第80話 村長さんのお願いなの。

 沼の水に魔力を帯びさせることに成功したレイニィ達は、村に戻って田んぼの様子を確認することにした。

 レイニィ達が戻ったのを知り、村長たち村人も集まって来た。


「沼の水に魔力を込めることには成功したの」

「本当ですか。それはありがとうございました」


「ついでに沼の主も退治しておいたぞ」

「偉そうに、退治したのは、お前ではないではないか」


「ぐっ!」

「かば焼きにしましたからね。後で、皆さんで食べてください!」


 スノウィが大量のウナギのかば焼きを村人たちに振舞う。


「おー。重ね重ね、ありがとうございます」

「これは、うまそうだ!」


 ウナギのかば焼きに村人たちが盛り上がるが、肝心なのは田んぼの方だ。

 レイニィは、冷静に田んぼの確認を村長にお願いした。


「それで、田んぼの方はどうなの」

「沼からの水を新たに入れたところは、黒い砂が無くなって、逆に光り輝いているようですが――」


 村長が田んぼの様子を確認し報告する。


「これは、少し魔力過多かも知れんな」


 エルダが田んぼを心配そうに覗き込む。


「魔力過多だと不味いの?」

「うーん。不味くはないのだが、レイニィにとっては不味いかもしれんな」


「どういうことなの?」


「魔力が極端に多すぎれば当然弊害が出るのだが、このぐらいの魔力過多だと、収量が二倍とまではいかないが、五割は増えるんじゃないか」

「それは、いい事なの」


「それ自体はいい事だ。じゃあ、何でみんなそうしないと思う?」

「え? うーん。味が落ちるとか、なの?」


「いや、味はむしろおいしくなる」

「いいこと尽くめじゃないの!」


「魔力を込めれば、収量も増えて、味も美味しくなるのは、わかっていたのですが、実際には費用が掛かり過ぎて、誰もやらなかったんですよ」


 村長がエルダに代わって答えを教えてくれた。


「そういうことだ。レイニィが前に魔力を込め過ぎて作った光の砂があるだろう。あれを撒けば収量が上がるのだが、収量が増えた分より、光の砂の方が高いんだ」

「なるほど、それは使えないの」


「ところが、ここに、費用を掛けず収量を上げることができる者がいる。そうなればどうなると思う?」

「どうなるの?」


「お願いします。どうか毎年、魔力の供給をお願いします!」


 村長がレイニィに頭を下げてお願いした。


「と、こうなる」

「えー! 面倒くさいのー」


「そこをなんとか。ただとは申しません。増収分の半分。いえ、六割をお支払いしますから、お願いいたします」

「そう言われてもなの――」


「レイニィ様。この村全体となると、かなりの額になりますよ」


 スノウィがレイニィに耳打ちする。


「でもなー。お金には困ってないの」

「でしたら、他に、私たちで出来ることがあれば言ってください」


「皆さんに出来ることなの? うーん。そうだ。この村で気象観測をして、その結果を報告して欲しいの」

(この国では、天気は南から変わることが多い。この村は港町ライズから見れば南にある。この村の気象データが取れれば、天気予報に大きく役立つわ)


「気象観測? ですか?」

「具体的には、一日三回、朝昼晩と決まった時間に、天気と気温とかを調べて記録して、それを私に知らせてほしいの。

 気温とかを調べる装置は、私の方が用意するの。

 使い方もお教えるの。

 その辺は心配しなくても大丈夫なの」


「調べるのは構いませんが、それをどうやってお知らせしましょう?」

「え? あ、そうなの。出来ればすぐに知りたいの。だけど、無理なの……」

(この世界、電話も無線もない。伝書バトぐらいいるかしら。見たことないけど。ハトの調教から始める? それなら電話機作った方が早いかしら――)


「電信でも始めたらどうだ。技術的な部分を考えてくれれば、実際にやるのは俺がやってもいいぞ」


 元勇者がレイニィに提案する。

 元勇者は技術をどんどんと発展させて、この世界の界位を上げたいと考えているため、新しい技術に関しては協力的だ。


(電信。モールス信号とかのあれか。電話より簡単かな? 電線さえ張れれば、後は何とかなりそうよね。でも、ここと、家まで電線を引くとなると何年かかることやら。

 そうなると、無線、つまり電波ね。こちらの世界は電気が無いから、魔波かしら。探索魔法もあるからどうにかなりそうよね。

 ん? ちょっと待って……。探索魔法を使えば、一方通行だけど、どうにかなるんじゃないかしら)


「いいこと思い付いたの!」


 レイニィはニヤリと笑うのだった。


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