第146話 3対1②

「ハッ!!」


「セイッ!!」


「シッ!!」


 強化薬の過剰摂取により、強力な力を手にした谷田・橋本・光宮が、三位一体となって限へと襲い掛かる。


「フッ!!」


「「「っ!!」」」


 敷島の中でも上位に位置する一族家の当主たちが、命をかけて挑んでいるというのに、限には全く通用していない。

 襲い来る攻撃を、限は掠らせることもなくいなし、躱す。

 その流れるような動きに、3人は翻弄されていた。


「この3人を相手に……」


「どうして……」


 限が強いことは認める。

 しかし、いくら何でも全く通用しないことには納得できない。  

 そのため、橋本と光宮は攻撃を続けつつ悔しそうに呟く。


「……っ!? まさか……」


「どうしました? 谷田殿」


「何か気付きましたか?」


 攻撃を続ける3人のうち、谷田が何かに気付く。

 攻撃が通用しない理由を知るため、3人は攻撃を一旦止め、限から距離を取る。

 そして、橋本と光宮は、答えを見つけたであろう谷田へと問いかけた。


「まだ魔力を増やしているのか?」


「そんな!?」「バカな!?」


 攻撃が通用しない理由。

 それは、限が使用する魔力を増やして、身体強化を高めたからではないかと考えた。

 しかし、いくら限が強くなったと言っても、これ以上の魔力で身体強化したら肉体が耐えられるわけがない。

 そう考え、橋本と光宮は谷田の言葉に対して、ほぼ同時に反応した。


「フフッ!」


「「「っっっ?」」」


 3人の会話に対し、限は笑い声を上げる。

 その声に、3人は限へと視線を向ける。


「さすが先生だ」


 橋本や光宮と違い、教師をしていたこともあるからか、またしても谷田が限のしていることを見抜いた。

 谷田が言ったように、限は3人を相手にするために使用している魔力を増やし、身体強化をおこなったのだ。


「そんなことができるわけがないだろ!?」


「できたとして、何故体が壊れないんだ!?」


 先程見せた膨大な魔力量。

 それを圧縮しすることで、身体強化の威力を高めていることは分かった。

 その魔力量をさらに増やすなんて、どう考えてもあり得ない。

 それだけの魔力量をコントロールしつつ戦うなんて、とんでもない緻密な操作能力が必要となる。

 元々魔力を持っていなかった限が、研究所に行ったことをきっかけに手に入れて訓練を重ねたとは言っても、そこまでの魔力操作能力を手に入れられるわけがない。

 百歩譲って、その魔力操作能力を持っているとしても、身体強化に体が耐えられなくなるはずだ。

 そのため、納得できない橋本と光宮は、そのことを限へと問いかけた。


「お前らとは体の出来が違うんだよ」


「ふざけるな!」


「そんな理由で耐えられるわけがない!」


 研究所で地獄のような人体実験を受け、それに耐え抜いた経験から、限は耐久力には自信がある。

 そのため、限は2人の問いに自慢げに答える。

 その態度が自分たちを舐めていると受け取り、橋本と光宮は怒りを露わにした。


「理由なんて知った所でどうでもいいだろ? お前らはもうすぐ死ぬんだから」


「何だとっ!?」


「このガキ!!」


 この身体強化に耐えられる理由。

 本当の所は他にあるのだが、それを教えるつもりはない。

 どうせこの後殺す人間だからだ。

 本心からいう限の言葉に、橋本と光宮は更に腹を立てる。

 限が昔の魔無しなどではなく、強くなったことは認めるが、一族の当主である自分を見下していることが癪に障ったためだ。


「御二人とも冷静に! 奴の術中に嵌ってはなりません!」


「ムッ!」「ウッ!」


 一人冷静な谷田は、橋本と光宮を諫める。

 怒りは時として思ってもいない力を引き出すことがあるが、多くは冷静さを失い、思わぬミスを犯すことになる。

 心は熱く、頭は冷静に。

 敷島の中でよく言われていることだ。

 谷田に言われてそのことを思いだしたのか、橋本と光宮は小さく声を漏らし、冷静さを取り戻した。


「いざっ!」


「「おうっ!」」


 2人が冷静さを取り戻したのを確認した谷田は、短い言葉で再度限へと攻めかかることを伝える。

 それに同意するように2人が声を上げると、3人はまたも限へ向かって斬りかかっていった。


「……やっぱりな」


 谷田・橋本・光宮の順で限へと斬りかかる。

 迫る攻撃を躱し、限は何かを確信したかように呟いた。


「薬の効果のピークが過ぎたようだな?」


「何っ!!」


 少し前から気になっていたが、3人の攻撃のうち、光宮の攻撃が今までのような鋭さがない。

 あくまでも、限のみが気付いたことで、当の本人である光宮も気付いていないような僅かな差だ。


「そんなバカな!!」


 限の言葉を否定するかのように、光宮が斬りかかる。


“キンッ!!”


「ほらな?」


「っ!!」


 言が光宮の攻撃を受け止める。

 両者の刀がぶつかり合い、甲高い音が鳴り響く。

 それと共に、光宮の刀だけに変化が起きた。

 限の刀とぶつかった場所に、僅かだが刃こぼれが起きたのだ。


「どうやら、このままでも勝てそうだな……」


 身体強化によって、3人の攻撃に対処することは問題ない。

 しかし、反撃をするとなると、隙ができて回避しきれなくなる可能性がある。

 どうするべきかを考えていたが、どうやらその必要はないようだ。

 このまま躱すことに専念しているだけで、この3人は自滅することが分かったからだ。


「でも……」


「ガッ!!」


「「っっっ!!」」


 谷田・橋本の攻撃を躱し、続いて迫る光宮の攻撃に対し、限は反撃に出る。

 最短の振りによる斬撃により、光宮の脇腹が斬り裂かれた。


「こいつっ!!」


「っと!!」


 斬ったと言っても、致命傷とまではいかない。

 そのため、光宮はすぐに限に刀を振る。

 しかし、その反撃を予想していた限は、横に跳び退くことで回避した。


「シッ!!」「ハッ!!」


「おわっ!」


 限が更に光宮への攻撃をしようとしたところで、谷田と橋本の邪魔が入る。

 その攻撃を、限はギリギリのところで回避して距離を取る。


「やっぱり、この手で仕留めないとな……」


 刀に付いた光宮の血を振り払い、限は笑みを浮かべる。

 このまま回避に専念していれば、自分が勝てることが分かった。

 しかし、限としては、薬の副作用による死など認めたくない。

 きちんと実力でねじ伏せたうえで仕留めたい。

 光宮を斬った時に刀から伝わった感触からそれを確信した限は、多少の危険を冒しても自分の手で3人を仕留めることに決めた。


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