写真。
私には幼い頃の写真がほとんど無かった。
姉はその事を「お前は本当の子じゃないから」と
子供の私に言い続けてきた。
その言葉を信じていた訳ではなかった。
けれど、母から父との離婚しようと思っている事を知らされ…どちらと住むのかと聞かれた翌日
私は家中の私自身が写っていた数少ない写真と卒業証書、卒業文集など全て焼き捨てた。
私の中の密かな決意だった。
『もう、誰もいらない。』
燃えて灰になっていく写真を見ていても
もう涙1つ出なかった。
本当に何の感情もなく、淡々と燃やした記憶がある。
そして、燃やし終わると私は家を出た。
数枚の下着と着替え2着だけを持って
この頃の彼氏の元へ転がり込んだ。
皆の溜り場となっていた彼の家には
彼の家族も一緒だったけれど
不思議と私だけは受け入れられ
おばちゃんと『学校だけは行く』という約束をした私は、真面目に彼の家から学校だけには通った。
この頃は毎日が楽しかった。
学校から帰れば彼の歳の離れた弟を迎えに行って
帰ってくれば必ず誰かが家にいた。
おばちゃんがご飯を作ってくれ
家族が集まると皆で囲む食卓。
おばちゃんと話ながらする片付け。
夜になると彼は暴走に出たけど
彼の代わりに同級生達が部屋に来てワイワイと過ごす。
誰も居ない1人の時間なんてなくて、いつも賑やかで
笑顔と笑いが絶えなかった。
この頃から私は『家族』というものに憧れ始めた。
お父さんという大黒柱が居て、子煩悩なお母さんが居て…子供達がいて、会話が弾む家庭。
悩みがあればお母さんに話して、解決策を導いてくれるお父さんが居て…子供が安心して過ごしていける家庭。
私の家族。
私だけの家族が欲しいと心から願うようになっていた。
が、そんな生活は1ヶ月もしない内に終わる。
母が何故か駐在のおじさんと私を迎えに来た。
おばちゃんに呼ばれ玄関に行くと
そこには虚ろな目をした母が立っていた…
私「なに?」
母を見てそう言った私におばちゃんが
お「もえ、お母さんにそんな言い方はやめな。」
そう言って頭を軽く叩いてきた。
私「だって…」
私がそう言いながらおばちゃんを見ると
母は大粒の涙を流しながら
母「もえちゃん、ごめんなさい…謝るから…今までのことはお母さんが全部悪い…本当にごめんなさい…
だからお願いだから帰ってきて…」
そう言ってきた。
泣きながら頭を下げ謝る母をみて『はぁ?』そんな感情しかこの頃の私には沸いてこなかった…
けれど、おばちゃんに説得され
私は渋々家に帰ろうとした。
荷物を持って玄関に行き、見送ってくれてる彼氏とおばちゃんに挨拶して振り返った瞬間、見知らぬ男の人の姿が私の目に入ってきた…
『誰?』そう思った瞬間だった。
男「もえ、帰るぞ。お母さんにあまり心配かけるな」
見知らぬ男の人は私にそう言いながら私の背中に手を回して来ようとした。
『こいつが新しい母の男?』
そんな思いが頭を過った瞬間、私は怒りが込み上げてきて、思わずその男の人の手を振り払い階段から突き落としてしまった…
私「その汚い手で私に触るな!」
階段の下で腰を擦っている男の人にそう叫ぶと
母が私の身体を突き飛ばしながら男の人に駆け寄った。
母「大丈夫ですか?すみません!
もえちゃん!なんてことするの???
この人は警察の人でお母さんがずっと相談に乗ってもらってた人なのに!」
さっきまで泣いて謝っていた母とは思えない母の変わりように私は思わず鼻で笑ってしまった
私「だから?何?(笑) つまり、まぁー君のお父さんとは別れたってこと?
で、寂しいから今度はそいつと?(笑)」
私のこの言葉は母を黙らせ、騒ぎを耳にして出てきたおばちゃんによって私はまた彼氏の家に戻り、母と駐在の男の人は帰って行った。
この日の夜、私は何時間もおばちゃんと話した。
おばちゃんは私に家族が大切なこと。
私が居ると彼氏にも彼氏の兄弟にも良くない影響があること。
そして、何より私自身に良くないことを何度も頭の悪い私に理解できるように話してくれた…
お「もえ、ごめんね…」
この日の夜、おばちゃんはそう言いながら初めて私を抱きしめてくれた。
私はおばちゃんにお母さんという存在の人が欲しかったと心の内を話せた。
愛を持って叱ってくれ、暖かく包んでくれる
お母さんと呼べる欲しかったと…
そして、次の日の朝
私は皆が寝ている間に彼の家を後にした。
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