第158話 目には目を②
「ふんっ!」
「ぐあっ!!」
近藤家の敷島兵が、アデマス軍の奴隷兵となった敷島人を斬り倒す。
倒れた敷島人の斬り口を見ても分かるように、全く躊躇いのなく攻撃をしているのが分かる。
「ハハッ! 所詮は戦闘員に慣れなかった出来損ないどもだ!」
「俺たちとは実力が違うんだよ!」
敷島兵たちは、自分たちが斬り殺した敷島人の死体を見下ろしながら言葉を吐き捨てる。
突如、仲間であるはずの敷島人たちが襲い掛かってきた時は、敷島兵たちも少しだが焦った。
しかし、同じ敷島人でも、昔なら島から出る許可も与えられないような
戦闘力の持ち主たちだ。
つまり、敷島人でも落ちこぼれというべき実力の持ち主たちでは、自分たちエリートを倒すことなど不可能だということだ。
同じ敷島人で、敵に奴隷化されていようと関係ない。
むしろ、自害することなく敵に捕まった時点で、このような使われ方をする可能性は分かっていたことだ。
そのため、奴隷化により命令拒否ができないからと言っても、敵に利用されたのなら敵でしかない。
そう教えられてきているだけに、敷島兵たちの行動は当然といった所のようだ。
「くっ! ほんの少しの間だけだったか……」
自身の策が思ったほどの結果を出さず、ラトバラは歯噛みする。
同じ敷島の人間なら、多少は攻撃を躊躇するではないかと思っていた。
そして、その僅かな隙を狙って攻撃をすれば、敷島兵たちに多少の傷を付けることも不可能ではないと考えていた。
しかし、その思惑が成功したのは、最初の僅かな時間だけだったためだ。
「戦闘一族の奴らからすると、敵となれば仲間の命であっても何とも思わないのでしょう……」
敵と判断した敷島兵たちは、全く躊躇う様子なく奴隷化された敷島人を斬り倒している。
元々、アデマス王国に属していた時、敷島の者たちは仲が良いと思われる相手でも、指示が出されれば躊躇いなく暗殺してきた。
戦闘狂の彼らは、敵となれば容赦しないように幼少期から教え込まれている。
この現状を見たリンドンは、同じ人間としての感情を持っていると考える方が間違いだったと思わざるをえなかった。
「ハッハー!!」
「がっ!!」
ラトバラたちが敷島兵たちの非情さを認識し直していている間にも、奴隷化した敷島人たちは次々と斬り倒されて行く。
アデマス軍の兵も、奴隷化した敷島人を犠牲にしつつ攻撃を加えているが、敷島兵たちには大きな傷がつけられないでいる。
このままでは、奴隷の敷島人たちは全滅してしまい、またアデマス軍の兵たちが大量に命を落とすことになりかねない。
「……用意していた策、第二段を使おう」
いくら敷島兵でも、数の力でねじ伏せられる。
そう思っていたが、ただでさえ強力な戦闘力を有している敷島兵が、新しい強化薬によって手が付けられなくなっている。
同族である敷島人を使用して、少しでも傷を付けることができれば動きを鈍らせることができると思っていたが、それも難しいことだと分かったラトバラは、神妙な面持ちでリンドンに指示を出す。
「……ハッ! 畏まりました」
ラトバラの指示に、リンドンも同じような表情で頷く。
これから自分たちがやることは、非人道的なことだと理解しているからだ。
とは言っても、勝利を収めないことには、簒奪された国を取り戻すことなどできないため、ラトバラ同様、リンドンも覚悟を決めて次の策に移ることにした。
「……何だ?」
自分たちに襲い掛かってくる奴隷化された敷島人たちを返り討ちにしていた敷島兵たちは、違和感に戸惑いの声を上げる。
というのも、同族が襲い掛かってくるのは変わらないが、周囲を顔んでいるアデマス軍の兵たちが少し後退して距離を取り始めたからだ。
「……何かする気か?」
新強化薬のお陰で、圧倒的な数のがあっても勝機が見えた。
相手のアデマス軍からすると、自分たちを休ませることなく攻撃を仕掛けることで、細かい傷を増やしていくことが勝利を収める策のはずだ。
それなのに兵を退かせるなんて、こっちにとって有利になるようなことをしてどうするつもりなのだろうか。
「んっ?」
王都で捕縛された敷島人。
それを奴隷化した者たちなのだろう集団が、アデマス軍が左右に分かれることで作り出した道を通るようにこちらに向かって来ていて、その表情には悲壮感が漂っている。
明かに、アデマス軍の指揮官から何かを命令されたのが分かる。
そのため、敷島兵たちはその者たちへの警戒を強めた。
「……やれ!」
「「「「「はいっ!」」」」」
馬に乗ったアデマス軍の隊長格らしき男が、敷島人の集団に指示を出す。
奴隷化されている抵抗することはできない敷島人たちは、その指示に従い行動を起こした。
「「「「「ぐ、がっ!!」」」」」
「な、何だ?」
指示を出された敷島人の集団が、何かを
そして、そのすぐ後、集団は身を掻きむしる行為と共に苦しみ、倒れた。
折角奴隷化したというのに、何がしたかったのか分からない。
そのため、戦いながらもそれを見た敷島兵たちは首を傾げた。
「「「「「ガーーーーーッ!!」」」」」
「なっ!?」
倒れた敷島人たちに異変が起きる。
肉体が変異を起こし、醜い姿へと変貌を遂げたのだ。
見たこともないような変化に、さすがの敷島兵たちも驚きの声を上げた。
「グルァッ!!」
「ぐおっ!?」
丸太を加工した棍棒のような武器を
あまりの速度と威力に、咄嗟に攻撃を防いだ敷島兵たちは再度驚きの声を上げた。
「ミ、ミノタウロスだと……!?」
奴隷化された敷島人が変貌した姿。
それは、敷島兵たちが呟いたようにミノタウロスだ。
「さっきのは魔物化する薬か!?」
1人の敷島兵が言うように、先程敷島人たちが呑んだのは魔物化する薬だ。
その薬の効果により、多くのミノタウロスたちが生まれ、敷島兵たちに襲い掛かったのだ。
「ぐっ!? ふざけやがって!!」
筋骨隆々の、3m近い身長の肉体のミノタウロスたち。
元々は敷島人ということもあり、一般人よりも強靭な肉体が変態によって更に強化されたのだろう。
ただでさえ強力である普通のミノタウロスよりも、強力な力と速度を有している。
そのため、強化薬によってバケモノと化した敷島兵たちであっても、脅威となる攻撃が降り注ぐことになった。
食らえば大打撃は必至。
それが分かっている敷島兵たちは、懸命にミノタウロスたちの攻撃を防ぐことに注視しなければならないことになった。
「どうだ? 目には目を、薬には薬だ」
敷島兵たちが薬を使用するのなら、こちらも薬を使用する。
あの薬を使った以上、もう人間に戻ることはできない。
非人道的な指示だが、勝利のためだ。
その思いからラトバラが出した指示。
それは、今回の戦いの際に帝国から提供された薬で、敷島兵たちが使用している強化薬を作り上げたオリアーナの置き土産だ。
自分たちが使っている薬の製作者が、帝国に残していった研究結果によって自分たちが追い込まれる。
表情が変わった敷島兵たち見ることができたラトバラは、笑みを浮かべて呟いたのだった。
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