第157話 目には目を①

「くそ!! どうなっているんだ!?」


 限たちが侵入し、それぞれが戦いを始めたこと。

 王城を包囲していたアデマス軍は、城から出て来た敷島兵たちとの戦いを開始していた。

 そんな中、アデマス軍のトップであるラトバラは、現状に焦るような声を上げていた。


「何であいつらはこれまで以上に強力になっているんだ!?」


 強化薬を使用した敷島兵といっても、集団による様々な攻撃によって傷を付けることくらいは難しくない。

 しかし、圧倒的な数で責め立てているにも関わらず、なかなか敷島兵が殺せないどころか、小さい傷を付けるだけしかできないでいたからだ。

 敵がなかなか減らせないため、こちらの兵の死傷者がとんでもない勢いで増えている。

 完全に予想外の状況の理由が思いつかないラトバラは、その答えを側で控えるリンドンに求めた。


「わ、私にも分かりません!」


 問いかけられたリンドンも、敵の異常な強さに戸惑っていた。

 そのため、ラトバラに問いかけられても答えようがない。


「失礼します!」


「どうした!?」


 戸惑っている2人の所に、突如隊員が駆け寄ってきた。

 その隊員に対し、リンドンが問いかける。


「敷島兵の者が飲んでいた強化薬を手に入れることに成功しました」


「そうか……」


 敷島兵が飲んでいたということは強化薬だろう。

 これまでの戦いで倒して来た敷島兵の死体の中には、予備となる強化薬を所持していた者もいたため、ラトバラたちアデマス軍は僅かばかりだが手に入れている。

 それと同じものがまた手に入ったのだろうと、リンドンは何の気なしに隊員が差し出した薬入りのビンを受け取った。


「っ!? これは……」


「……どうした?」


 これまでの戦いで手に入れていることから、ラトバラは敷島兵の使う強化薬になんて今更興味がなかった。

 リンドンも同じ思いのはずにもかかわらず戸惑いの声を上げたため、気になったラトバラはその理由を問いかける。


「奴らがこれまで使用していた薬と違います!」


「何っ!?」


 説明を受け、ラトバラはリンドンの側へ駆け寄る。

 そして、リンドンから受け取ったビンに入る強化薬を見比べた。


「本当だ! 微妙に違う……」


 左右に持ったビンの中に入っている薬を何度も往復するように見比べたラトバラは、先程のリンドンの言葉を肯定する。

 薬の色は同じだが、僅かに形が違うように見えるからだ。


「もしかしたら薬の効能が上がっているのでは?」


「そうか! だからこれまで以上にしぶといのか……」


 形が違う理由。

 それは恐らく、これまでの強化薬と区別をするためで、理由は効能が違うからだろう。


「おのれ! あのくそ女!!」


 敵側には、オリアーナというマッドサイエンティストがいるということは掴んでいる。

 アデマス王国が乗っ取られる前、隣国の帝国へと攻め込んだことがあった。

 その時は帝国側にいたが、その後、どういった経緯からか敷島側に寝返ったという話だ。

 その女が、またも厄介なことにしてくれたようだ。

 そのため、ラトバラは怒りを我慢できず、この場にいないオリアーナへの雑言を口にした。


「あの女も確実に殺すが、今はそれどころではない!」


 怒りから顔を真っ赤にしつつも、現状を考えればオリアーナのことは後回しにするしかない。

 そのため、ラトバラは地団駄を踏みつつも意識を切り替えた。


「そうですね。しかし、どうしたら……」


 敵のしぶとい理由は、新薬によることだと分かった。

 しかし、それが分かったからと言って、現状を変えるための方策が見つかった訳ではない。

 そのため、リンドンは現状打破への思考を巡らせる。


「……そうだ! あれ・・を使おう!」


あれ・・? ……あぁっ! なるほど!」


 少しの沈黙があった後、ラトバラが何かを思いだしたかのように声を上げる。

 最初、何を意味するのか分からなかったリンドンだったか、すぐにラトバラが何を言いたいのかを理解した。


「すぐに行動に移します!」


 意図を理解し、リンドンはすぐに動く。

 指示を出すため一礼して、ラトバラの側から立ち去っていった。






◆◆◆◆◆


「ヒャッハー!! こんな雑魚ども相手じゃ、数の脅威なんて無いも同然だぜ!」


「がっ!!」


 アデマス兵を殺す近藤家の敷島兵は、自身の力に酔っていた。

 ワラワラと次から次に覆い掛かってくるアデマス軍の兵を、まるで紙でも斬るかのように葬っているからだ。

 それが新薬の効能による力だということは、頭からすっぽりと抜け落ちているようだ。


「次はどいつだ!?」


 周囲はアデマス兵に囲まれ、自分以外の仲間がどうなっているかなんて分からない。

 しかし、自分と同様に敵兵を屠っているに違いない。

 そう思いながら、その敷島兵は迫り来る敵を煽った。


“シュッ!!”


「がっ!?」


 いくら敷島兵でも、数の力には屈するしかない。

 しかし、新薬の助けもあって、これまで掠り傷程度しか付けられておらず、このまま自分や仲間たちがアデマス軍を倒すのが先か、それとも自分たちが力尽きるのが先かという状況に持ち込むことができた。

 そう思っていた自分に、痛手を与える人間がいるなんて思いもしていなかったため、その敷島兵は不意の一撃を躱すことができず直撃した。


「くっ!!」


 倒れたら敵の攻撃の的になる。

 そうならないために、その敷島兵はなんとか体勢を立て直す。


「っ!! お、お前ら……」


 自分に一撃を入れた人間。

 それが何者かを確認する為に視線を向けた敷島兵は、その人間を見て驚きの声を漏らす。


「フッ! 驚いたか?」


 望遠の魔道具を使用して、その敷島兵を眺めていたラトバラは、驚きの表情を見て、自分の策が成功したことに笑みを浮かべて呟く。


「目には目を、敷島の者には敷島の者を……だ」


 敷島兵に攻撃を加えることに成功した者。

 それは、ラトバラの言葉からも分かるように、捕まえていた敷島の人間たちだ。

 この王都には多くの敷島人がいたが、アデマス軍の侵攻によって捕縛された。

 敷島人と言っても、兵になることができなかった者たちだ。

 そうは言っても、アデマス軍の兵よりも実力が上の者もいたため、その捕まえた敷島人を奴隷化して、敷島兵にぶつけることにしたのだ。


「予定外だったが、考えておいて正解だったな……」


 万が一のことも考えての策だったが、まさかこんなすぐに使うことになるとは思ってもいなかった。

 しかし、これでアデマス軍の兵が減る勢いを抑えることに成功した。

 そのことにひとまず満足し、ラトバラは安堵の言葉を呟いたのだった。


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