第138話 1人と2体

「……フゥ~、さすがに緊張するわね……」


 周囲を囲んでいる敷島兵たちを見て、レラは気持ちを落ち着かせようと深く息を吐く。

 それによって少しは気持ちが楽にはなったが、敵からのプレッシャーからか顔が引きつっている。

 相手は、この大陸において最強の一族と名高い敷島兵だ。

 元々は戦闘職ではない聖女見習いだったレラが、そんな相手に囲まれて、命を狙われる立場にいる。

 それを考えれば、何も感じない方がおかしな話だ。


「バウッ!」「キュッ!」


 限に任され、アデマス王国の左翼側で敵の奴隷兵を倒しまくったアルバと、レラの胸のポケットから顔を出し、防御を担当するニールが声を上げる。

 まるで、先程のレラの言葉を聞いて、「自分たちがいるから大丈夫!」とでも言っているかのようだ。


「……そうですね。私にはあなた様たちがいるのですものね」


 自分は限によって力を与えられた。

 限は「レラ自身の努力の結果だ」と言ってくれているが、レラ自身はそうは思っていない。

 あの敷島兵を相手にしても戦える魔法技術をだ。

 訓練によって、限からもお墨付きをもらっている。

 そんな自分には、神と崇める限の使徒であるアルバとニールが付いている。

 それを考えると、レラは負けるわけがないと思えてきた。


「かかってきなさい!!」


 薙刀を握る手に力を込める。

 そして、周囲を囲んでいる敷島兵たちに向かって啖呵を切った。


「こんな小娘に……」


 アデマス軍を王都内に侵入させないために、王である重蔵から防衛を任された指揮官の近藤。

 その近藤により、敵の左翼側で派手に暴れている勢力を潰すことを指示された平出は、レラを見てこめかみに血管を浮き上がらせる。

 敷島に害をなす限と、その仲間の殺害。

 それを果たすために動いたというのに、来てみれば限ではなく仲間の方。

 限ではない可能性は感じていたので、そのこと自体は問題ではない。

 問題なのは、限の仲間が若い娘と犬と亀ということだ。

 天下の敷島が、こんな相手に脅威を感じていたと思うと怒りが湧いてきた。

 それは、自分と同じ指示を受け、隣に立つ高木も同じなのだろう。

 隣から殺気が洩れているのを感じ取れる。


「……殺れ!」


「「「「「オォーーーッ!!」」」」」


 敵で脅威になるのは限とその仲間だけだと、これまでの戦いから分かっている。

 小娘とペットたちにしか見えないが、それでも強化薬を使用した奴隷兵を難なく倒していた。

 そのことから、限の仲間であることは間違いないだろう。

 ならば、指示通り倒すだけだ。

 そう考えた高木は、敷島兵たちにレラたちの殺害を命じた。

 それを待っていたかのように、敷島兵たちは一斉にレラたちへと襲い掛かっていった。


「…………」


 大量の敷島兵たちが迫る中、レラは目を閉じて集中する。


「ハァー―ーッ!!」


 戦いに際し、限からは「最初から手加減するな」と教わっていた。

 この戦いの時のために、魔力の回復薬を用意していたからの発言だろう。

 限がそう言っていたのだから、当然レラはそれに従う。

 体内の魔力のほとんどを薙刀に集中させたレラは、閉じていた目を開け、一気に魔法を発動させた。


“ズドーーーンッ!!”


 レラたちのいる場所を除く周囲が、魔法によって大爆発を起こした。

 その爆発により、レラへと迫っていた敷島兵たちは吹き飛ぶ。


「……がぁ……っ」「……うぅ……っ」「…………っ」


 吹き飛んだ敷島兵たちが呻き声を上げる。

 体の至る所を重度の火傷をしており、その痛みによるものだろう。

 その者たちは、息があるだけまだマシだろう。

 多くの者は全身が焼かれており、一部は炭化している。 

 一番近くまでレラに迫っていた者なんかは、跡形もなく焼け飛んだらしく、死体を確認することすらできなくなっている。


「フゥ~……!!」


 体内の魔力を一気に消費したレラは、深く息を吐く。

 魔力使用による疲労感により、動いてもいないのに汗が出てきている。


「……んっ」


 敵が吹き飛ばされた仲間に気が行っているうちに、レラは回復薬を取り出して飲む。

 それにより、魔力消費による疲労感が消えていく。


「次……」


 魔力が回復したレラは、空になった瓶を捨てて、またも目を閉じて集中に入った。


「何をしている!?」


「薬を使って攻めかかれ!!」


 兵たちも、敵は限の仲間だと分かっているはず。

 それなのに、見た目で侮ったのか強化薬を使用せずに突っ込んで行っていた。

 そのせいで、多くの兵が死傷することになってしまった。

 最初から強化薬を使用していれば、先程の魔法も無傷とはいかなくとも耐えられた可能性がある。

 同じ考えをしていた自分自身を棚に上げて、先程の魔法の威力を見た平出と高木は兵たちに怒号を浴びせた。


「「「「「ウオォーーーッ!!」」」」」


 限の仲間ということだけでも苛立たしいというのに、レラたちの見た目に騙されて多くの仲間がやられてしまった。

 その恨みが相まって、敷島兵たちの本気に火をつけた。

 薬を飲んで強化した敷島兵たちは、次の魔法を撃たせまいと、またもレラへと向かって襲い掛かっていった。


「ハァーーーッ!!」


 敷島兵が薬を飲んで強化している間に、レラの方はもう魔力の集中は済んでいた。

 そのため、敵を引き付けるだけ引き付けて、レラは先程の魔法を再度発動させた。


「……こ…のっ!!」


「っ!!」


 レラの強力な爆発魔法。

 二度目の攻撃に敵の中には耐えきる者がいた。

 強化薬を飲んだことにより、防御能力も上がっていたからだろう。

 かなりの火傷を受けつつも、その兵はすぐさま刀でレラに向かって突きを放つ。


“キンッ!!”


「っ!?」


 レラに迫る攻撃だったが、少し手前で弾かれ、届くことはなかったため、攻撃を放った敷島兵は目を見開く。

 魔力障壁による防御に阻まれたためだ。

 大規模魔法を放って、魔力を消費したレラが張ったものではない。


「キュ!」


 レラのポケットに入っているニールが張った魔力障壁だ。


「ワウッ!」 


「がっ!!」


 自分の攻撃が弾かれたことに驚いている敷島兵。

 そんな無防備な状態でいては、攻撃してくれと言っているようなもの。

 棒立ちでいる敷島兵を、アルバが前足で殴る。

 顔面を殴られた敷島兵は、首がおかしな形に曲がりながら、仲間の方へと飛んで行った。


「ありがとうございます。御二方」


 ニールとアルバが敵の相手をしている間に、レラはまたも魔力回復薬を飲んでいた。

 そして、魔力回復薬を飲み終えたレラは、2に感謝の言葉をかけて、またも魔力集中に入った。


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