第38話 星見人と会うの。

 エルダはミディアの家の下に着くと、大声で木の上の小屋に向かって叫んだ。

「ミディアいるか!」


 少しすると小屋の扉が開いて、エルフの少女が顔を出した。


「エルダ、あんたねぇー。面倒くさがらないで上がって来てから呼び掛けなさいよ!」

「だって、もし留守なら無駄足だろ」


「はー。全く。それよりあんた、また無駄に『女神様のお恵』を落としたわね」

「女神様のお恵?」


「ゴミのことよ」

「ゴミって言うな。あら、その子誰?」


「レイニィなの」

「まあ、レイニィというの。私はミディアよ。ちょっと待っててね」


 そう言うと、ミディアはスルスルと梯子を降りて来た。


「レイニィちゃんは可愛いわね。何歳かな?」

「五歳なの!」


「そう。何か食べる? 飴ちゃんあげようか?」

「飴ちゃん?」


(このエルフ、大阪のおばちゃんか! でも、飴は欲しいかも――)


「お嬢様、知らない人に飴ちゃんあげると言われても、付いていったら駄目ですよ」


(はっ。そうだった。こちらの世界は甘い物が少ないから、思わず気を惹かれてしまった)


「ミディア、幼女を餌付けしようとしないで」

「エルダこそ、この子どうしたのよ。攫って来たんじゃないでしょうね」


「レイニィは今の教え子よ。銀スライムを狩に来たの」

「こんな小さい子に、スライム狩りなんて危ないでしょ」


「レイニィなら大丈夫よ。来る途中も二人で大熊(グレートベア)を倒して来たし」

「エルダ、それで『女神様のお恵』を落としたのね。自分の格好良いところを見せて、その子の気を引こうとしたんでしょ」


「ううん。違うの。あたしが大熊も呼び寄せちゃったの」

「まあ、そうなの。レイニィちゃんの可愛さを見たら、大熊も寄って来るわよね」


「そういうわけで、ゴミを落としたのは仕方がなくだ」

「だから、ゴミって言うなー!」


 その後レイニィ達は、ミディアの強い勧めで、ミディアの小屋に上がり、お茶をいただいていた。


「ミディアの職(ジョブ)は、星見人で、星の動きから未来を予測する事を仕事にしているんだ」

「占い師なの?」


(星座はなくても星占いはあるのか――)


「星見人は、占い師じゃないわよ。ちゃんと軌道計算に基づいた予測よ。だから、無闇に軌道を変えられると再計算が大変なのよ」

「あんな小さなゴミ一つ、大した影響ないだろう」


「その一つが、他に影響を与えて、連鎖的に大きく変わってきてしまうのよ」


「星の動きが、未来に影響するものなの?」

「星の動きによって、太陽の活動が活発になったり、衰えたりするのよ。それによって地上に降り注ぐ、魔力も日射量も変わって来るの。影響が出て不思議じゃないでしょ」


「確かにそうなの。日射量は大事なの」

「レイニィちゃんは、わかってくれたんだ。ありがとう」


 ミディアはレイニィの頭を抱き寄せる。


「でもな。女神様がゴミを追加する度に、軌道計算のやり直しで、結果が変わっちゃうからな。当てにならないだろう」

「何事にも、イレギュラーは存在するものなの」


 エルダに対して、レイニィがミディアを擁護する。


「そうよ。そうよね。レイニィちゃん」

「完璧なんてものはないの。それでも、予測を立てて、伝えていかなければいけないの」


 レイニィにしてみれば、ミディアのしていることは、天気予報に通じるものであった。

 そのため、ミディアにシンパシーを感じていたのだ。


「レイニィは随分、ミディアの肩を持つな」

「あたしとミディアさんは同士なの!」

「レイニィちゃん。ありがとうー」


 ミディアはレイニィに抱き付いて、お礼を言ったのだった。


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