第165話 重蔵との戦闘①

「グルアッ!!」


「ぐうっ!」


 接近と共に限の胴へ放たれる重蔵の刀による攻撃。

 それに対し、限は刀で防ぐ。

 今度は吹き飛ばされないよう、足に力を入れて踏ん張る。


「調子に乗るな!」


 魔物化した重蔵の重い攻撃を受け止めた限は、鍔迫り合いの状態から前蹴りを放った。


“ガキンッ!!”


「っっっ!?」


 限の前蹴りは重蔵の腹に直撃する。

 しかし、その当たった時の音と感触に、限は目を見開く。

 硬質な、まるで鉄でも蹴ったような音と感触だ。


「グラァ!!」


「おわっ!!」


 前蹴りをして片足立ちになっている限に対し、今度は重蔵が反撃する。

 鍔迫り合いしている刀で、力任せに押し込んできた。

 攻撃をしたことで体勢が不安定だった限は、突き飛ばされて無理やり後退させられた。


「シャー!!」


「くっ!!」


 後退させられて体勢を整えたところで、限に追撃が迫る。

 刀による片手突き。

 魔物化する前ならば苦にもならない攻撃だが、スピードとパワーが大幅に上がったその攻撃は危険極まりない。

 必死に体を捻り、限はギリギリのところでその突きを回避した。

 だが、完全に回避できたわけではなく、限の頬が僅かに斬れた。


「こ…っ!?」


「ラーッ!!」


「うっ!!」


 僅かに血が舞ったのを確認し、機嫌を悪くした限は重蔵を睨みつけようとしたが、攻撃は突きだけで終わらなかった。

 重蔵は、刀を持っていない左腕で、ラリアットを放ってきたのだ。

 たまたま上げていた左腕、それを反射的に動かすことで攻撃の直撃は防ぐことができた。

 しかし、防御したというのに、限に衝撃が襲い掛かる。

 防御なんてお構いなしとばかりに、重蔵が腕を振り抜いたのだ。

 それにより、限はまたも吹き飛ばされることになった。


「こいつ!」


 鉄の味がする。

 先程の攻撃で口の中が切れたようだ。

 一度ならず二度までも出血させられたことで、限は怒りが沸き上がる。

 それでも怒りの感情に任せるわけでもなく、更なる追撃をしようと迫りくる重蔵に対し、着地した限は刀を向ける。


「くらえ!」


「っ!?」


 重蔵に向けた刀の先から魔法が放たれる。

 火や氷、電気に土など、様々な種類の魔法だ。

 

『魔物化して肉体が強化されたようだが、どれか通用するだろう』


 普通のリザードマンなら、住処によって魔法属性に得意不得意がある。

 熱帯地域なら火系統に強く氷系統の魔法に弱い、などだ。

 全属性の魔法を放ち、限はどれが足止めできるかを見き分けるつもりだ。


「ガアァーー!!」


 気合一発と言わんばかりに、重蔵は気合の声を上げる。

 そして、自分に迫りくる魔法たちに向かってそのまま突進していった。


「なっ!?」


 どれかしらの魔法によって足を止める。

 そう考えていた限の予想は外れ、重蔵は魔法を全弾浴びつつ最短距離を突っ込んできた。


「グルアッ!!」


「ぐっ!?」


 突っ込んできた重蔵は、そのまま突きを放ってくる。

 予想外の行動に、限はその攻撃への反応が遅れた。

 腹目掛けて放たれた突きを、何とか躱そうと体を捻る。

 しかし、それが間に合わず、限はわき腹を斬られた。


「……チッ!!」


 後手後手で押し込まれている状況を変えようと、限は一旦重蔵から距離を取る。

 そして、出血をするわき腹を抑え、すぐさま回復魔法による止血を開始した。

 思ったよりも深い傷に、限は思わず舌打ちをする。

 強化薬に魔物化。

 これまでオリアーナが作り出した薬を、最強の敷島人である重蔵に施す。

 そうしてできた生物が、ここまで強くなるなんて思いもしなかった。


「へ~、全属性魔法に回復魔法までか……。魔無しのお前が、人体実験によってとんでもない強さを手に入れたようだな?」


 限と重蔵の戦いを高みの見物している天祐が、回復魔法を使用する限を感心したように話しかける。

 人体実験の結果、今の力を得たということは、オリアーナからでも聞いたのだろう。

 重蔵の相手をすることに集中しなければならないため、限は天祐の言葉を無視するように聞き流した。


「戦ってみて気付いただろ? そいつはただのリザードマンではないことを」


「…………」


 たしかに、何かしらの属性が有効だと思って魔法を放ったというのに、足止めにすらならなかった。

 全弾受けたというのに、重蔵の体に傷などがついた様子がない。


「全身を覆う強固な鱗は打撃も魔法も防ぎ、魔物化と強化薬によって身体能力も向上。更に……」


「っっっ!?」


 打撃と魔法が全然通用しないことは理解した。

 それなら刀で斬りつけるしかない。

 天祐の言葉に反応するわけではないが、限は頭の中でどうやって重蔵を倒すべきかを考えていた。

 しかし、嫌でも天祐の言葉が耳に入ってくる。

 そして、その言葉と共に重蔵に変化が起きたことに、限は目を見張るしかなかった。


「ここからは魔力による身体強化までプラスだ」


「マジかよ……」


 限が驚いた理由。

 それは、重蔵が魔力を纏い、身体強化をおこなったからだ。

 天祐によって奴隷化・魔物化するという変化に目が行っており、戦闘が開始されても他のことに気が行っていなかった。

 そのことを今になって気づいた。

 魔物化した重蔵が、ここまで身体強化をおこなっていなかったことにだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る