第126話 脅威度

「ガァッ!!」


「っと!」


 強化薬により筋肉を肥大化させた敷島兵たちが、限へ向かって襲い掛かる。

 高速接近による攻撃に対し、限は横にステップすることで回避する。


「ハァッ!」「オラッ!」


「フッ! ハッ! ……なるほど、そう来たか」


 先程の躱した限に、他の兵たちが襲い掛かる。

 その攻撃も限は躱す。

 しかし、躱した先にも敵が待ち受ける。

 それを見て、限は敵の狙いに気が付いた。


「そうだ! それでいい!」


 部下たちの攻撃が躱されているというのに、南川は評価する発言と共に笑みを浮かべる。

 攻撃を躱されても、次々と攻めかかる。

 それにより、限に反撃をする機会を与えないのが狙いのようだ。


「奴の体力が尽きるまで攻め続けろ!」


「……フッ!」


 彼らが思った通り、限は攻撃を躱すばかりで反撃してこない。

 それを見て、作戦が成功していると思った三島は、嬉しそうに部下たちへと指示を出す。

 次々迫る攻撃を躱す中、限は密かに笑みを浮かべた。

 

「……何がおかしい!?」


 限の笑みに、山科が目ざとく気付く。

 そして、攻撃回避をすることしかできていないにもかかわらず、浮かべるその笑みの理由を尋ねてきた。


「ちょうどいいと思ってな……」


「……何?」


 代わる代わる迫り来る敵の攻撃を躱しながら、限は山科の問いに答える。

 意味が分からない返答に、山科はまたも首を傾げるしかなかった。


「王都の部隊を前に試してみたかったんだ。薬を使った敷島の連中がどれほどなのかってな……」


 オリアーナの作り出した強化薬。

 それは、限がこの先の復讐を果たすうえで、必ず関わってくることになる。

 ただでさえ強力な力を有する敷島の人間が更なる力を得た場合、自分にとってどれほどの脅威になるのか。

 王都にいる父たちを相手にする前に、この三家で試してみたいと思っていたが、思った通りに彼らが強化薬を使用してくれたため、限としてはありがたいと言いたいところだ。


「何だと……?」


 五十嵐家が強力な戦闘力を有する一族であるということは、敷島内では周知の事実だ。

 そんな五十嵐家が、あの魔無しの限に殲滅されたということは、王を名乗る重蔵によって敷島の者たちに報告されていた。

 更に、どうやってかは分からないが、力を得た限が敷島に対して復讐を企てているということも伝えられている。

 それを聞いた三家の者たちは、五十嵐家程の実力ある一族を限が殲滅したなんて信じられない気持ちでいたが、それはあくまでも強化薬を使用していない五十嵐家の者たちを相手にした場合の結果だ。

 強化薬を使用しさえすれば、自分たちでも五十嵐家の者たちを殲滅することなんて出来ると今では考えている。

 薬による力とは言え、五十嵐家以上の力を得た自分たちを前に、笑みを浮かべている限の発言を受けた山科は何故か寒気を感じた。


『五十嵐家を殲滅した時は、奈美子だけだったからな……』


 五十嵐家と戦った時、強化薬を使用していたのは奈美子だけだった。

 その奈美子も、婚約者の奏太が殺されたことで心が折れ、大して戦うことも出来ずに終わってしまった。

 元々才のある奈美子の場合、従魔のアルバたちと共に戦っていたレラですら苦戦する実力があった。

 あの時の薬は奈美子が使った1錠しかなかったため、正確な分析ができていなかった。

 強化した奈美子よりも元が劣ると言っても、強化薬を使用した三家の者たちはそれほどの差はないはず。

 この機に、薬を使用した敷島の集団の実力を測るため、限は敵の攻撃を躱しながら内心呟いた。


「このっ!!」「ちょこまかと!!」


 攻撃と回避。

 その攻防が続くが、先に焦り出したのは敵の方だった。

 薬によって増強した筋肉と魔力によって、次々と攻撃を放っているというのにギリギリのところで躱され、限にかすり傷1つ負わすことができないでいたからだ。


「フフッ!」


 躱す方の限と言うと、汗を掻いている以外は特に変化がない。

 最初から浮かべていた笑みもそのままだ。

 反撃の隙を与えない戦いをしている敵の方が明かに有利なはずなのに、

その笑みが余裕を表しているように感じさせ、何故だか敵たちに焦りを生んでいた。


「…………」


「フッ! どうやら強がりだったようだな……」


 しばらく反撃する間もなく攻撃を躱し続けていた限だったが、その笑みも段々と消えていった。

 その表情を見て、三島は笑みを浮かべた。

 余裕のように見えていた限の笑みが、ただの強がりだと理解したからだ。


「こんなものか……」


「っ!?」


 このまま攻め続ければ、限のスタミナが尽きて仕留めることができる。

 三島同様、部下である彼らも同じように思っていたことだろう。

 そんな中、小さな呟きと共に限の魔力が上がった。

 そして、魔力が上がると共に、限の姿がその場から消え去った。


「6割……、と言ったところか……」


「何っ!?」「いつの間に!?」


 姿が消えた限を探すように、兵たちがキョロキョロと周囲を見渡す。

 そして、声が聞こえた方へ視線を向けて、限の姿を見つけて驚きの声を上げた。

 限がいた場所が、三島ら当主たちがいる側だったからだ。


「俺の全力からすると、ここにいる連中は6割の力で全滅させることができるということだ」


「つ、強がりを言うな!」


「貴様は防戦一方だったじゃないか!?」


 側に現れたことに驚きつつ、山科と南川は限の言葉に反論する。


「敢えてそうしていただけだ」


 今、僅かに力を見せてあげたのにもかかわらず、自分の言葉を受け入れようとしない2人に、限は分かりやすく説明する。

 ここまで、躱し続けるしかない防戦一方の状態は、自分がわざとそうしていたということをだ。


「それにしても、強化薬を使用してかなり強くなっているはずなのに、お前たちは五十嵐家よりも脅威に感じないな」


 五十嵐家を殲滅してから、限は更に実力を上げている。

 それはたしかだが、だとしてもこの三家を相手にしても脅威に感じない。

 それはつまり、五十嵐家に劣るということだ。

 五十嵐家とは違い、強化薬を使用している者たちを相手にしているというのにだ。


「なっ!?」


「何だと!?」


「ふざけたことを言うな!!」


 限の言葉に、三家の当主たちは侮られたと怒りに震える。


「貴様ら! 何としてもこいつを殺せ!」


 限の発言に腹を立てた三島は、唾を飛ばすような勢いで部下たちに指示を飛ばした。


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