第163話 天祐の狙い
「て、天…祐! お前も…手を…貸せ!」
「……分かりました」
限に痛めつけられ、ボロボロの重蔵。
認めたくはないが、自分では勝てないことを悟り、息子の天祐と闘うことを決めたようだ。
重蔵のまさかの協力要請に、天祐は驚いた表情をしたのち了承した。
「フッ! 構わないぜ。俺はあんたら2人を痛めつけ、屈服させてから殺すのが目的で生きてきたんだからな」
重蔵をボロボロにできて、限は気分が良くなっていた。
それもそのはず、度重なる人体実験の苦しみを耐え、廃棄処分場である地下で生き抜いたのは、この時を待っていたからだ。
いつも自分を冷遇し、始末がてらに研究所に送り込んだ父。
そして、訓練と称して幼少期に何度も痛めつけてきた腹違いの兄天祐。
この2人だけは、絶対に自分の手で屈服させたいと気が済まない。
その機会がようやく訪れたことが、限にとっては嬉しくて仕方がない。
「その前に、これを……」
「くっ! こんな奴相手に…回復薬を使うことになるなんて……」
重蔵に対し、天祐は液体の入った小瓶を投げ渡す。
その液体の色味などから回復薬だと分かり、受け取った重蔵は悔しそうに呟きながらも口へと運んだ。
「……んっ?」
「…………」
回復薬を飲みほした重蔵は、傷が回復するのを待つ。
しかし、少し経つというのに、傷が回復する気配がない。
そのため、訝し気に自分の体を見つめる。
そんな重蔵を、天祐は無言で眺めていた。
「おい! 天……がっ!?」
回復薬を飲んだというのに一向に回復しないことを疑問に思い、重蔵は天祐にもう一本回復薬をよこすように催促をしようとした。
しかし、それを言い終わる前に、重蔵の体に異変が起きる。
「天…祐、貴様…何を飲ませ…た?」
「大丈夫ですか? 父上」
「……なんだ?」
体中に走る痛み。
どう考えても、回復しているわけではない。
そのため、重蔵は先ほど飲んだ液体が回復薬ではないことに気付いた。
回復薬でなければ、何を飲ませたのか。
苦しみに耐えながら、重蔵は天祐へと問いかけた。
そんな重蔵の問いを聞き流すように、天祐は気遣いの言葉と共に重蔵の背後へと回った。
何が起きているのか分からないのは限も同じ。
そのため、限もまた視線を天祐へと向けた。
「ハッ!?」
「なっ!?」
「っっっ!?」
苦しむ重蔵の背後に回った天祐は、何かの魔法を発動させた。
その魔法を受けた重蔵は、戸惑いの声を上げる。
限も天祐が放った魔法が何なのかを理解し、何を考えているのか分からず、更に首を傾げるしかなかった。
「従属化完了っと……」
「天祐……、貴様…どうして……?」
天祐が放った魔法。
それは、従属魔法だ。
何故、今、こんなことをするのだろうか。
先ほど飲んだ液体で苦しむ重蔵は、その答えを求めるように問いかけた。
「聞きたいのは「どうしてこんなことをするのか?」ですか? 良いですよ。お答えしましょう」
ここまでずっと感情のない、まるで能面のような表情でいた天祐だったが、満面の笑みを浮かべて重蔵に話しかける。
狂気にも近いその笑みのまま、天祐は自分の行ったことを話し始めた。
「まず、あなたが都合の良い道具のように俺のことを思っていると知っていた。だからこれまでその通り道具を演じてきました」
限が冷遇されていたのと同じように、天祐は天祐で父からの扱いがまともではないことを幼少期から理解していた。
野心ばかり満ちて、愛情を与えない父。
その鬱憤を晴らすために、天祐は限を利用していた。
「あなたがアデマス王国を乗っ取るという野心を持っていると知り、ある理想を持つようになったのです」
父の野心が何なのか。
それを知ったとき、天祐はある理想を抱くようになり、年を重ねるごとに父にとって都合の良い道具を演じることにした。
「俺が敷斎王国の国王になり、あなたを最強の道具として利用する理想ですよ」
「な…に……?」
長年の野望が叶い、敷斎王になっても、父の重蔵は自分を見ることはなかった。
今となっては、それも別にどうでもいいことだ。
それよりも、自分がどうやって父から国王の地位を奪い取るかが天祐には重要だった。
「薬の力もあり、あなたを従属させるのはかなりのリスクがある。そこで、俺は限を利用することにしたんですよ。魔無しの役立たずと思っていましたが、予想以上に動いてくれましたよ」
「おのれ……、貴様……」
力尽くで王の座を奪うにしても、無傷で手に入れるのはかなり難しい。
それならば、復讐に燃える限を利用すればいい。
その考えが成功し、天祐は弱った重蔵を労せずに従属化することに成功した。
自分の思い通りの結果になったことを自慢げに話す天祐に、利用された重蔵は歯ぎしりをして睨みつけた。
「それと、先ほど飲んだ液体ですが……」
「ぐっ、ぐうぅ……?」
限に痛みつけられた体では、天祐の従属魔法に抗うことができなかった。
それに加え、体に走る痛みがどんどん激しくなる。
その状態の重蔵に、天祐は先ほどの液体の正体を口にした。
「魔物化の薬ですよ」
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