第85話 弾道ロケットなの。

 レイニィ、スノウィ、元勇者の三人は、城塞都市セットからの救援要請に応えるべく、実験中の人工衛星打ち上げ装置に乗り込んでいた。

 乗り込んだレール上の箱の中は何もなく、椅子どころか、メーターやスイッチなどの操作パネルもなかった。

 ただ、所々に窓があるだけの本当に箱だった。


「それじゃあ、発射するから、後ろの壁に背中と頭を付けて立つの。発射時は衝撃があるから気をつけるの」

「発射ボタンは外にあるのに、誰が押すんだ?」


「私が魔法で押すの。五、四、三、――」

「あ、ちょっと待て、まだ心の準備が!」


「――、二、一、零。発射! なの!!」


「ぐぇ!」

「うっ!」

「これは、効くの」


 発射の衝撃で三人は壁に押し付けられる。


 流線型の箱は、レール上を滑るように加速し、そして空高く、地平線の向こうに向けて打ち出された。


「更に、加速なの!!」


 レイニィは魔法で箱を更に加速させた。

 現状、箱にはロケットエンジンなど付いていない。

 レイニィが乗り込んでいるからこそ出来る芸当である。


「ぐぇぇぇぇ!」

「……」


 元勇者がカエルが潰れたような声を漏らし、スノウィに至っては最初の時点で気絶していた。


 レイニィ達を乗せた箱はどんどんと加速しながら飛んでいく。

 そして、発射から五分後には首都シャインのはるか上空を通過した。

 レイニィは既に魔法による加速を止めており、箱は弾道軌道をとっている。


「ふー。死ぬかと思ったぞ。メイドは気絶しているが大丈夫なのか?」

「着くまで寝かせたままにするの。まだ、これで終わりではないの」


「終わりではない? それってどういう……! おい、今度は身体が浮き出したぞ」

「魔法での加速を止めたの。だから、後は落ちていくだけなの」


「落ちるだけって。大丈夫なのか?」

「大丈夫なの。ちゃんと落下傘が箱の後ろに付けてるの」


「そうか。それならいいんだが」

「さあ。今度は前の壁に張り付くの。スノウィを運ぶの、手伝うの」


「前の壁にか?」

「落下傘を開いて、速度が急に落ちれば、今度は前に飛ばされるの」


「おう、そうか。わかった」


 レイニィと、元勇者は気絶しているスノウィを前の壁に運びながら話を続ける。


「……って。また、発射と同じ状態になるのか?」

「そうなの。これで終わりではないと言ったの」


「……」


 元勇者が渋い顔をレイニィに向ける。


「それでは、落下傘を開くの」


 レイニィは前の壁に背を付けている。


「三、二、一。展開!」


 レイニィが、魔法を使って、箱の後部に取り付けられていた落下傘を開く。

 箱に急制動がかかり、三人は壁に押し付けられる。


「グワ! これ、どのくらい我慢すればいいんだ?」

「三分くらい? なの。あたしもはっきりわからないの」


「おい!」


 バリバリバリバリ!


 元勇者がレイニィに突っ込んだところで、外から何かが破れるような音がして、三人を壁に押し付ける力がなくなった。


「何だあの音は? それに急に楽になったぞ」

「……。落下傘が破れたみたいなの……」


「何だと?!」

「……。私が魔法で加速した分、落下傘が風圧に耐えられなかったのかもしれないの」


「おい! 何てことしてくれたんだ。それでこれからどうなる?」

「このままだと地面に激突なの」


「落下傘の予備はないのか?」

「ここにあるの」


 レイニィは予備の落下傘を神の封筒から取り出す。


「そうかよかった。なら早く取り付けて開いてくれ」

「でも、このままだとまた壊れるの」


「どうにかならないのか?」

「魔法で制動をかけてみるの。でも、重量が少しでも軽い方がいいの」


「軽い方がいいと言われても、この中には捨てられる物など何もないぞ?」

「箱自体を捨てるの!」


「それって、飛び降りるということか?」

「そうともいうの。さあ、スノウィを背負うの。あ、変なところを触ったら駄目なの」


「こんな緊急時にそんなことするか! 第一、俺はこう見えて百十歳だ」

「そうだったの。ただのエロ爺なの」

「エロ爺いうな!」


 元勇者は文句を言いながらも、スノウィを背負ったのだった。


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