第140話 策には策

「まさか……」


「……自爆?」


 爆発と共に煙が舞い上がる。

 その煙で、限が生きているのか判断が難しい。

 しかし、周辺に飛び散っている血や肉などを見た谷田と橋本は、光宮家の者が何をしたのか理解した。


「左様。光宮家の者には、もしもの時には自爆するよう指示しておきました」


 2人の呟きに、光宮家当主の宏直は頷き、先程の自分の出した指示の意味を伝えた。


「「…………」」


 光宮の説明を受けて、谷田と橋本は言葉を失う。

 自分たち敷斎王国の人間にとって、今一番危険な存在は限だ。

 その限を、自分たちがこの場で確実に始末しなければならない。

 戦う限を見て、多くの仲間が犠牲になることは覚悟しなければならないことは理解したが、自爆を部下に強要するまでと思っていなかった。

 敷島の人間なら、仲間の命を利用して敵を討つという作戦を取ることはあるが、自爆して敵を討つという作戦を強いることは、余程の相手でないと強いることはしない。

 光宮がその選択をしたということは、余程限を警戒していたのだろう。


「我々は一度煮え湯を飲まされております。それを晴らすためにはこれしかないのです」


 命を軽く見る敷島の者たちだが、仲間である敷島の人間に対してはそうではない。

 敵と戦い、負けて命を落とすなら仕方がないとは思うが、無駄死にをさせるような選択はなるべくならしたくはない。

 光宮はヤミモの砦の時、限にしてやられていて、今回も失敗する訳にはいかないという思いもあったのだろう。

 最終手段である自爆攻撃もあり得ることを、部下に指示していたようだ。


「なるほど……」


「選択を理解します」


 光宮の覚悟を知り、谷田と橋本は小尾選択を取ったことを理解した。

 しかし、そこまでの選択をするべきだったのかは判断つかないため、光宮の選択を称賛することはなく、理解しただけにとどめた。


「おぉっ!!」


 爆発によって舞い上がった煙が消え行く。

 そして、ようやく標的である限の姿が見えてきた。

 その姿に、光宮は喜色の笑みを浮かべる。


「ぐうぅ……」


 自分もろとも敵を仕留めようとする自爆攻撃。

 敷島にいた頃、限も聞いたことがあるため、もしかしたら自分にもおこなって来ることは考えていた。

 しかし、あくまで最終手段のはずの攻撃を、まだ勝敗が微妙な状態の時におこなって来るとは思わなかった。

 直撃は免れたが、甘く見たことで被害を受けてしまった。

 全身に怪我を負ってしまい、特に酷いのは爆発によって飛んできた高速の礫により、左腕の骨が折られてしまった。


「ハハッ!! これであの魔無しもお終いだ!!」


 二刀流による限の攻撃力は脅威だが、片腕を折られてしまえばそれも半減する。

 さらに限は傷だらけで、これまでのように戦えるわけがない。

 多大なる成果を得られたため、光宮は部下の命を懸けただけはあると、大いに喜んだ。


「フフッ……」


「んっ?」


 全身に怪我を負い、絶体絶命のはずだというのに、限は笑みを浮かべる。

 止めを刺すために部下を仕向けようとした光宮だったが、その反応を見て疑問の声を上げた。


「自爆したいのなら、させてやるよ!」


 止めを刺そうとする光宮家の兵たちを見て、限は小さく呟く。

 すると、


“ドーーーンッ!!”


「「「っっっ!?」」」


 光宮の兵たちが限に近付く前に爆発する。

 その爆発によって、谷田や橋本の兵たちに被害が及んだ。

 何が起きたのか分からない谷田・橋本・光宮の3人は、目を見開いて固まるしかなかった。


「ど、どういうことですか!?」


「何故彼らは自爆をしているのですか!?」


「わ、分かりません!」


 光宮の兵が次々と自爆する。

 それにより、仲間の兵にも被害が広がっていく。

 谷田と橋本は、当然光宮にこの状況の説明を求める。

 しかし、聞かれた光宮からしても何が起きているのか分からず、戸惑うことしかできなかった。


「お前たち!! 何をしている!?」


「ハハッ!!」


「っ!?」


 光宮は慌てて自分の兵に問いかけるが、その返事がくる間も兵たちが自爆していく。

 その光宮の慌てぶりを見た限はわざと聞こえるように笑い声を上げ、混乱が生じているうちに怪我の回復をおこなう。


「貴様!! 何をした!?」


 先程の笑みから、この状況は限が引き起こしている。

 そう考えた光宮は、怒鳴るように限へ問いかけた。


「さぁ……?」


 聞かれたからといって、正直に答える気はない。

 そのため、限は惚けたように返答する。


「まさか……」


 限とのやり取りをしている間も、光宮の兵は爆死していく。

 そのなかの1人を見て、光宮はある考えに思い至った。


「兵に魔法陣を仕込んでいた? いや、しかし……」


 兵が爆死する前、体の一部に魔法陣が浮かび上がる。

 それが爆死している原因のようだ。

 原因は分かったが、新しい疑問が浮かぶ。

 限が、いつその魔法陣を兵たちに仕込んだのかという疑問だ。


「っ!! あの時か!?」


 多くの敷島兵が集まった王都の防壁内に入って、兵たちに魔法陣を仕込むことなんて不可能だ。

 それならば、それ以前に仕込んでいたということになる。

 限が光宮の兵に接近したのはいつかと考えた光宮は、ヤミモの砦の時だとすぐに思い浮かんだ。


「気付いたか? まぁ、気付いたところで遅いけどな」


 何かを察した様子の光宮を見て、限は魔法陣を仕込んでいたことを気付かれたと分かった。

 そして、いつ仕込んだかということもすぐに導き出したことが考えられる。

 気付いたからと言って、もう止めることはできないだろう。

 発動させる前に気付いていれば、もしかしたら魔法陣を消すこともできただろうが、発動させてしまった後では爆発するしか道はない。

 限が言うように、気付いても止めることなどできず、光宮の兵たちは爆発を続けた。


「そんな……」


「「…………」」


 光宮の兵たちの爆発が止んだ。

 全員が爆発によって死んでしまったからだ。

 その爆発によって、谷田と橋本の兵もかなりの人数が死傷した。

 辺り一面に死体の一部が転がる地獄絵図のような状況に、光宮は膝をついて項垂れ、谷田と橋本は言葉を出すことも出来ずに佇んでいた。


「さて、残った奴らも仕留めないとな……」


 爆発によって混乱している間に、限の怪我は完全に治っていた。

 骨折していた左腕も、自爆を攻撃を受ける前に逆戻りだ。

 敵はごっそり減っているのを確認した限は、笑みを浮かべて刀を構えた。



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