決闘を申し込む
「エレナ。このマップはどのくらいの広さなんだ?」
『ええっと、バーダーでマップを見れますよ、見てみてください』
俺は言われるままに腕輪を操作し、マップを表示させる。液晶から地図が空中に溢れ出し、青い光に包まれた。
四方を塔に囲まれた、正方形のフィールド。あちらこちらに倒壊した家屋や、穴の空いた建物などが見受けられる。やはり廃墟ステージのようだ。
マップを一見した感想としては、俺が普段からプレイしているFPSゲームよりフィールドは狭い。
具体的な距離はわからないが、俺の足でも大体三十秒程度だろう。妥当な広さだ。三対三なんだから当たり前と言えば当たり前か。
さらに高低差がかなり激しく、死角が多い。見つからずに移動することは容易だ。
俺が一番注目する点、何よりも特筆すべきは、マップ中央にそびえ立った大きな建物だ。
明らかに他と違い大きく表示されているが、周りには身を隠す瓦礫が殆どない。
つまり、この建物からは見晴らしがよく下の敵を楽に射撃できるが、周りになにもないので接近する際に攻撃を受けやすいということだ。
リスクはあるが、ここを陣取ってしまえば、有利に戦えそうだ。ひとまずは、そこを目指すとしよう。
「よし、中央の建物に向かうぞ」
『わかりました』
これは全てのバトルロワイアルゲームにも言えたことだが、移動する際には自分の体を晒すため、当然、リスクがある。だから、できるだけ自分の体を見せないように素早く移動する必要があるのだ。例として、壁を背にして移動したり、それがない場合は、最短距離を選んだりする。
特にこの廃墟ステージ。大きな瓦礫が散らばっていて死角が多い場所では、不意打ちが最も脅威だ。いつも以上に移動には慎重にならなくてはならない。どこに敵が潜んでいるか、わからないからな。
「瓦礫の陰に隠れながら、できるだけ姿を見せずに進むんだ。敵の不意打ちに注意しろ」
『了解ですっ…! やっぱり、味方がいると心強いです。野良であなたをお呼びして、本当によかった……』
本当に反省しているのか、こいつ……。まぁいい。俺だってスマホを取られたとはいえ、入ったのは自分だしな。それと、さっきの発言で野良という聞き慣れた単語が出てきたが、この世界でも同じ意味なのだろうか。
「その、野良っていうのはなんだ?」
俺の知識からするに、固定メンバーではなく個人でプレイしている人のことを指すはずだが。
俺も固定を組む前は野良でやっていたなぁ。
あの時、連携がうまく取れなくて負け、味方に申し訳ないことをしたのが脳裏に焼き付いている。
『あっ! ごめんなさい、私ったら説明不足で……。このゲームには人数が三人に満たないチームは野良といって、外の世界からプレイヤーを一人連れてくることができるんですよ』
なるほど。救済システムみたいなものか。俺もそのシステムでゲームに参加したというわけだ。三対三なのに人数が足りないと困るからな。
『私も今まではこのシステムを使っていました。最初は奇異の目でやってくれる方もいたのですが、最近は誰も手を貸してくれなくて……最終手段として、似たようなゲームのランキングの中から来てくれたそうな人を探したんです。そしたらなんと、一位の欄にあなたの名がありました。その時私は、これはもう連れてくるしかないって……思ったんです』
「よく俺が本人だって分かったな。俺は個人情報を一切漏らしていないはずだが」
『異世界の技術を舐めないで下さい。ランキング欄にあったあなたのIDを解析すれば、すぐに居場所が分かりました。普通に交渉しても駄目なのは分かっていたので……』
「あんな方法で呼び出したわけだな」
『うう……ごめんなさい』
俺はIT系には詳しくないが、まさかIDだけで住所まで特定されるとは思わなかった。異世界の技術とは恐ろしいものだ。ん? ということはまさか名前も……。
「ま、まさかお前、俺の本名も知ってるのか!?」
『ええ、もちろん。
あ、ああ、そんな……。
うわぁぁぁぁ!! 本名だけは、本名だけは知られたくなかった……。
どこにでもいるような名字に、性格と相反する名前。ミスマッチした名前が、俺はずっとコンプレックスだったのだ。
ネット上での名前も、四苦八苦して熟考したというのにあっさりバレるとは。てか、普通に犯罪だからね?! 良い子はしちゃだめだぞ。
