終わりのとき。

 深くくちづけるようになって、二月ふたつきほどが経つ。


「司、司……!」

「――ん……」

 ゆっくりと目を開くと、心配そうな表情を浮かべた花姫様が、僕のかたわらに座りこんでいた。

「どうしたの、泣きそうな顔して。まだ、明るくなってもないけど……?」

「今はもう夜じゃ!! そなた、一日近く眠っておったんじゃぞ!?」


 僕はぎょっ、と目を見開いた。

「うそ……っ、今日のお勤め……っ!」

 慌てて飛び起きようとした僕の腕に、華奢きゃしゃな彼女の両手がすがる。

「わらわが済ませた! それより、やはりそなたは最近おかしいぞ、司……っ。しょくせるご飯の量は日に日に減っておるし、近頃の眠る時間は異常じゃ……!」

 そう、確かに僕のカラダは、明らかに異常をきたしはじめていた。


 食欲はどんどん落ちる、かといって痩せるわけでもない。

 気がつくと眠りに落ちるようになり、ここ数日では、神社のお勤めの時間以外はほぼ眠っているといっても過言ではなかった。

 花姫様は眉を悲しげに歪め、よく見るとその目許は、少し赤く腫れていた。

 僕なんかのために、泣いてしまったのだろうか?

「のう、やはりこれ以上このままは、だめな気がするのじゃ……」

 不安に揺れる瞳が、でも、確信を込めつつ僕へ向けられる。

「……」

 僕は、こたえない。

 だって認めてしまったら。

 貴女と愛し合っているような恍惚こうこつを、もう感じられなくなってしまう――。


 そんな僕の中の『なにか』を感じとったのか、花姫様は、ゆるりとした動きで、僕の上にのしかかる。

「花姫さ……」

 優しく僕のくちびるを、その白い指ですうっと撫でる。

 その、甘く切ない動きに固まっていると、両頬をそっと、彼女の小さな両手に包みこまれた。

「司。……の『これ』は、わらわからさせて。そして。を呼ぼう――」

「っ、――」

 痛々しい気持ちのまま、うっすらと口を開き、彼女を受けいれる。


 初めての花姫様からのディープキスは。

 少しつたないけれど、どこまでも優しく、愛らしくて。


 全てを赦されたような、報われたような気持ちが、僕を巡り、満たしてゆく。

「……ごめんの」

 うっとりと目を開くと、なぜか花姫様は、悲痛な面持ちで僕を抱きしめた。

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