母の嘘。

私が小学2年の冬。









この日は大雪警報がお昼過ぎから出ていた。











土曜日だったが学校は休みで、私は母と家にいた。










お昼ごはんを食べ終わると急に母が出かける準備をし始めた。










私「どこに行くの?」










そんな私の問いに










母「明日、買い物に困るから今から行ってくる」











私「じゃぁ、もえも行く!」










母「車を遠くに停めて帰るから…もえちゃんは家に居て。」









私「何で?」










母「明日、車が出せないと困るでしょ?」











そんな会話の後、母は傘も持たずに出かけた。










子供ながらに何かがおかしいと思った…









けれど、何もできず私は母を見送った。











この日、母は1時間経っても2時間経っても帰ってこなかった。










夕方になり、雪はやむ気配もなく

それどころかどんどん積もっていった…










流石に心配になってきた私は傘を2本持ち母を探しに行った。









買い物と言えばあのお店だ。









母の買い物先に心当たりがあった私は

母の車を探しながら近所のスーパーへと向かった。










いつもなら徒歩15分もあれば着く店に

雪に足をとられ30分近くかかった…










駐車場に母の車はなく、店内にも母の姿はなかった…










辺りは薄暗くなっていて急に心細くなる…










しばらくスーパーの店先で待ってみたが









重い足取りで家に帰ることにした。










家が近づくにつれ、私は心配と心細さで泣きそうになっていた。










そんな中、家の直ぐ近くの銀行の駐車場の奥に

テールランプが付いた車と、その横に母の車を見つけた。











『お母さんだ!』











私は心の中で母を連呼しながら車に駆け寄った。











『お母さん、お母さん、お母さん…』










なぜ、母の車ではなく隣に止まってる車に近づいたのかは解らない…











あの時、母の車に駆け寄っていれば

私と母の関係は良好だったのかも知れない…











けど、私は隣に止まってる見知らぬ車に駆け寄り

運転席を覗き込んでしまった…










この時、私が目撃した光景は

今でも脳裏に焼き付いている。










母の女の姿がそこにはあった…










見知らぬ男の人の腕の中で幸せそうな顔をして

女の喜びに満ちている母の顔…










物音を立ててしまったのか、声を出してしまったのかは解らない…











けれど、私がその場を立ち去ろうとした瞬間











男性と目があった…











驚いた男性の顔を見て私はその場から走って逃げた。











男「もえちゃん!」











そんな私の後ろから男性が私の名前を叫んだ…











私が見た男性は、紛れもなく保育園の同級生のまぁー君のお父さんだった。











私は雪の中、何度も転けそうになりながらも

必死に走った。










『なんで?』









『どうして?』










『お父さん!帰ってきて!』











『やだ!』









そんな思いが次々と込み上げてきて

この時、私は完全にパニックに陥っていた。










どこをどう歩き、走ったのかは解らない…










けれど、気が付いたら近所の人に見付けてもらい

車で家まで送ってもらっていた。











玄関先に何事もなかったかのように笑顔で出迎えてくれた母…











この日の母は暖かい部屋で髪を拭いてくれて、とても優しかった。











私「お母さん、まぁー君のお父さんは?」










勇気を振り絞り聞いた私に母は










母「なんのはなし?何を言ってるの?」










そう言って笑った…











私「あそこの銀行の駐車場にいたでしょ?

何で車を持って帰ってるの?車を置きに行ったんだよね?」










母「もえちゃん?夢でも見てたんだよ。

お母さんは仕事に行ってくるって言ったでしょ?

それに、そんな人もそんな場所にも行ってない。

変なこと言わないで。」










『何でウソをつくんだろう?私、見たのに…』










そう思いながらも母の笑顔が怖くて

もう何も言えなかった…

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