第53話 連凧作戦なの。

 連凧で暴風龍と仲良くなろう作戦発動中である。


「しかし、何故私は、ただ延々と竹ヒゴを炙って曲げなければならないのだ?」


 エルダが蝋燭の焔で竹ヒゴを炙りながら愚痴を言う。


「それは、先生が凧の作り方を教えて欲しいと言ったからなの」


 レイニィはいかにも当然であるかのように答える。


「確かにそうは言ったが、それにしたって、同じ作業の繰り返しばかりではないか!」

「炙り三年なの! 何事も究めるには時間が掛かるの」


「別に、私は凧作りの職人になりたいわけではないんだが――」

「冗談なの。仕事を効率的に進めるには分業化するのは基本なの」


 竹を割り、竹ヒゴを作る作業をアイスが、その竹ヒゴを炙って曲げる作業をエルダが、それを十時に組む作業をレイニィが、それに四角い布を縫い付ける作業をスノウィが行っていた。四角い布は別の部屋でミスティが裁断していた。


「なら、レイニィ。作業を交代しよう。私がその十字に組む作業をするよ」

「あたしは、それでもいいの」


「駄目ですよ。お嬢様がもし火傷したら大変です。変わるなら、私と変わりましょう」


 スノウィがエルダを止めた。


「私は、針仕事は苦手なんだ」

「なら俺と変わるか?」


 アイスが声を掛ける。


「私は貴方の様に、剣の一振りで竹ヒゴを作る様な真似はできん」


 アイスが、竹を放り上げ、剣を一振りですると何故か竹ヒゴになって落ちてくる。一体、一振りの間に、何度切っているのだろう。全く剣筋が見えない。


「よい剣の訓練になるのだが、やってみないか?」

「私は剣士になる気もない」


「あれはやだ。これはできない。と我がままなの」

「協力してやっているのに、何故そこまで言われなければならん」


「はいはい。手が止まってるの。今日はまだ後百は作るの。無駄口を叩いている暇はないの」

「ぐぬぬぬ!」


 数日の日を要し、こうして千枚の連凧が完成した。


「これだけあれば暴風龍の気もきっと引けるの。早く来ないか楽しみなの」


 それから二週間後、秋の始まりに暴風龍はやってきた。


「いよいよなの。どんどん連凧をあげるの!」


 千枚の連凧が長く連なってあげられる。


「お嬢様、龍が連凧に気付いた様ですよ」

「本当なの、仲間だと思って近づいてくるの」


 暴風龍は、以前エルダから聞いていた通り、蛇の様に細長く、小さな手足が付いていた。

 口は大きく裂け。頭にはシカの様な角が二本生えていた。


 その龍が、連凧の周りを回り出した。


「親愛の情を示してるの!」

「いや、あれは敵意を示しているのではないか?」

「ただ単に興味を示しているだけでは?」


 アイスが本質を突いているが、身も蓋もないことを言う。


「それで、これからどうするんですか、お嬢様」

「どうするって、どうするの?」


「どうするのって、龍を連凧で引き付けたら、その後どうするか考えてなかったのか?」

「龍が連凧を仲間だと思って、仲良くなれると思ってたの」


「あ、龍が離れて行ってしまいますよ」

「龍さん待ってなの!」


「あー。行っちゃったなー」

「これまでの私の苦労は何だったのだー。竹細工の名工といわれるレベルだぞ」


「連凧。片付けますか――」


 スノウィが現実を直視して言う。


「ううう。龍さん、カムバックなの!」


 嵐の中、レイニィは映画のラストシーンさながらに叫ぶのだった。


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