第147話 3対1③
「ハッ!!」
「くっ!!」
谷田・橋本・光宮の3人が、代わる代わる攻撃してくる。
その攻撃をギリギリで躱した限は、ほんの僅かな隙を狙って反撃を繰り出す。
攻撃と言っても、大振りはせず、僅かに斬りつける程度。
そうすることによって、3人に隙を与えないようにしている。
そんな攻防が続くことにより、限は無傷のままだというのに、3人には怪我が増えていった。
今も限へ刀を振り下ろした後の状態を狙われた橋本が、肩の部分を僅かに斬られた。
「こいつっ!!」
「フンッ!」
「がっ!!」
橋本を斬った後の限を狙い、光宮が斬りかかる。
しかし、その攻撃も完全に見切っているかのように紙一重で躱した限は、刀を軽く振って太ももを斬りつけた。
「このっ!」
「シッ!」
「ぐっ!!」
光宮を斬った限に谷田が斬りかかる。
上段から振り下ろされたその攻撃を躱し、限は谷田の横っ腹を浅く斬り裂いた。
「くそっ! 全く当たらない!」
限へ攻撃をすればするほど、こちらが反撃を受けて小さい傷が増えていくだけ。
そんな状況に、光宮は悔し気な声を上げる。
「焦っても当たる訳ないだろ?」
「何っ!?」
声を漏らす光宮に対し、限はバカにするように話しかける。
その言葉を受けて、光宮は限を睨みつける。
思っていた通りの反応をする光宮を見て、限は僅かに笑みを浮かべた。
「ですよね? 先生……」
「…………」
腹を立てる光宮から視線をずらし、谷田へと話しかける。
限のその言葉に、谷田はなにも返さない。
返せないと言った方が正しいかもしれない。
何故なら、限が言っていることは、自分が指導をしていた時に教え子たちによく言っていたことだったからだ。
そのことを覚えていて、限はわざと言っているのだろう。
ムッとする気持ちもあるが、それでは限の思うつぼ。
怒りによって焦りを生ませ、攻撃の時に大きな隙を作らせようと考えての発言だろう。
そのため、反論することもなく、冷静に怒りを抑え込んだ。
「乗らないか……」
谷田は煽っても怒りを見せて来ない。
指導者だった経験があるからこそ、光宮のように乗って来ないようだ。
目の前の3人の中で、限にとって一番危険だと考えているのは谷田だ。
だからこそもう少し雑な攻撃をさせて、谷田に深手を負わせたいところなのだが、やはり煽りに乗ってこのないため、限は残念そうに小さく呟いた。
「なら……」
危険度を下げるために谷田をどうにかしたいところだが、それは上手く生きそうにない。
ならば、どうするべきかと考えた限は、すぐに答えが出た。
「ハッ!!」
「シッ!!」
「セイッ!!」
黙って立っているだけでは、自分たちは薬の副作用で死ぬことになる。
ならば、せめて攻撃を繰り出し、限を疲労させて隙ができるのを待つしかない。
そう考えた3人は、光宮・谷田・橋本の順に攻撃を繰り出す。
「ハァッ!!」
「グアッ!!」
「「っっっ!!」」
攻撃を躱した限は、橋本の腹部へ攻撃を繰り出す。
これまでの僅かな傷を負わせるだけの攻撃とは違い、一歩深く踏み込んだことでかなりの深手を負わせた。
しかし、その分隙ができる。
そこを谷田と光宮が見逃さず、すぐさま限へと攻撃を放つ。
「うっ!」
「よしっ!」
限へと放たれた攻撃のうち、谷田の突きが左肩を貫き、光宮の逆袈裟斬りが右胸部分を深く斬り裂いた。
人体実験によって痛みに鈍くなったとはいえ、流石の限でも呻き声を上げる怪我だ。
これまで全然攻撃が当てられずにいたというのに、ようやく深手を与えられたため、光宮は思わず嬉しそうな声を上げた。
「くっ!」
「させるか!!」
攻撃を受けた限は、谷田と光宮から距離を取ろうとする。
しかし、そうはさせまいと、2人は限を追いかける。
距離を取られれば、折角負わせた傷が回復魔法によって治されてしまう。
回復されてしまえば、また振り出しに逆戻りだ。
強化薬の過剰摂取による副作用のことを考えると、振り出しというよりむしろマイナスのスタートになりかねないためだ。
「フッ!!」
「「っ!!」」
2人の攻撃は、またも空を切る。
限が攻撃を躱したからだ。
「3人でも通用しないのに、2人で通用するとでも思ったのか?」
橋本に深手を負わせ、自分もかなりの痛手を負ったが、それは限が狙っていた通りの結果だ。
橋本に深手を負わせることによって、自分に隙ができることは理解していた。
肉を切らせて骨を断つではないが、谷田と光宮の攻撃を受ける覚悟をしたうえで、橋本に深手を負わせたのだ。
そのため、2人の追撃も予想できた。
だからこそ、怪我を負っても焦ることなく攻撃を躱すことができた。
「せめて足を狙うべきだったな?」
「ガッ!!」
2人の攻撃を躱した限は、すぐさま光宮に攻撃を加える。
左肩を貫かれたことにより左腕が動かないため、右手に持った刀で袈裟斬りを放つ。
それにより、光宮の体には斜め深い傷が入り、大量の血を噴き出した。
攻撃と共に発した言葉の通り、橋本を攻撃した後に、谷田と光宮のどちらかが足を狙って来ていたら少々面倒なことになっていた。
攻撃を受ける覚悟をしていたとは言っても、足を狙われたら追撃を躱すことが難しかった。
しかし、狙われたのは上半身だったため、それ以上の攻撃を受けないで済んだ。
「俺に剣術を教えてくれたのは先生ですからね。最後にしたんですよ」
「何?」
橋本と光宮は、深手により戦闘継続は難しい。
残っているのは谷田だけだ。
というより、限は谷田をワザと最後に残したのだ。
大嫌いな敷島の中でも、限の中には感謝している人間がいた。
それは剣術の基礎を教えてくれた谷田だ。
「一騎打ちです」
「……そうか」
感謝しているからと言って見逃すつもりはない。
ならば、正々堂々の一騎打ちにより勝敗を決する。
剣士として戦ったうえでの死を与えようということだ。
それを理解した谷田は、刀を正眼に構え、限の提案を受け入れた。
「「…………」」
無言で睨み合う限と谷田。
「ハッ!!」
「シッ!!」
少しのにらみ合いの後、合図もなくお互い動く。
一瞬の交錯。
それによって、勝敗が決した。
「命をかけてこの結果か……」
腹から大量の血液が噴き出し、谷田が跪く。
こんな結果になるとは思わなかった。
命をかけて強化薬の過剰摂取をしたというのに、全く通用しないなんて。
「バケモノめ……」
「……お褒め頂きありがとうございます」
ここまでした自分たちを相手に勝利するなんて、とても人間とは思えない。
谷田は、最後にその思いを率直に呟いて倒れ伏す。
その言葉に対し、限は笑みを浮かべて感謝の言葉を返した。
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