第166話 重蔵との戦闘②
「おや? 顔色が悪いな……」
魔力を身に纏い、身体強化をおこなったリザードマンと化した重蔵。
追い込まれていた側の限からすると、身体強化していない状態でここまでの強さを発揮していたということに驚くしかない。
身体強化していた自分よりも、魔物化した重蔵は素の身体能力で上に立っているということを示しているからだ。
身体強化を使用してきたということは、重蔵は更に強力な戦闘力で襲い掛かってくるということだ。
ここまでで追い込まれているのに更なる強さとなると、限には勝ち目がない。
はたから見ていた天祐はそのことが分かり、笑みを浮かべて限に話しかけてきたた。
限の心情を逆なでするような態度でだ。
「…………」
「……無視か? まあいい、そいつの強さを見るために、せいぜい粘ってくれよ」
天祐の問いかけに対し、限は重蔵を見ているだけで返事をしない。
その態度に少しだけつまらなそうな表情をしたが、天祐は話を続ける。
身体強化をしない状態で追い込んでいるのだから、今の重蔵が負けるはずがない。
あとは、重蔵がどれくらいの強さなのかを知りたいだけだ。
その強さを図るために、天祐は限を利用させてもらうつもりだ。
「ガアッ!!」
天祐が顎をクイッとすることで、重蔵に合図を送る。
それを受け、身体強化した重蔵は床を蹴った。
「っっっ!?」
限を中心にして、縦横無尽に動き回る重蔵。
身体強化によって、更に加速している。
必死に目で追う限だが、残像のようにしか見えない。
「グルアッ!!」
「っ!?」
限もこれまで以上の魔力を纏うことで、更に身体強化を図る。
しかし、重蔵の動きの方が速い。
限が重蔵の位置を掴んだ時には、もう目の前に迫っていた。
「ガアッ!!」
「ぐっ!!」
接近と共に放たれたのは、拳による攻撃。
何とか回避しようとするが、重蔵の速度に対応できない。
躱しきれないと判断した限は、せめて威力を落とそうと、自ら後方に飛ぶ。
しかし、身体強化によってこれまで以上になったのは速度だけでなくパワーもだ。
後方に飛んで威力を落としたというのに、ものすごい衝撃が限の腹に襲い掛かった。
「ゲホッ! ゲホッ!」
腹を殴られて吹き飛ばされた限は、なんとか体勢を整えて着地する。
しかし、腹に受けたとんでもない威力の攻撃に、思わず咳き込む。
人体実験を受けたことによって痛みに鈍感になっているというのに、ジンジンとする痛みを感じているということは、内臓に相当なダメージを受けているということあろう。
「ガアッ!!」
「がっ!?」
何とか立っている状況の限に対し、重蔵は更なる攻撃を繰り出す。
重蔵の放ったフックが顔面に当たり、限はまたも吹き飛ばされた。
「ハハッ!! まるで相手になっていないな……」
重蔵の攻撃で右へ左へと殴り飛ばされる限を見て、天祐は楽しそうに感想を述べる。
しかし、天祐の言っていることは的を射ている。
直撃だけでも防ごうと顔や体を捻ったりしているが、焼け石に水といったところ。
痛めつけられ、限はどんどん動きが鈍くなっていった。
「わざわざ拳で殴っているのは、まだそれに自我があるのかもしれないな……」
「……ぐ、ぐぅ……」
何度も殴られたことで、限は顔が腫れあがって体中に痣ができている。
限だから生きているが、普通の人間なら一発食らうだけで頭が弾け飛んでいるだろう。
殴られながら、限は疑問に思っていたことがある。
重蔵は刀を持っているというのに、身体強化をしてからはそれを使用してきていない。
もしも刀で攻撃をしてきていたら、いくら限でも斬り刻まれていたかもしれないというのにだ。
その疑問を解消するかのように、天祐が重蔵が行っていることの理由を述べる。
それを受け、限はうめき声を上げながら「なるほど……」と思っていた。
魔物化したことで、重蔵は自我が完全に飛んでしまっているようだが、そう見えているだけで、本当のところは分からない。
しかし、天祐が言うように自我が残っているというのなら、魔物化する前に痛めつけられた重蔵が、報復の意味を込めて拳だけで自分を痛めつけてきているのかもしれない。
「それにしても、ここまで強力な兵器が手に入るなんてな。こいつがいれば、俺が支配する国は安泰だ」
強化薬を使用した敷島兵を大量に打ち倒した限。
その限が全く相手になっていない。
そんな今の重蔵なら、どの国の軍隊を相手にしても、たった一体で勝利を収めることが可能だろう。
そんな最強兵器が自分の従魔として存在している。
つまり、自分がこれから支配する敷斎王国は、この大陸の覇者になることができる。
いや、この大陸だけではなく、全世界を手に入れることも可能かもしれない。
そう考えると、天祐は表情が緩むのを抑えることができなかった。
「……フフッ!」
「……どうした? 痛めつけられて頭が狂ったか?」
天祐がご満悦なところで、ボロボロの限が笑い声をあげる。
その反応が理解できず、天祐は首を傾げた。
そんな天祐を、限は腫れあがって半分しか開がない目で見つめた。
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