第91話 救助完了なの。

 レイニィが大岩を吹き飛ばすために使った「破局噴火(ウルトラプリニー)」は、破局噴火と呼ぶ程には、噴煙を上げていなかったため、周りの環境に与える影響は小規模なものであった。

 だが、爆発力だけ見れば、火山の四分の一を吹き飛ばす強力なものだった。


「少しやり過ぎてしまったの」


 レイニィの呟きに、余りの爆発に、惚けていた爆炎龍が正気を取り戻した。


「少しどころじゃないだろう! 何だ、あの威力は。はっ。それより俺様のねぐらは……」


 爆炎龍は、元あった火口付近を確認する。


「ほっ。何とか無事なようだな」


 爆炎龍がねぐらにしていた横穴は、なんとか無事に、吹き飛ばされずに残ったようだ。


「まあ、思ったよりも吹き飛んでしまったけど、無事、新しい火口ができたの」


 レイニィが吹き飛ばしたところからは、溶岩が流れ出て、僅かに噴煙も上がっている。

 流れ出た溶岩は川を堰き止め、火山湖ができ始めていた。


 結果だか見れば、レイニィにとっても、爆炎龍にとっても、オーライといったところであるが、火山を四分の一も吹き飛ばしておいて、疲れた様子も、悪びれる様子もないレイニィをみて、爆炎龍は、本当に最初に攻撃を仕掛けなくて良かったと、改めて肝を冷やしたのであった。


「さて、これで集落に噴火による被害が出る危険性も少なくなったの。じゃあ、帰るの」

「ああ、そうだな。送っていこう」


 レイニィは爆炎龍に乗ってウォーミィのもとに向かうのだった。


 その頃、ウォーミィは……。困り果てていた。


 レイニィの遠隔操作により、熱気球は無事安全な村に到着したのであるが、住民達が先に避難していた住民と喜び合っているのに対して、ウォーミィは一人ぽつんと佇んでいた。

 それというのも、ウォーミィは、一人だけ熱気球の籠ではなく、気球の上に乗っていた。

 そのため、降りたくても降りられないでいたのである。

 気球が大きすぎて、とてもではないが飛び降りられる高さではなかった。

 しかも、住民達からは死角になるため、皆、ウォーミィの存在を忘れていた。


「お姉神様~。早く帰ってきてください~」


 ウォーミィは、火山の方角に向けて叫ぶことしかできないのであった。


 そして、城塞都市セットでも、一人の少女が火山の方角にレイニィの名前を叫んでいた。


「レイニィ~。なんであなたの方が先に着いているのよ。私を置いて行くなんて、ずるいわよ~」


 首都シャインのサニィであった。

 もちろん、ここからレイニィに聞こえるはずがないのはわかっていたが、叫ばずにはいられなかったのであろう。


 サニィは、城塞都市セットからの連絡を受け、すぐさま行動を起こし、援助部隊を引き連れ首都シャインを出発していた。

 そして、夜通し馬を飛ばしてセットに着いてみれば、見たことのあるメイドがいるではないか。

 そのメイドはレイニィ付のスノウィで、話を聞くと、既にレイニィは集落に救助に向かっているという。


 首都シャインから港町ライズまでの、伝令の移動時間を考えれば、レイニィが熱気球を使ったとしても、サニィの方が一日か二日、到着が早いはずであった。

 まさか、レイニィが港町ライズから城塞都市セットまで僅か十分ちょっとで来るとは、サニィは夢にも思わなかっただろう。

 救助活動は競争ではないのだが、サニィとしては出し抜かれた気分である。


 そんなこんなで、この後レイニィは、二人から散々愚痴を聞かされることになるのだが、それを知らないレイニィは、暢気に爆炎龍と空の旅を楽しんでいたのであった。


 その後の火山活動であるが、レイニィが使った「破局噴火」により、火山活動エネルギーのほとんどが使われてしまったため、噴火活動は全く鳴りを潜めてしまった。

 爆炎龍曰く、後数百年は噴火しないのではないかということだ。


 集落の住民も、集落が無事であったため、火山活動が収まると集落に戻っていった。

 レイニィが火砕流を防ぐため、集落周辺の溶岩や火山灰を使用したため、集落との往来は問題なく出来るようになっていた。

 噴石などによって壊れた個所については、サニィが連れてきた援助部隊が修復の手助けに当たっていた。


 この救出活動により、レイニィはまた、信者を獲得することになったのだが、レイニィは気にもとめていなかった。

 その裏で、ウォーミィが中心となり「レイニィ教」として、新たな宗教団体の形を取り始めていたのだった。

 そんなこととは露知らず、レイニィは、ほとんど活躍の場がなかった元勇者とスノウィを連れて、熱気球で港町ライズに戻っていったのであった。


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