第164話 魔物化①
「何…だと……?」
回復薬だと思って飲まされた液体。
それが魔物化する薬だと聞かされ、重蔵は信じられないというような表情で天祐を見つめる。
「貴…様! どうして……?」
「昔から、俺はあなたの指示通り他の者を偽る人形として生きてきた。ただ……」
王位を奪い取る。
そんなことのために、自分を奴隷化する意味が分からない。
王位を継ぐ者は、天祐以外にいない。
年月が経てば、黙っていても天祐が次の王になることができるはずだ。
それなのに、どうしてこんなことをしているのか。
重蔵のそんな思いのこもった質問に、天祐はにやけ顔で答えていく。
そして言葉を切った後、
「俺はあなたへも偽っていたんですよ。今度は俺の人形として利用するためにね」
敷島の中では口の軽い男と偽って生きてきた。
それが重蔵の命令だったからだ。
しかし、天祐の本性としては、父であろうと命令されることが気に入らなかった。
逆に、重蔵を自分の人形にしてやろうという思いが募る一方だった。
それが今成された。
そのことが嬉しいのか、天祐は満面の笑みを浮かべたまま自分の思いを全て打ち明けた。
「貴…様……!!」
「もういいでしょ? 魔物化したら意識もなくなる。俺の命令に従順な最強の人形兵器の完成だ」
「うっ……!!」
いつまでも恨みがましい目を向けてくる重蔵に対し、天祐は問答に飽きたかのように対応する。
その言葉通り、重蔵の体が変貌を開始した。
「ぐおぉオォ……!!」
「おいおい……」
体中が変色し、肉体が変化していく。
声も獣のようなものに変化していっている。
天祐が言っていたように、重蔵は魔物へと変化していっているようだ。
「これもオリアーナの薬か?」
「その通り。ようやくできた自信作だって言っていたな」
魔物へと変化する薬。
そんな物を作り上げる人間なんて、限が知っているのは1人だけだ。
その人物の名を呟いた限に、天祐は褒めるように拍手をした。
「ウゥ……!!」
「おぉ、俺の依頼通りだ!」
呻き声が治まっていくと共に、重蔵の変化も治まっていく。
そして、変化が治まりきった重蔵の姿を見て、天祐は恍惚の笑みを浮かべた。
「……何故リザードマンなんだ?」
重蔵の変化した姿。
それは限が呟いた通りリザードマンだ。
これまでオリアーナが作り上げた魔物化の薬だと、巨大化するのが通例だった。
しかし、重蔵の身長はそのまま。
170cm代中盤といったくらいのままといったところで、普通のリザードマンならもう少し身長があってもいいところだ。
それよりも、なぜ魔物化させるにしてもリザードマンなのかが気になる。
リザードマンなら、水陸の戦闘において人間よりも有利になるとは思えるが、それ以外のメリットが窺えないためだ。
「
魔物と化した重蔵を、天祐はもう父だと思っていないようだ。
「そいつを殺れ!」
重蔵を
「グルル……!!」
「チッ!!」
魔物化する前に従属の魔法をかけられているためか、リザードマンと化した重蔵は天祐の命令に素直に従う。
愛刀を手にしたリザードマンは、限に向かって構えを取った。
魔物に変化することで傷がなくなってしまっており、魔力も膨れ上がっているため、ただのリザードマンではないことは何となくわかる。
人間の時よりかは厄介な存在になったとは思うが、自我のなくなっている重蔵を相手にしなければならないのかと思うと、限はいまいちやる気が起きない。
しかし、始末することを変えるつもりはないため、限は仕方ないといった様子で舌打ちをしつつ、刀を構えたのだった。
「ガァッ!!」
「っっっ!?」
刀を向けあった状態で少しの間が開いた後、重蔵が先に動く。
床を蹴って限との距離を一気に詰めると、振りかぶった刀で斬りつけてきた。
予想以上の移動速度に、限は見開き防御の体勢に入る。
“ガキンッ!!”
「なっ!?」
重蔵の攻撃に対し、限は刀で受け止め防御する。
そのまま反撃をするつもりでいた限だったが、それをおこなうことはできなかった。
何故なら、刀で攻撃を防いだ限を、重蔵が力任せに吹き飛ばしたからだ。
「ぐっ!」
吹き飛ばされた限は、壁に背中を打ち付けてようやく止まる。
背中を打ち付けたことで一瞬息が詰まるが、人体実験で痛みに鈍感になっているため、限は気にすることなく重蔵の追撃に警戒した。
「グルァッ!!」
「舐めん……」
「ガァッ!」
「なっ!?」
限の予想通り、重蔵は追撃をおこなう。
先程と同様に、接近しての上段斬り。
同じ手が通用するはずがないと、限は回避しての反撃を狙う。
しかし、その行動を読んでいたのか、重蔵は魔物化することで得た武器の1つで攻撃をしてきた。
「くそっ! 尻尾か!?」
新たに得た武器。
それは限が言うように尻尾だ。
尻尾を鞭のように上手く使って肩を打ち付け、重蔵はまたも限を吹き飛ばしたのだ。
「グルル……」
「この野郎……」
空中で体勢を整えて着地した限に対し、重蔵はゆっくりと刀を構える。
それが、まるで余裕を示しているようで気に入らない限は、こめかみに血管を浮き上がらせて重蔵を睨みつけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます