第145話 3対1①

「ハァ!!」


「っと!」


 光宮が限へと迫り、薙ぎ払いを放つ。

 その攻撃を、限はしゃがみ込むことで難なく回避する。


「フンッ!!」


「フッ!!」


 攻撃を躱した限に向かって、谷田が当たれば吹き飛ぶような一撃を振り下ろした。

 その攻撃を、限はバックステップをする事で躱した。


「当たら…ない」


「何故…だ?」


 1人では通用しないとしても、2人による攻撃ならば通用するはず。

 そう思っていただけに、自分たちの攻撃が限に全く当たらないため、光宮と谷田は戸惑いの声を上げる。


「言っただろ? 少し本気を出したって」


 戸惑う2人に対し、限は笑みを浮かべて答える。

 それは光宮に言ったことだが、再度言うことで谷田にも聞かせるためだ。


「魔力量は…変わって…いないのに……」


 光宮には、限の言っていることが分からない。

 限が特別何かを変えたようには思えないためだ。

 全身に纏う魔力量を増やし、身体強化を高めたというのなら分かるが、そうした様子はない。

 他に特有の何か理由があるのではないかと、考えているが思いつく理由がないのが現状だ。


「……っ!?」


 身に纏う魔力量が変わっていない。

 たしかに光宮の言うように、見た目は変わっていないように見える。

 しかし、その身に纏っている魔力を見ていると、谷田は何か違和感を覚えた。

 そして、少ししてその違和感の正体に心当たりが浮かんだ。


「違う……」


「谷田…殿?」


 違和感の正体に気付いき、谷田が小さく呟く。

 その呟きに、光宮が反応した。

 谷田の表情と呟きから、何かに気付いたように見えるが、いまだに限がしていることの正体がわからず、光宮は谷田に答えを求めた。


「変わっていない…んじゃない。見た目は…そのままだが、奴は…かなりの魔力を…使用している」


「どういう…ことですか?」


 限がおこなっていることを理解し、谷田は驚愕の表情へと変わる。

 見た目はそのままだというのに、大量の魔力を使用している。

 谷田のその言葉の意味が分からず、光宮は首を傾げるしかない。


「圧縮…している…のか?」


「その通り。さすが先生だ」


 正解を口にした谷田に、限は肯定の返事をする。

 その口調は、「ようやく気付いたのか」と、どこか馬鹿にしたようにも聞こえる。


「どういう…ことだ?」


「ここまで言ってわかんないのか?」


 谷田が正解を言っているというのに、光宮はまだ理解できていない様子だ。

 その反応に、限は呆れたと言わんばかりの表情で光宮へ問いかける。


「圧縮してるんだよ。魔力を」


 限が密かにおこなっていたのは、身体強化に使用する魔力量を、ただ見ただけでは分からないように増やしていただけだ。

 魔力量を増やすと同時に圧縮することで、見た目で分からないようにしていたのだ。


「そんな事は…我々だって……」


「精度の桁が違うんだよ」


 魔力を圧縮することで威力を上げるということは、光宮だけでなく他の敷島の者もおこなっている。

 そのため、光宮は限の説明に対して反論をしようとした。

 しかし、その反論に被せるように、限が言葉を発する。


「見えるようにしてやろう……」


“ズッ!!”


「「っっっ!?」」


 説明しているのにもかかわらず理解しようとしない光宮に対し、限はどれほどの魔力を圧縮しているのか分かるように見せてやることにした。 

 限が圧縮した魔力を解くと、一気に膨れ上がる。

 自分たちとは二回りは違う魔力量に、谷田と光宮は目を見開いた。


「まさか、ここまで…の量を……」


「あの魔無しが…どうして……」


 命をかけて強化した自分たちの攻撃を、苦も無く回避できる理由を、光宮はようやく理解した。

 1対1では、とてもではないが勝てそうにない。

 そう認めざるを得ないほどの魔力量だ。

 それを圧縮して使用しているなんて、どれほど魔力の操作技術が高いというのか。

 元々は魔力がなかったはずの限が、どうして最初から魔力を持っていた自分たち以上に操作技術が高いのか。

 谷田と光宮には、疑問ばかりが浮かんできた。


「さて、戦いを再開しようか?」


「「くっ!!」」


 話し合いはここまでだ。

 そう言うかのように、限は2人に向かって刀を構える。

 刀を向けられた谷田と光宮は、限の使用している魔力量を見たことで若干しり込みをした。


「ガアァーー!!」


「っっっ!?」


 谷田と光宮へ向かって攻めかかろうとした限だったが、突然何者かが襲い掛かってきた。

 その者から振り下ろされた刀を躱すため、限はその場から跳び退いた。


「……ハッ! お前もかよ……」


 飛び退いた限は、襲い掛かってきた者が誰なのかを確認して嘆息する。


「橋本……」「殿……」


 谷田と光宮が呟く。

 現れたのは、橋本だった。

 しかも、谷田や光宮と同じく、肉体が肥大化している。

 その姿から、2人同様強化薬を過剰摂取したことが窺えた。


「どうやら…奴はバケモノ…のようですな……」


「えぇ……」


「しかし、3人なら……」


 谷田が薬を使用して限へと向かって行った後、橋本はこのまま自分だけ何もしないでいるわけにはいかなかった。

 そのため、自分も命をかけて限と戦うことを決めた。

 そして、谷田を追いかけるようにしてここに来るまでの間に、橋本も限の使用している魔力量を確認した。

 谷田と光宮同様、橋本も限の使用している魔力量には驚き、自分だけでは勝てないことを悟った。

 しかし、ここにいるのは自分だけではない。

 3人なら、限も倒せるはずだ。

 意見が一致した3人は、限に刀を向けて構えをとった。


「……3人なら?」


 先程まで恐れを含んだ表情をしていた谷田と光宮だったというのに、橋本までも加わったことで引き締まった表情へと変わってしまった。

 そして、聞こえてきた会話に反応する。

 まるで、3人なら勝てると言っているかのようだ。

 というより、本気でそう思っているのだろう。


「面白い冗談だ」


 本気でそう思っているからこそ、限からすると滑稽に思える。

 色々と説明をしてあげたというのに、まだ自分との実力差を理解していないようだ。


「いい加減不愉快だな……」


「「「っっっ!!」」」


 理解力がないというより、理解しようとしていない3人に、限は段々とイラ立ってきた。

 そのため、限は3人に向かって強力な殺気を飛ばした。

 その殺気を受けて3人は顔を青くするが、退こうとしない。


「殺す……」


 3人なら勝てると思っているから退かないのだろう。

 その態度も気に入らなくなってきた限は、眉間に皺を寄せて刀を構え、前傾姿勢を取ったのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る