序の4 少女、目覚める・4

 やん事無き事情で長々とシャワーを浴び終えた。そして脱衣所に戻ってみたら、真っ赤な女子の下着を両手で掲げ、その伸縮性の限界にチャレンジしている風の変質者に遭遇した。


「あらご主人様。流石はこの手のお仕事の手際は素早いですね」


 やや訂正。

 変質者的行動をしている魔鍛冶士と遭遇した。


「シェルフィの仕様を決めたのはオレだしな。寸法は把握している。予め作っといたもんを取りに行ってただけで時間をとる方が可笑しいだろう」

「そうですか。すると現状から推測するに、ちょっぱや戻ってみれば当の彼女はいまだにシャワー中であり、濡れる乙女の飛沫の音に興味を駆られて聞き耳を立ててみれば“髪に付いた白い粘液って取れ難~い”などと嘆いているのに直面。で、ついつい詳細検閲な内容のスイッチが入って少女用の下着の視覚情報をネタに脳内で妄想を肥大化させていた……と」

「そりゃ随分と人聞きの悪い。だが大体の部分で正解だ。流石は自称でもオレの専任メイドをやってるだけはあるな、借金メイド」

「ええ、それはもう。いまだに膨れる利息分にさえ苦労してますが、お陰でご主人様の性根を把握する時間は充分以上に御座いましたし」


 ……うわぉ、一瞬で変わった空気の鋭さが半端ない。

 会話の内容のほとんどが意味不明でも、それが二人の間に通じる重要事項ってぐらいは想像がつく。ついでに、モラルの面でも頼れる対象とそうじゃない対象がはっきり判る内容だった。


「まぁ、ともかく。属性決めも想定内で済んだんで、インナーはサーキットに燃えるフェ○ーリレッドで火力を上げるのが正解と」

「因みに、此方いせかいには流石にフ○ラーリ社は存在しないので、そういう名の色が商標登録はされておりません」

「ん? まぁ、統一規格の塗料業界からして存在せんしな。気分だ気分。でだ、イシスはシェルフィの好む服飾系統のチェックはできたのか?」

「そこは問題ありません。これから私がしっかりと仕込みますので。同性とはいえ全裸を晒すのに躊躇の無い気質を鑑みるに、インナー無しのター○ン風にまとめジャングル美少女の線で行こうかと」

「いやお前の趣向に染めろとは指示してねーんだが。つか直穿き仕様の毛皮の腰巻きとかは流石に想定外で作ってねーんだが」

「っち、世界が違えば色魔王しきまおうと畏れられた御方が、そんな手抜きをよくもよくも。フリントストーン風の女子服なんて定番でしょうに。これで頭部にケモミミ、臀部に尻尾の一本でもぷっさせば――」

「しまったっ、チャ○チャ○かっ。確かに巨大ブーメランも用途と威力だけに注目すりゃ砲撃属性。これは……、マジの盲点だ」


 ……もう少し、訂正の部分を増やそう。

 この二人はどっちもダメだ。本音だけの変質者と、本音と建前の区別持ちの変質者って程度の違いしかない連中だ。


「そういえばこの二人、主従の関係だったよね」


 その要素は自分も含まれるって部分には目をつむる。魔鍛冶士さんとイシス先輩、二人の付き合いの深さは知らないが、趣味趣向で共有する部分がほぼ同じなくらいには年月を経たか、または最初から類友の関係なのだ、くらいは想像できる。

 ほんの数時間前に途中参加の新入りには、中々に業の深い状況のようで。ちょっと、本気で引きたくなる状況としか言えない。

 ……あ、そういえば自己主張はハッキリとの助言を忘れていた。というか忘れるくらいの酷い状況だった。

 このままではケモノ成分を追加されてボトムレスジャングル少女のコスで異世界デビューの未来しかない。意識というか精神的に人間の私がそれに耐えられるか? 無理。即断。というかケモミミ? カチューシャならまだ安心だけど、直に生やすとか無いよね? 自分はホムンクルスなんだし、生やすのも有りって想像しちゃうのが我ながら怖い。あと尻尾? イシス先輩言ったよね。“ぶっさす”とか言ったよね。生やすじゃなくて刺す。何処に? 尻に? そっちの方が本気で怖い。

