第9話 文字を覚えるの。
スノウィは部屋を出て一冊の本を持って戻ってきた。
レイニィはそれを受け取り中身を確認する。
絵の下に文字が書かれている。
五十音表の様なものが書かれたページもあった。
子音と母音に分かれていてローマ字の様な感じだ。
数字について書かれているであろうページもあり、幸いなことに十進法である様だ。
「これならすぐに何とかなるかしら」
「異世界の文字と同じなのですか?」
「いえ、違うけれど、同じ様な規則性の文字もあったから」
「規則性ですか?」
スノウィが首を傾げる。
「この文字は子音と母音からなっていて、その組み合わせで音を表しているでしょ。異世界にも同じような言語があったのよ。
でもね、異世界の言語は一つではなく、何千という文字を使う言語もあって、その文字は一つ一つに意味があるの。しかも、一つの文字に読み方が複数あったのよ」
「複雑ですね。古代語みたいなものですかね?」
「ああ、こちらにも似たような言語があるのね」
「古代語は遺跡から発掘されるだけで、普段は使われることはありません」
「なら、それは覚えなくてもいいわね。文字はこの本を勉強すれば良いとして、次に何をやるべきかしら?」
レイニィは、一人ぶつぶつと考えだす。
「魔法は、魔術の先生が来てからの方が良いだろうし。
試練の達成も、魔術が使えないと大変そうね。
やはり『お天気キャスター』を目指すからには気象観測よね。地道な記録の蓄積が大切よ。
よし決めた、気象観測をしよう!」
「気象観測とは何をされるのです?」
「天気を記録するのよ。あと、気温と湿度、風向と風速、降水量、気圧とか色々調べて記録するの」
「日記を付けるということですか?」
「まあ、日記ではあるけれど、今日は暑かったとか寒かったではなく、気温三十度とか十度とか数字で記録していくのよ」
「その数字は、どうやって決めるのですか?」
「温度計で測るに決まっているじゃない」
「温度計? なんです、それ?」
「もしかして、温度計ないの?」
「初めて聞く名前ですが――」
スノウィには初めて聞くことばかりで「???」の連続である。
「ガーン。まずは温度計とか測定器具から作らなくてはならないの」
一方、レイニィはショックを受けてその場に項垂れる。
「お嬢様頑張りましょう。一からコツコツと、です!」
スノウィはそんなレイニィを励ますのだった。
「はー。そうね。頑張るしかないわね。それに温度計とか、こちらの世界に無いなら、異世界の技術を広める、という女神様との約束も果たせるし」
「そんな約束をされたのですか?!」
スノウィはビックリする。女神様と約束したからには、それを果たさないと、どんな神罰があるかわからない。
「異世界の技術を広めることと引き換えに、女神様の加護をもらったのよね」
「それで三つも女神様の加護を授かったのですか……」
スノウィは呆れていた。
これは女神様と約束したというより、取引したと言った方が正しいだろう。
神様は絶対だと思っているスノウィにとっては、畏れ多くてとんでもない事だった。
「加護の数については女神様の判断よ。私からは何も言っていないわ」
「それだとしても……。お嬢様。明日からでも温度計? とかを作りますよ!」
これは、なんとしてでも、女神様との約束を果たさせなければいけない。
そうしなければ何が起こるかわからない。
スノウィの意気込みは半端なものではなかった。
「……。頑張ります――」
スノウィの剣幕に、そう答えることしかできないレイニィであった。
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