歪む、きっかけ。

「おまえ、ガイジンだろ!」


 その一言が『はじまり』だった。

 小学校に上がりたてのとき、クラスで一際ひときわ声が大きないじめっ子の、あげつらうような言葉。


「……え」

 僕はどうしていいかわからず、固まってしまった。

「それ、言うのはよくないってママから聞いたぁ!」

「やつしろくんがかっこいいから、うらやましいんでしょ!」

 入学当日から僕を取りかこんで離さない女の子たち(今となっては僕の、所謂いわゆる初信者はつしんじゃ』さんだったのかなぁ、って思う)が噛みつくように反論を始める。


「ぼく、ちゃんとにほんじんだよ……」

 ざわざわするような困惑が胸に広がりつつも、なんとかそれだけ言うと、既に女の子たちの『口撃こうげき』でだいぶ参っていたらしいそのいじめっ子は、泣き叫ぶように喚いた。

「うそだ! おまえ、他とちがう!! そういうの、『ふさわしくない』って言うんだ!!」

「ふさわしく、ない……??」

 どういう意味の言葉だろう。そのときはよくわからなかったけれど、知るべきかと思った僕は、いろいろ調べてみる。

 『釣り合っていない』、『不適合』、『似つかわしくない』……様々な意味からまたつらなるように追いかけて。

 それを、これまでの経験と照らし合わせる。


 そして出た、ひとつの結論。


 己の存在が『場違い』で、『異質』なのだ、ということ。


 僕は、『ここにいるべきではない生きもの』……。


 幼い僕には、あまりに大きな衝撃だった。

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