 自己主張はハッキリと。ここで言わなきゃ、私の未来は色モノ確定だ。


「はいっ、意見具申っ」

「おう、シェルフィ二等兵」


 ついつい、学生気分で挙手が出る。そして魔鍛冶士さん、ノリが良くて助かる。


「私っ、冷え性なのでパンツは必須です」

「……だ、そうだぞ。美人の先輩」

「……っくっ」


 よし、勝った。

 というか先輩、心底悔しそうにせんといてください。


「さてと、じゃあ冗談はこれぐらいにして。シェルフィ用の衣装の選別を始めるか」

「そうで御座いますね。一応人並みの羞恥心はあるようですので、裸族習性疑惑の案件は保留としておきましょう」

「そんな習性はありませんっ」


 二人とも、なんかさっきまでの雰囲気が一気に霧散しての平静な態度に。……もしかして、私ってば、からかわれた?


「いや、からかうとかじゃなくて人格の程度の確認だな。オレらのような年寄りと対面した子供の気質は、大概丁寧な対応って意識の壁越しのもんになる。地味に精神的なストレスを溜め込む面倒な状態だ。だから一度でも、派手に感情を爆発させた方が、結果的に良いデータを取れることになる。そのための茶番だな」

「あらご主人様。私は八割本気でしたが」

「お前は黙ってろ」

「だって、女の精神にそういった小手先のブラフは効きませんから」

「……むう」


 いえいえ、魔鍛冶士さんの初登場時から騙されてました。


「まぁ、いい。とにかくインナーだけでも着けとけ。衣装は用意したもんから好きな物を選ばせる。コスプレものは含むが、前の地球の現代仕様のは揃えたつもりだから、たぶん全滅ってことは無かろうよ」

「そうで御座いますね。いい加減バスタオル一枚で放置も可哀想ですし」


 魔鍛冶士さんに放られたインナーの上下。色が赤いもののレース成分過多のそれらは、イシス先輩のもののデザインに似て、ちょっと気分が火照るような……


「あれ、このショーツなんか変?」


 具体的には、ショーツというよりはランジェリーな感じのおパンツ。

 この際、布地少なめで透ける肌色成分も多いのは置いとこう。

 それよりも、なんでこれ、手にして広げると“W”のシルエットになるのかな?


「いわゆる“オープンショーツ”に類する作品ですね。股関節部のラインを強調するので、女性らしい下半身のシルエットが整います。前後パックリ開放型ではなく後ろ半分のみの大人しめな“ハーフオープン”仕様となります。一応は“Oバック”からの発展型でもありますか」


 イシス先輩、丁寧な解説ありがとうございます。嬉しくないけど。


「しかしご主人様、彼女の冷え性申告からすると、臀部露出の構造は如何なものかと」

「うむ、そこは盲点だったな。耐性強化済みのホムンクルスなんで実際に冷え性にはならんと思うが、そういった精神構造の想定は意外だった。何よりインナーに関しては色違いは用意したが仕様はあの趣味で統一したからなぁ。ああ、完全開放タイプじゃなくてチャット付きのタイプにしとくんだった。いやホント、盲点盲点」

「流石は、女心とは無縁のご主人様です。というかご主人様、言葉責めはワンクッションでマイルドな刺激にもなりますが、現物提供による自画像の妄想効果は、ちょっと刺激が強すぎたようで御座いますよ」


 れ……れれれれっ、冷静な状況分析もありがとうございます。それどころじゃないけど。

 裸体をそのまま晒すより下着姿を晒す方が恥ずかしいって気持ちは、我ながら不思議に感じる部分。特にこれを着た自分の姿を想像したのが拙かった。顔が熱い。赤面してるのは確実だろう。鼓動のテンションが上がるのも制御不能。

 そして自分が暴走してるのだと自覚した時点で、情けなくも意識がブラックアウトしたのだけは、たぶんその寸前で認識できたと思う私だった。


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人造少女、メカを着る(仮) 樅垂木 白牛 @shiratama-inseki

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