卒業。
固まる私を父と山先生はずっと見ていた。
『何か言わなきゃ…』
そう思えば思うほど言葉が出てこなかった…
山先生「そんなに身構えるな(笑)
今日はお前を強引に連れ帰ったりしないから。」
山先生はそう言いながら笑ってみせていたが
目が笑ってなかった。
父「どうぞ。」
父がそう言いながら山先生に上がるように促し、
山先生は「すみません、ではお邪魔します…」と靴を脱ぎはじめた…
祖父「遠いところからわざわざすみません…」
祖父の声がいつもより低かった…
重い空気の中、私は山先生と向い合わせで座り
祖母が準備してくれたお茶を前に父と祖父母が見守る中、戻りたくない私と強制退所させたくない山先生は話を始めた。
山先生の提案は1度教護院に戻り手続きが完了次第退所するというもの。
けれど、帰れば体罰が待っているのを知っている私は帰りたくないの一点張りで話は全く進まなかった…
父「先生。強制退所というのはどういうものですか?」
痺れを切らした父が口を開いた。
山先生「簡単に言いますと、入所も退所も親御さんの意思で決まるということです。」
父「なら、ワシが責任を持ってこの子を見ると言えば教護院には…ということですか?」
山先生「はい。そうです。
ですが、本人を目の前にしてこんな話はどうかと思いますが…幼少時代に最初の身近な異性…つまり、お父様が居なかった子というのは他の子と比べ異性に対しての見方が違います。
この数年間、私共はそこを何とかしてやらなければ…と、力を尽くして来ました。
言いにくい話ですが私から見てもえさんはまだ治っていないと思います。
そしてそれは、今後もえさんに辛い思いをさせるのもだと思っています。」
父「退所前だったのにですか?」
山先生「なので、もえさんの退所後の就職先は私共の目の届く近場で探していました。
お父様がもえさんの為に色々と始められていたのは知っていました。
実際、拝見させて頂いて素晴らしい環境だと思います。ですが…」
まだ続きそうな山先生の話を父はさえぎり
父「ありがとうございます。
この子は私が責任を持ってこれからは育てます。
お引き取り下さい。」
父はそう言ってくれた。
山先生は黙ったままお茶を一口飲むと
「解りました…」
そう言って席を立った。
誰が正しくて間違っていたのか解らないまま
私は教護院から卒業した。
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