父。
私は小学校に上がり、父が家に帰ってこなくなった。
私の送りがなくなったからなのか、仕事が忙しかったのか、この頃の私には知るよしもなかった。
母は、相変わらず父のお店を手伝いに行っていた…
が、以前と違うのは夜も手伝いに行くことが多くなった。
父が帰ってこなくなってから
私達の生活は変わった…
朝は姉に起こされ寝ている母を起こさないように
2人で食パンを食べて学校へ向かった。
家に帰ると朝のままの散らかった部屋を片付け
布団を直し、ご飯を焚き、お風呂を準備して母の帰りを待った。
夕食は決まって20時。
その頃に買い物をして帰宅した母は慌てて私達の夕食を作り、私達が食べ始めるとまたバタバタと出掛けて行った…
夕飯の片付けは姉の担当。
姉が洗い物を済ませると一緒にお風呂に入り
私達はいつ帰るか解らない母を待ちながらいつも2人で眠りに付く…そんな生活になっていた。
ある日の夜、私は父と母の声で目が覚めた。
声を殺しながら話す父と母は喧嘩しているように感じ
私は息を殺して聞き耳をたてた。
父「殺してやる…」
母「やめて!」
そんな言葉と同時にドタバタと音がした…
静かになったリビングでなんとなく…なんとなくだけど父が出ていくような気がして私は寝室を飛び出した。
明るい部屋で母は泣いていて、父の姿はなかった…
母「もえちゃん?どうしたの?」
いつになく優しい母の言葉を振り切り私は玄関に向かった…
私「お父さん!」
玄関のドアノブに手を当てていた父の姿がそこにはあった。
私の声に驚いたのか父の背中がビクッとなった…
私はそんな父の背中にしがみついた。
私「ヤダ!行ったらヤダ!」
父と母の間に何があったのかは知らなかった
ただ、ここで父が出て行ったら2度と会えない気がしていた…
父「もえ、離せ。」
父の言葉に私は父の服をしっかりと握った。
私「ヤダ!行ったらヤダ!お願い!お父さんお願い!」
私の止めどなく出てくる言葉と涙は
この時の父をどれだけ苦しめたのだろう…
今なら解る。
けれど、この時の私には全く解らなかった…
泣き叫びながら抱きつく私の手を父はゆっくりと、
そして力強く解き
父「すまん…」
そう言って背中を向けたまま出て行った…
玄関で声も出ない程泣きじゃくる私を母は抱きしめながら「怖かったね、もう寝なさい。」そう言ってたのを覚えている。
この日から私は父とは8年間会えなかった…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます