第86話 お姉神様降臨なの。
箱に付いていた落下傘が壊れ、予定していた着地ができなくなったレイニィ達は、箱を捨て飛び降りることとした。
元勇者が予備の落下傘を身体に括り付け、そして、気絶したスノウィの背負う。そのスノウィの背中にレイニィがしがみ付いた。
親亀の背中に子亀、子亀の背中に孫亀を乗せた状態だ。
「さあ、飛び降りるの!」
箱の入り口の扉を開け、レイニィは元勇者に命令する。
「高いな……」
「当たり前なの。低くなってからでは間に合わないの」
「そうだな……。では、いくぞ……。飛び降りるぞ……。それ……」
「はー。さっさとするの!」
掛け声は掛けるが、いつままでも飛び降りない元勇者に、レイニィは溜息をついて魔法をかけて外に押し出した。
「止めろ! 無理に押し出すな。あーーー!!」
箱から押し出された元勇者は、風圧を受けて落下速度が落ちる。
箱はそのまま落下を続けるため、見た目には箱から飛び上がったように見えた。
「魔法で制動をかけるの」
レイニィの魔法により落下速度が落ちていく。箱との距離はますます開いていった。
「落下傘を開くの」
頃合いをみて、レイニィが落下傘を開いた。一気に落下速度が落ちる。
「グエ!」
元勇者に括り付けておいた落下傘の紐が、元勇者の身体に食い込む。
おまけに、背負っていたレイニィとスノウィの体重分も加算されている。
元勇者は、意識はあるもののそのままぐったりしてしまった。
レイニィは、落下傘を魔法で操作して城塞都市セットに向けて降下していく。
ここまで降下速度が落ちれば、後はゆっくり景色を楽しみながら降りても問題ない。
城塞都市セットからいくつか山を越えた先に、噴煙を上げている火山も確認できる。
ドッカン!
レイニィが景色を楽しんでいると、大きな音がして、城塞都市セットの先の山の中腹から土煙が上がっている。箱が墜落したようだ。
近くで噴火が起こったのかと、不安になった住民達が様子を見に外に出てきた。
そのうちの何人かが落下中のレイニィ達を見つけた。
「あれは何だ! 人がぶら下がっているのか?」
「おい、誰か警備兵に知らせろ!」
「いや、あれは尾根神様ではないのか?」
「そうだ。あれは山神様だ!!」
住民達が全員手を振ってレイニィを迎える。
レイニィも手を振って応え、住民達の輪の中に神の如く降り立ったのだった。
落下傘で城塞都市セットに降下したレイニィは、住民達に囲まれていた。
「うー。身体中が痛えー」
元勇者が身体の痛みを訴えるが、治療が必要なほどではないようだ。
「はっ! ここはどこ? レイニィ様はどちらに?」
スノウィも無事目を覚ました。
「スノウィ。私はここなの。セットに着いたの」
「もう着いたのですか? 私はその間ずっと気絶していたのですか――」
「そうなの。といっても、十分ちょっとなの」
「十分で、セットまで来てしまったのですか? すごいですね――」
「おかげで死ぬ思いだったがな」
元勇者はレイニィを睨み付ける。
「まあまあ、無事だったのだから、大目に見るの。それより救助活動なの。誰か状況が分かる人はいないの?」
そこに人混みをかき分けて一人の少女がやってきた。
「レイニィお姉神様。来てくれたのですか!」
「ウォーミィ。要請を受けて飛んで来たの!」
レイニィとウォーミィは手を取り合う。
「助かります。それにしても早かったですね。少なくとも後二、三日はかかると思っていたのですが――」
「研究中の乗り物で来たの。ここまで十分ちょっとだったの」
「十分?!」
「あれは乗り物じゃないだろう――」
ウォーミィは驚き、元勇者はボソリと文句を言う。
「そんなことより、救助が必要な集落はどこにあるの?」
「そうですね。それでしたら私が案内します」
「ウォーミィ、それじゃあ案内をお願いするの」
レイニィは神の封筒から熱気球を取り出す。
「うおー!」
突然、気球が現れ、周囲の住民達からどよめきが起きる。
「じゃあウォーミィ乗って。行くの」
「はい!」
レイニィとウォーミィ気球に乗り込む。
「レイニィ様、私も同行します」
「俺も一緒に行くぞ」
スノウィと元勇者も気球に乗り込もうとするが、それをレイニィが止めた。
「集落の住民を全員一度には気球に乗せきらないだろうから、乗れる人数を確保するために、二人はここで待機なの」
「そういうことなら仕方ないか」
「レイニィ様、一緒に行けませんが気を付けて行ってきてください」
「それじゃあ行って来るの!」
レイニィとウォーミィは、溶岩で孤立した集落に向けて気球で出発したのだった。
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