こくはく。(前編)

 花姫様の、『鍵』になりそうな言葉……。

 必死に考える。


 言葉を、つむぐ。

「花姫様、起きて……」


「ねえ、ごめんなさい。もう、わがまま言わないから」

「いい子にする」

「神社のお仕事がんばる」

「花姫様の言うこと、なんでも聞く」

「もう困らせない」


「僕には、花姫様が必要だよ」


「花姫様が一番なんだ」

「だれよりも大切」


「貴女に会えないなんていやだ」

「また、笑ってほしい」


 途中から、やっぱり願望わがままになっている。

 僕は、本当に自分のことばかりだ。

 そんなのばかりじゃなくて、きちんと感謝も伝えたい。絶対に伝えなきゃ、後悔する。


「僕が、花姫様がいてくれて『ありがとう』って思う理由はね……」

「いつも優しいんだ。僕が悲しいと、抱きしめてくれる」

「傍にいると、ふわりと心があったかくなる」

「からかうとちょっと頬をふくらませるのかわいい」

「キレイな声が好き」

「髪もキレイ。さらさらしてて、ずっと梳いていたい」

「まっすぐ僕を見てくれるの、うれしい」


 花姫様は、目覚めない。

 僕はこれまであったこと全部と、それが起きたときなにを思っていたか、洗いざらい話した。

「八歳の儀式でキスしたとき、ほんとはうれしくてどうにかなりそうだった」

「ずっと、女性として貴女を見ていた」

「どうしたらもっと触れられるか、そればっかり……」


「作ってくれるご飯はどれもすっごく美味しくて。“美味いかの?”って訊いてくれるときの表情、ちょっと大人っぽくていつもどきどきしてた」

「花姫様の笑顔は、本当に花のようにかわいくて愛おしい」

「花姫様の幸せがね、僕の幸せなんだ。花姫様がいるから、僕、生きてこられた」


 やましいことも、打ち明けたら恥ずかしいことも、なにもかも白状しても。

 花姫様は目を開いてはくれなかった。


 ……もうだめだ。

 わからない。

 声が、震える。


「必死に余裕ぶってたけど、ずっと、怖かったんだ。『場違い』で『異質』で、『ここにいるべきではない生きもの』の僕を、貴女はいつだって抱きよせてくれた」

「いつも、八代やつしろの家に相応ふさわしく、なんて言ってたけど、本当は。――本当は、貴女に恥ずかしくないようになりたかっただけなんだ……」


 自身の涙を拭いもせず、花姫様の頬を撫でる。


「愛してる、愛してる、愛してる……!」


「ねえ、教えてっ。貴女が望む『鍵』を。花姫様を司るものを――!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る