第139話 光宮の策

「あっちは派手だな……」


 遠くから聞こえる爆発音に、限は小さく呟く。

 聞こえて来る方角から、レラの魔法によるものだと分かる。

 最初から全力で行けと言っていたが、予想以上に派手な魔法を使用しているようだ。

 レラの思い切りの良さに、限は思わず笑みを浮かべた。


「こっちは地道にやるだけだが……」


 爆発によって一気に大量の敵を倒すレラと違い、限は向かって来る敵を仕留めていく戦い方をおこなっている。

 相手は敷島の者たちだというのに、限の周りには死体が大量に転がっている。

 大爆発で一気に倒しているレラほどではないとはいえ、大差があるようには見えない。

 それからも分かるように、限の強さは規格外と言っていいだろう。 


「魔無しめ……」


 光宮家の当主宏直は、忌々し気に呟く。

 自分が守るヤミモの砦を奪われたことを、まだ根に持っているようだ。

 ヤミモの時と同様、仲間が次々と殺されて行く様に、少し落ち着かせた怒りが再燃してきたのかもしれない。


「……落ち着いて下さい光宮殿」


「分かっております……」


 怒りで今にも限へと向かって行きそうな光宮へ、谷田が諫めるように話しかける。

 それを受け、光宮は殺気を収める。

 限の強さは異常だ。

 あれが本当に、魔力がなかった男の実力なのだろうか。

 1対1で限とまともに戦った場合、誰が勝てるというのか。

 恐らく、敷斎王国の王となった重蔵ですら勝てはしないだろう。

 その重蔵にも劣る自分が、今限に攻めかかったとしたも返り討ちに遭う可能性が高い。

 指揮する側の自分がやられれば、味方の指揮が下がる。

 そうならないためにも、勝手な行動はできないと理解しているからだ。


「奴をここで仕留めるには、この方法しかないのですから」


「えぇ……」


 谷田に続き、橋本も諭すように告げる。

 たしかに限の強さは異常だが、敷島の兵たちが何もできないでいる訳ではない。

 味方が目の前で殺されようと、限へと攻めかかる。

 むしろ、限に僅かでも傷を付けようと、味方を利用しているように見える。

 それが功を制しているのか、限は戦闘が進むにつれて傷が増え始めていた。

 強化薬を使用した大量の敷島兵をこれだけの時間相手にして、無傷でいたらバケモノとしか言いようがない。

 しかし、限はそうではない。

 つまり、このまま進めば、限はいつか力尽きるということだ。


「時間と被害は結構なものになりますが……」


 橋本と光宮に聞こえないよう、谷田は呟く。

 このままいけば、限を倒すことは可能だろうが、それによって多くの仲間が犠牲になることを意味している。

 敷島の人間は今回のように、勝利を得るためには仲間の命を利用する場合がある。

 だからと言って、仲間のことを何とも思っていないという訳ではない。

 やむを得ないからこそ、その選択をしているのだ。

 源によって多くの仲間が犠牲になると分かっていても、このような選択をしなければならないことに、光宮だけでなく谷田と橋本も怒りを抑えている状況だ。


「フフッ!!」


「……何がおかしい!?」


「……いや、別に……」


 離れているというのに、戦いながらも谷田たちの会話が聞いていた限は小さく笑い声を上げる。

 谷田はそれに目敏めざとく反応する。

 しかし、限はそれをはぐらかすように返事をするのみだった。






「……どうなっているんだ!?」


「……分かりません」


 谷田と橋本が、現状を理解できず口にする。


「奴は何故衰えない……」


 2人に続き、光宮が呟く。

 彼が言うように、状況はおかしな様相を呈していた。

 というのも、戦いの時間が続くごとに、限の傷は増えて行っている。

 かなりの出血をしているし、疲労の色も見えているというのに、限の動きが衰えない。

 時間をかければ勝利が思っているだけに、谷田・橋本・光宮の3人は戸惑うしかなかった。


「それどころか……」


 ずっと冷静だった谷田だが、さすがにこの状況ではそうはいっていられない。


「動きに無駄が無くなっていっている」


 戦いを始めた時と今の限では、動きが違っているからだ。

 特別に動きが速くなったという訳ではない。

 谷田が言うように、無駄のない動きで迫る敷島兵を返り討ちにしているからだ。


「…………」


「ギャッ!!」「グエッ!!」


 無言で迫り来る敵を倒す限。


「ガッ!!」「ゴアッ!!」


「…………フフッ!!」


 攻撃し終える限に、更なる敵が襲い掛かる。

 それを予測していたかのように、限はその攻撃を躱して反撃をする。

 思い通りの結末によるものなのか、限は僅かに笑みを浮かべる。


「ウガッ!!」「ウッ!!」


「ハハハッ……!!」


 限の攻撃後の隙をついて、攻撃を仕掛けてくる敷島兵。

 初めのうちは、その攻撃で細かいながらも限に傷を付けることができていた。

 しかし、戦いが進むにつれて、その攻撃が通用しなくなり、今では攻撃を紙一重で躱し、向かって来る敵に反撃をおこなっている。

 一歩間違えれば、急所に受けて死ぬかもしれないというのに、限は楽しそうに笑い声を上げた。


「バケモノめ……」


 攻撃を躱し、反撃を繰り出す。

 まるで流れるような体の動きにより、強力な戦闘力を持つ敷島兵を笑いながら屠っていく。

 返り血を受けて全身を真っ赤に染める限の姿に、橋本は思わず声を漏らした。


「こうなったら……」


 見えていた勝機も、この状況では消えてきている。

 それどころか、こちらが負ける可能性すら見え始めた。

 これだけの状況で負けるなんて、王となった重蔵への印象は最悪だ。

 ヤミモの砦を奪われていることもあり、特に光宮は危機感を抱いている。

 そのため、光宮はこの状況を打開する取っておきの策を講じることにした。


「これから我々がこの時のために練った策を実行します。御二方の家の者は少し下げてください」


「光宮殿……?」


「何を……?」


 神妙な顔で話しかけて来た光宮に、谷田と橋本は戸惑い顔を見合わせる。

 光宮のその表情から、2人はひとまず言われた通りに部下へと指示を出した。

 谷田家と橋本家の部下たちが引いたところで、2人は自分の部下たちに指示を出している光宮に何をする気なのか問いかけた。


“ドーーーンッ!!”


「「っっっ!?」」


 光宮からの返答を待っていた谷田と橋本だったが、答えが来る前に異変が起きる。

 突如、限の周辺で爆発音が鳴り響いたのだ。

 何が起きたのかと、谷田と橋本は光宮ではなく爆発の起きた場所へ目を向けたのだった。


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