第159話 圧倒するアルバ

「「「「「ガァーーー!!」」」」」」


「ミノタウロス……」


 マッドサイエンティストであるオリアーナを殺害するために限と別れたレラは、限の従魔であるアルバとニールと共に王城の地下へと向かった。

 標的であるオリアーナを発見したが、彼女は仲間であるはずの研究員たちを薬物で魔物化させ、この場からの逃走してしまった。

 その魔物化された研究員たちの姿は、アデマス王国軍が帝国から供与されて敷島奴隷たちに使用した薬と同じものだった。

 ミノタウロスに肉体が変化した研究員たちは、人間としての意識がなくなっているらしく、雄たけびを上げた。


「ガァー!!」


「っと!」


 ミノタウロスの1体の視線がレラへと移る。

 そして、丸太のように太くなった右腕を振り上げ、レラめがけて拳を振り下ろしてきた。

 その攻撃をレラが躱すと、拳はそのまま床を殴りつけた。

 それにより床が弾け、周辺に石が吹き飛んだ。

 小さいながらもクレーターのようなものを作り出したことから、力任せの攻撃でも相当な威力があることが理解できる。


「「「「「グルル……」」」」」


「……標的にされたようね」


 5体のミノタウロスたちは、同じ見た目の生物を仲間だと判断するだけの知能はあるらしく、標的をレラたちの方を標的と捉えたようだ。

 小さく呻き声を上げながら、ジリジリとレラたちへと歩み寄ってきた。


「ワウッ!!」


「えっ!?」


 オリアーナを追いかけるには、ミノタウロスたちを倒すしかない。

 そう考えて限特性の薙刀を構えたレラだったが、急な浮遊感に思わず変な声が出てしまった。

 何が起きたのかというと、レラの襟元を咥えたアルバが、そのままミノタウロスたちの上を飛び越えるように高速で放り投げたのだ。


「おわっ!!」


 天井を擦るくらいギリギリの高さでミノタウロスたちを飛び越えたレラは、何とか体勢を整えて着地する。

 予想外の行動だったのか、ミノタウロスたちも反応できなかったようだ。


「ガウッ!!」


「アルバ様……、分かりました!」


 何をするのかと、レラはアルバに視線を送る。

 すると、アルバは一声上げるとともに顎をクイクイッと振った。

 アルバが言いたいことは、この5体は自分に任せ、オリアーナを追えということだ。

 それをきちんと理解したレラは、力強く頷くと、ミノタウロスたちに背を向けて廊下の奥へと走り出した。


「ガァー!!」


「ガウッ!!」


「ガッ!?」


 自分たちから離れていくレラと、ポケットに入ったニールを逃がすまいと、1体のミノタウロスが追いかけようとする。

 背中を見せたその1体に対し、アルバが襲い掛かる。

 高速接近の速度そのままに頭突きを行い、そのミノタウロスの背中から腹を通る風穴を開けた。

 その攻撃によって、1体のミノタウロスは大量の血をまき散らして倒れ伏した。


「グルアーー!!」


「「「「ガ、ガアー……」」」」


 ミノタウロスの1体を倒たアルバは、「かかってこいやー!!」というかのように吠える。

 それに圧されたのか、残ったミノタウロスたち4体は後退った。


「ガ、ガアァーー!!」


 殺された仲間の仇を討とうと考えたのか、ミノタウロスの1体がアルバに襲い掛かっていった。

 アルバを捕まえようと考えたのか、左右の手で挟み込んできた。


「ガウッ!!」


「ゴアッ!?」


 バックステップをすることで、アルバはミノタウロスの左右の手を躱す。

 そして、すぐさま突進し、右前足でぶん殴った。

 その強力な一撃によって、ミノタウロスの巨体が吹き飛んだ。


「「ガアァーー!!」」


 1体では無理ならとでも考えたのか、2体のミノタウロスが左右に分かれ、挟み込むようにして殴りかかってきた。


「ガウッ!!」


 2体のミノタウロスにより、同時に振り下ろされた拳。

 それをジャンプすることで、アルバは攻撃を躱した。


「ガアァーー!!」


 まるでジャンプをすることを待っていたかのように、残っていたもう1体のミノタウロスが殴りかかってきた。


「ッ!!」


「ガッ!?」


 空中ならば攻撃を回避することなどできないだろう。

 そう考えていたであろうミノタウロスだったが、アルバ空中で方向転換した。

 空中に魔力障壁を作り出し、それを足場にして躱したに過ぎない。

 それによって攻撃を回避したアルバは、上空から滑空するようにそのまま右前足でミノタウロスを殴った。

 それにより、先ほどぶん殴られて吹き飛んだミノタウロスにぶつかるように、もう1体が飛んで行った。


「ガアァー!!」


「ガウッ!!」


「ガッ!?」


 1体をぶん殴って着地したアルバに合わせるように、先ほど攻撃した2体のうちの1体が殴りかかってきた。

 背後から振り下ろされた拳を、バック転をするようにして躱す。

 そして、そのバック転の勢いを利用するかのように、アルバは後ろ足で攻撃してきたミノタウロスの顔面を蹴っ飛ばした。


「ガ、ガウゥ……」


 あっという間に無傷なのは自分だけ。

 そのことに戸惑い、残った1体は後退る。


「ワウッ!!」


「グガッ!?」


 後退るミノタウロスに対し、「腰抜けが!!」と言わんばかりに吠えつつ、一気に距離を詰めようとするアルバ。

 それを防ぐように、ミノタウロスは左右の手を振り回して振り払おうとする。


「バウッ!!」


「ゴッ!?」


 むやみやたらの攻撃を華麗なステップで躱し、アルバは少しずつ距離を詰める。

 そして、ミノタウロスの懐に入ると、アルバは腹に頭突きをかます。

 勢いをつけての頭突きではないため、最初の1体とは違い腹に穴をあけるには至らない。

 しかし、その威力によって、ミノタウロスは腹を抑えて蹲り、口から胃液を吐き出した。


「「ガ、ガアァ……」」


 殴り飛ばされてぶつかり合った2体のミノタウロス。

 ようやくダメージが回復したのか、ふらふらと立ち上がる。


「バウッ!!」


 2体のミノタウロスは、立ち上がっただけでまだ向かってこられるような足取りではない。

 そのスキを逃すことなく、アルバは右前足をその2体に向けて振る。


「「ギャッ!!」」


 アルバがやったのは、前足から魔法による風の刃を放ったのだ。

 そン風の刃によって、2体のミノタウロスは全身を切り刻まれ、大量の出血と共に命を失った。


「グッ!!」


「ガウッ!!」


「ガッ!!」


 先ほどアルバが後ろ足で蹴とばしたミノタウロスは、勝てないと判断したのだろう。

 アルバの視線が自分に向いていないのを確認して、逃げ出そうとした。

 それを許すわけもなく、アルバはそのミノタウロスに向かって右前足で魔力の球を発射する。

 高速で飛んで行ったその魔力球が、逃げようとしたミノタウロスの脳天を貫き、仕留めることに成功する。


「ガッ……」


「フンッ!!」


 残ったのは、いまだに腹を抑えて蹲ったままの1体のみ。

 そのミノタウロスを見下ろすように鼻を鳴らすと、アルバはその脳転に魔力球を放ち、止めを刺した。


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