかったところなのだがな。既に遅かったようだ」
『……』
その女の力? エレナのことか。
エレナの方に目をやると、彼女は俺に目を合わせまいと、下を向いていた。やはりこいつ、何か隠しているようだ。
「なぁ、教えてくれ。何か、隠してることがあるだろ?」
問い詰めた俺に、アクノが横から口を挟んでくる。
「何だ、聞いていないのか? その女はこのゲームの創始者で、管理人なんだぞ」
「?!」
彼女が……このゲームを作った張本人? 言われてみればこのバーダーだって彼女のトレードマークである白と黒からできているし、言われてみれば納得できる。
「……そうなのか?」
『……はい』
彼女は小さく頷き、この一件を全て話してくれた。
どうやら、数ヶ月前、
元々は、試合後の奴隷じみた契約もなかったみたいだ。つまり、狂天が実権を握ってから、やりたい放題というわけだ。
『私は管理者権限の源である発言権を剥奪された結果、このように喋ることができなくなってしまいました……』
いつもバーダー越しに会話していたのは俺と言葉を交わしたくなかったのではなく、喋ることが出来なかったからなのか。
彼女があの試合で、あれだけ勝ちたがっていた理由が分かった。もうこれ以上、大事なものを奪われないようにするためだったんだな。
『アクノさん、どうしてですか? 狂天は人々の英雄だったはずです。それがどうして、こんなこと……』
バーダーにメッセージが送られる。彼に見せろということだろう。俺はアクノに近づき、彼女のメッセージを見せた。
「英雄だと? 何か勘違いをしているようだな。狂天は最初から、お前を狙っていたんだぞ」
『え……』
「俺も最初は狂天という名前の響きとその強さに惹かれメンバーに入ったが、初戦で俺の持っていた幻想は崩れた」
アクノは過去の出来事を思い出すかのように、悲しみに溢れた表情で話し始めた。
「本来ならランダムで対戦相手が決まるはずなのだが、ゲームのプログラムを弄って、ランキングの低い者や、一人で参加している者を狙ってポイントを稼いでいたんだ。それだけで英雄とか、笑わせる。チート行為に走る始末だ。俺はあいつらの卑怯なやり方には合わない。だから、チームを抜けた」
こいつも色々、可哀想な奴だな。憧れを抱いて入った先が絶望に満ちた世界だったとは。その気持ちは、察するに余りある。
「あいつらの好きにはさせない。俺は奴らを叩きのめして、必ず頂点に……」
「よぉ。久しぶりだな、アクノ」
アクノが振り返ると、後ろにはすらりとしたせの高い男性が。両脇には女の子が二人、くっついている。
「久しぶりだな。お前が抜けて寂しいよ。そっちでは頑張っているかい?」
男は馴れ馴れしくアクノの肩に手を置いた。
「サイガ、触るな。俺はもうお前達の仲間ではない」
「おー怖い怖い。折角野良ごときに敗北を喫したお前の無様な姿を拝みにきてやったといたのに」
赤いマントに青い服。派手派手しさを醸し出すその風貌はまるで帝王を象徴しているかのようだ。
「それにしても、そんな落ちこぼれの奴と、野良の即席チームに入るとはな。夜虎の名が廃るというもの」
「くっ……」
あのアクノが押されている。まさかこいつ、彼より強いのか……?
「ふん。まぁいい。数日後の試合相手はお前達に決まった。楽しみに待っているがよい」
サイガは宣戦布告をした後、後ろを振り返り両脇の女の子と共に帰っていった。
数日後に奴らと試合だと? 好都合だ。あいつらに勝てば、エレナの権限を取り戻すことができる。向こうからわざわざ勝負を仕掛けてくるとは、探す手間が省けたな。
絶対に、勝ってやる。
「よし、特訓だ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます