第81話 通信手段を考えるの。

 村長から、毎年田んぼに魔力を供給してもらいたいと頼まれたレイニィは、報酬として、お金ではなく、村での気象データを毎日三回観測、記録し、報告してもらいたいと要求した。

 そこで問題となったのが報告の方法である。

 レイニィとしては、毎回リアルタイムで報告が欲しいところであるが、この世界にそんな便利なものはなかった。


 レイニィはあれこれ考えた末、探索魔法を使う方法を思いついた。


「一つ思いついた方法があるの。観測器具を置く側に小屋を建ててもらって、そこに魔石を納められる棚を作って欲しいの」

「それは構いませんが、魔石はどの位必要でしょうか?」


「納める棚だけ用意してくれれば、魔石はこちらで用意するの。だいたい、拳大の魔石が四列十六段並べて納められる棚があればいいの」

「わかりました。直ぐに用意させます」


「そして、これからが大事なことなの。気象観測した結果に応じて、観測後直ぐに、魔石を納める場所を変えてもらいたいの」

「魔石を納める場所を変えるのですか?」


「例えば。天気の変化は一段目を使って。晴れなら一列目に魔石を納めて、曇りなら二列目に納めるの。

 二段目と三段目は、気温に使って、気温二十六度なら、二段目は二列目に、三段目は一列目と三列目に魔石を納めるの。

 みたいな感じなの。

 どの天気の時にどこに魔石を納めるかは後で紙に書いて渡すの」


「一覧表を作ってもらえるなら出来ると思いますが、これに何の意味があるのですか?」

「私が、家から探索魔法で魔石の並びを読み取れば、観測結果を知ることが出来るの」


「港町ライズから、ここの魔石の並びを知ることができるのですか!」

「出来るの。簡単なの!」


 村長が呆気にとられている。


「そんなこと出来るのはレイニィだけだぞ」


 エルダが呆れて声をかける。


「そうなの? 先生でも、探索場所を一点に集中すれば出来るの」

「出来るかも知れんが、非常に疲れて、一日何度も出来んぞ」


「わかりました。それでは、祠を建てて、そこに魔石を一日三回納めさせていただきます」


 村長は気を取り直して、レイニィに頭を下げた。


「祠でなく、ただの小屋でいいの」

「いえ、魔石を納めておく以上、盗まれたら大変です。祠としておけば、盗もうと思う不届き者もいないと思います」


「そうなの? それならそれでいいの!」

「ありがとうございます。レイニィ様」


 村長は拝む様にレイニィに感謝を捧げた。


 この時、レイニィの称号、『希少世放神』の後ろに書き加えられている信者数が三桁を越えて増えていたのだが、レイニィはまだ、信者数がカウントされていることに気付いていなかった。


 村長との話は上手くまとまった。だが、ここで元勇者が口を挟んできた。


「だけど、これだとレイニィ以外使えないよな。もっとみんなで使えるものはどうにかならないか?」

「それだったら、最初に言っていた電信なら、技術的には簡単そうだからどうにかなりそうなの。電気は無いから『魔信』になるの」


「そうか。なら、そっちの方もよろしく頼む」

「技術的なことは教えるの。後は自分でどうにかしてほしいの。勿論、技術料はいただくの」

「わかってるって――」


 レイニィは、村から帰ると早速『魔信』の開発に取り組み、また元勇者から多額のお金を巻き上げたのだった。


『魔信』といっても構造は極めて簡単だ。

 ミスリルを混ぜた合金で導線作り。それにより、魔石と照明を繋いで、途中にスイッチを付けただけだ。

 このスイッチで照明を点滅させ。モールス信号の様に通信する。

 後は、『魔信柱』を立てて、ひたすら導線を張り巡らせるだけだ。

 後は、元勇者の頑張り次第である。


 勿論、南部水田地帯の村と港町ライズのレイニィの住む屋敷との間に、導線を張ることを最優先にするように、レイニィは元勇者に約束させたのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る