こくはく。(後編)

「――意外だった。随分と熱い男なのだな、貴様は」

 それは、期待していた花姫様の声ではなく。

 元凶である海景が、いつのまにか入口に寄りかかり、仏頂面ぶっちょうづらでこちらを見ていた。

「海景……全部、聞いてたの?」

「身動きのとれない姉上様をいいようにされてはたまらないのでな」

「悪趣味」

「時間切れだ。姉上様を連れてゆく」

「そんな……」


 これは、罰だ。

 花姫様を翻弄し、傷つけた。

 僕は花姫様の手を取り、こうべれた。


「ごめんなさい。貴女をどうか、これからも想わせて……」

「――もう充分だとは思うが。小僧、最後にひとつだけ」

「……なに?」

 腫れた目で海景を見遣る。

「お前は、この八代に生まれたこと、後悔しているか?」

「は?」

 なにを言っているんだ、こいつ?

「するわけないでしょ。こんなに、愛おしい女性ひとと出逢えたのに」


「……はぁあー」

 海景が、深い深い、ため息をつく。

「だ、そうですよ。姉上様」

「――え、」

 僕が花姫様のほうへ視線を動かすと。

 今までの比ではないほど顔を赤くした花姫様が、きょどきょどしながらぷるぷると震えていた。

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