第98話 討伐なの。

 弾頭昇降機であっという間に世界樹の天辺に到着したレイニィ達であったが、案の定スノウィが気絶していた。


「アイス、スノウィを頼むの」

「おう、任せとけ」


 レイニィはスノウィのことをアイスに任せると、昇降機を降りた。


「ここが十万層なの?」

「正確には十万と一層ですね。十万層はこの下ですよ」


 女神様が下を指差す。


「ここに上がるには、今乗ってきた昇降機しかありません。普通の人が来られるのはこの下までですね」

「そうなの」


 レイニィは改めて周囲を見渡す。


 世界樹の天辺は、直径が二百メートル位で、その周囲を巨大な十六本の木が囲んでいた。

 そして、その中央にはSF映画に出てくるシャトルのような乗り物が置かれていた。

 というか、ようなではなく、世界樹の天辺と天界を行き来するためのシャトルだった。


「それで、宇宙アメーバとやらはどこなの?」

「あれですよ」


 女神様は上を指差す。


「あれ? どれなの?」


 レイニィは黒い空を凝視するが、それらしいものは発見できなかった。


「ここから見える空全体を覆っているのがそうです」

「えっ! どれだけ大きいの?」


「個体によりますが、数百から数千メートルはありますね」

「個体によるって、もしかして、一匹だけではないの?」


「ここの空を塞いでいるのは一匹ですが、外には数百匹はいると思いますよ」

「まさかそれ全部を倒さなければならないの?」


「そうですね。殲滅しないとまた分裂して増えてしまいますからね」

「大変そうなの――」


「私に策があります。あなたなら直ぐですよ。先ずは準備をしましょう」


 女神様はシャトルから宇宙服を取り出すとレイニィに着せた。


 この高度だと、世界樹の周りは空気があるが、少し離れると真空状態であった。

 ちなみに重力は地上と比べると弱いが、無重力ということではなかった。

 ただ、もう少し上がると、天界と世界の重力が引き合う無重力地帯となる。


 それから女神様は、レイニィとシャトルを長いロープで結んだ。


「あの。女神様。これはどういうことなの?」


 不安になったレイニィは、ロープを持って女神様に質問した。


「これはですね……。トローリング作戦です!」


 作戦内容はこうだ。

 先ず、空を覆っているアメーバをレイニィの魔法で退かす。

 そして、再び覆われる前にシャトルで飛び出し、レイニィを餌にアメーバ達を引き寄せる。

 宇宙アメーバは魔力を餌にしている。

 レイニィが魔力を放出していれば、どんどん集まってくる。

 そして、集まった所で、レイニィの魔法で一網打尽にする。


「ということで、さあ、魔法であいつを退かしてください」


 女神様は笑顔でレイニィに催促した。

 レイニィは作戦に納得した訳ではないが、他に良い方法も思い付かず、女神様にお願いされれば、なかなか断り難い、渋々従うことにした。


「仕方ないの。なるようになるの」


 レイニィは気合を入れて、魔法でアメーバを世界樹から引き離し、放り投げた。


「それでは、私はシャトルを運転しますから、あなたは魔力を放出していてください」


 女神はシャトルに乗り込むと、シャトルを発進させた。

 レイニィを吊る下げたシャトルはゆっくりと上昇し、ある程度の高度になると水平飛行に移った。


 シャトルはレイニィを引っ張りながら、アメーバの間を縫うように飛んでいく。

 レイニィの魔力に惹かれて、アメーバ達はシャトルを追いかける。


「あわわわわ。本当についてきたの!」


 全てのアメーバがシャトルを追いかけて、一つになったところで、女神様はシャトルを停止させた。

 それが、攻撃開始の合図だった。


 レイニィはこれだけ巨大な相手をどうやって殲滅するべきか考えていた。

 中途半端な攻撃で爆散しては、折角集めた意味がなくなってしまう。

 やるからには、まとめて一撃必殺がいい。


 レイニィはアメーバ達を魔法で一か所に集め、それを一気に凝縮した。それも核融合するほど思いっきり。


「超新星(スーパーノバ)!」


 一点に凝縮され核融合を起こしたアメーバは、重力崩壊を引き起こし、眩い光を放って爆発した。


 その爆発による光は三日三晩、昼夜を問わず観測され、その後次第に減衰し、一週間後には消滅することになった。


「やったの!」


 上手くいったと、レイニィは思わずガッツポーズをして喜んだ。


 だが、これにより、エルフの里で星見人のミディアが頭を抱えることになっているとは、レイニィは全く思い至らなかったのであった。


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