『どうしました? 早く行きましょう』
「うん……分かった」
俺……こんな若干ストーカー紛いの子と友達になっていいのだろうか。段々不安になってきた。うーむ。この試合に勝ってから考えるか。
「おい、野良」
「!」
近くで、男の声が耳に入る。瓦礫から少し身を出して覗くと、俺と同い年くらいの青年が立っていた。俺は水鉄砲を握りしめ、戦闘態勢に入る。
端正な顔立ち。髪は青色で、ストレート。黒色……というよりかは夜色と表現した方がよいのだろうか。
夜の空とほぼ同じ色のジャンパーを着ている。靴は赤色のシューズ。鋭い目つきは、夜闇に紛れて獲物を獲る狩人といった感じだ。
『あいつ、なんでここに……』
「知ってるのか?」
「知ってるもなにも、すごく有名ですよ。名はアクノ。この水鉄砲合戦で
ふーん。四天王みたいなものか。面白くなってきたじゃないか。
驚いたが、それほどの強敵が自ら姿を表してくれて助かった。こっちは近接だからな。
奴の周りは中央の建物の近く。よって瓦礫が少ない。位置が割れれば、地形の利を生かして接近できる。
まだもう一人いるからあいつは囮という可能性もあるが、二対二という状況下で一人失うのは向こうにとっても避けたいはず。
もし、奴が囮でもう一人が攻撃を仕掛けたとしても、中央の建物に避難すればよい。同時に強い場所に陣取ることができて一石二鳥だ。
「少し提案をしたい。一対一で戦わないか?」
彼は静かに、言葉を作り出す。言われた言葉を理解するのに、少し時間がかかってしまった。
こいつ、いきなり何を言い出すんだ。タイマンだと? 普通の勝負だったら撃ち殺されて終わりだぞ?!
しかし、俺が思考を巡らすのを待ってくれないのか、続けて言葉を放つ。
「俺の名はアクノ。野良、貴様に決闘を申し込む」
「何故です、兄貴?! そんなことしなくても、俺ら二人でやればあいつらなんて……」
「お前は黙って見てろ。俺はこいつが気に入ったんだ。野良とはいえ、俺が指示した刺客を瞬殺した。只者ではない」
アクノの後ろの建物から、もう一人の敵が出てきた。もう陣取られていたのか。
もし要求を飲めば、あの建物は関係なくなり、純粋に一対一の勝負に持ち込むことができる。
だが決闘というからには正々堂々、相手も正面戦闘をお望みだろう。そうなれば、毎日引き籠ってゲームばかりしていた俺に勝ち目はなくなる。さて、どうしたものか……。
「俺は隠れる気など毛頭ない。正々堂々、正面から相手させてもらう。だが、俺の考えをお前に押し付ける気もない。どんな手を使ってでもいい。俺と勝負しないか? 決闘を受けるのであれば、味方に合図させてくれ」
どんな手を使ってもいいってことは今までのやり方で構わないってことだよな。なら、受けない理由はない。
俺はバーダーを操作し、メッセージを送った。
『アクノと勝負してくる』
『気をつけて下さい。恐らく奴の狙いは私です。単独行動をしているのは、その為でしょう』
『? 何か狙われるようなことをしたのか?』
『……それは後で話します』
彼のルールによれば一対一だから、危害は加えないはずだけど。
これは何か裏がありそうだ。とにかく、この試合に勝てば全て解決する話だろう。
エレナは銃口を上に向け、発砲。水流が上空に噴射される。対戦の火蓋が切って落とされた。
「……! 決闘を受けてくれたこと、感謝する。……お前の力を見せてみろ」
俺は瓦礫に隠れながら、少しずつ接近する。よし、気付かれていない。このまま接近して、一気に攻撃を叩き込む。
相手の力量がどれほどのものかは分からないが、長期戦になれば体力がない俺は不利になる。早期に決着をつける。
だがアクノの周りには身を隠す障害物があまりない。倒しきれなければ、ほぼ確実に反撃を喰らう。リスキーだが、今はこれしかない。
「くらぇっ!」
「……」
俺がアクノに向かって銃口を向けた途端、彼は静かな表情で手を開き、俺に向けた。何のつもりだ? 銃も向けないで。何を企んでるのか知らないが、何かされる前に倒すまでだ。
「!!」
だが、そんな俺の考えはいとも容易く打ち砕かれることになる。
「か、体がっ……動かないっ!!」
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