二年目、六歳
第69話 城塞都市セットに行くの。
レイニィは、年末にしたサニィとの約束通り、城塞都市セットに一緒に行くため、一先ず首都シャインを目指していた。
といっても、前回の様に五日を掛けた馬車の旅でなく、熱気球を使って一日で移動する。
気球なら直線距離で、疲れることもないので、休憩も昼食を含めて三回程度で十分だ。しかも、レイニィの風魔法により、行きたい方向に高速で移動できる。
「春といっても上空はまだ寒いわね」
「レイニィ様、もう一枚羽織りますか?」
スノウィが心配して声を掛ける。
「そこまでではないから大丈夫。そうだ、この周りの空気も暖めちゃお」
「あ、温かくなりました。ですが、そんなに魔力を使ったも大丈夫なのですか?」
「んー。疲れた感じはないから大丈夫じゃないかな? この方法を使えば真冬でも飛べるわね」
レイニィは、冬場は寒いので、気球の使用を控えていた。
「レイニィは本当に、どれだけ魔力があるのだろうな……」
エルダが感心した様に呟く。
「ステータス表示とかあれば、わかるの。でも、見たことないの」
「ステータス? 何だそれは?」
「個人の能力を数値化したりして表したものなの」
「いつもレイニィがやってる事の人間版か」
「私がやってる? ああ、気象観測のことなの」
「あれと同じ様に、魔力計を作ればいいんだろ。できないか?」
「無理なの。前世の記憶にある異世界には魔力が無かったの。ん。待てよ。電力計や電圧計でいいのか。どんな構造だったっけ?」
「お嬢様、高度が下がっているぞ」
周囲を警戒しているアイスに注意される。
「あ、ごめん。他の事に集中し過ぎたの。今高度を上げるの」
今回、ライズから乗ってきたのは、レイニィ、スノウィ、エルダ、アイスの四人である。
やがて、夕方には首都シャインに到着した。
「レイニィ、よく来てくれたわ。それにしても空を飛んで来るなんてびっくりだわ。これは何なのですか?」
「サニィお姉様、お久しぶりなの。これは熱気球といって、風船の中の空気を温めて飛ぶものなの。城塞都市セットにはこれで一緒に行くの」
「私もこれに乗っていいのですか」
「最大八人まで乗れるの。城塞都市セットまでなら一日で着けるの」
「そんなに早くですか? 凄いですわね。でも、空を飛ぶのは少し怖いですわ――」
「落ちる心配はないから大丈夫なの。空の旅は気持ちいいの」
「そうですか? なら、勇気を振り絞って乗ってみます」
翌日、早朝からサニィとその随行者、合わせて四人を加え、レイニィ達は、首都シャインを飛び立った。
「凄いですわ。建物があんなに小さく。まさに鳥になった気分ですわ」
サニィは大喜びであった。
気球の飛行は順調で、夕方近くになり、城塞都市セットが見えてきた。
城塞都市セットは、山脈の中腹にある、城壁に囲まれた街である。
山脈を超えた先には広大な砂漠が広がっており、そこの遊牧民である砂漠の民がこちらに侵入してくるのを防いでいる。
夕陽に照らされた街並みは、まさに質実剛健。堅牢で頑丈。石造りの建物が立ち並んでいた。
レイニィは気球を城門の横に降ろす。
すると、城門から多くの兵士が出てきて囲まれてしまった。兵士たちは明かに警戒している。
「何だ、お前達は、空を飛んで来るなんて怪しい奴!」
「俺達は、国主の令嬢サニィ様と港町ライズの領主の令嬢レイニィ様とその随行者だ。訪問の話は来ていると思うが?」
「これは失礼した。来訪の話は聞いているが、空から来るとは聞いていなかった。領主の元へ案内しよう。馬車を用意するから少し待ってくれ」
兵士に問い詰められるが、アイスが代表して説明すると、兵士は納得して馬車を用意してくれるという。
来賓を、城門から城まで歩かせるわけにはいかないと考えた様だ。普通なら来賓は馬車で来るはずだから、そんな心配をする必要はないのだが。
「ところで、あれはどうするのだ。あのままあそこに置いておくつもりか?」
「今、片付けるの」
レイニィは、兵士に答えると、神の封筒を取り出して熱気球を収納した。
「ウオー!」
「何だ! どうなった?」
「今なにをした? あのでかいのが一瞬で消えたぞ!」
兵士たちは大騒ぎである。
サニィとその随行者達は、さもありなんといった表情である。正しく昨日の自分たちをみている様であった。
一方、レイニィの随行者達は苦笑いである。
一人、レイニィだけが、どこ吹く風といった表情で、それこそ、風の吹く方向に気を取られていたのだった。
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