第125話 対三家

「お前たち! こいつを殺れ!」


「「「「「ハッ!!」」」」」


 この砦内にいるのは、三島・山科・南川の当主3人だけではない。

 当然その配下の者たちも存在している。

 限という存在が砦内に出現したことにより、砦内に散らばっていた敷島兵たちが集まってきていた。

 そんな兵たちに向かって、三島は限殺害の指示を出した。


「ハハッ!!」


「何がおかしい!!」


 三島の指示に従い、敷島兵の1人が動く。

 周囲を、しかも敷島兵に囲まれているのにもかかわらず、限は何故だか笑みを浮かべている。

 そんな態度を疑問に思いながら、尾の敷島兵は限へと斬りかかった。


“ビシュッ!!”


「ガッ!?」


 血飛沫が舞い、斬りかかった兵が崩れるように倒れる。

 倒れた兵が動かないことと、刀に大量の血が付いていることから、限が斬り殺したことがうかがえる。


「何がおかしいって? お前たちを皆殺しにできると思うと、想像するだけで楽しいからだよ」


 倒れた兵はピクリとも動かない。

 先程の一太刀によって即死したのだろう。

 そんな自分が殺した兵に向けて、限は笑みを浮かべながら話しかける。

 それは死んだ兵にというより、むしろ周囲にいる兵に向けてと言っているようだ。


「……どうした? かかって来ないのか?」


 話している人間に斬りかかってはいけないなんてルールは、殺し合う状況では存在しない。

 つまり、周囲の兵たちには、いつでも自分に斬りかかれる機会があったはずだ。

 それなのに向かってこない兵たちに対し、限は不思議そうに話しかける。

 その問いに、自分の周りを囲む兵たちの表情がおかしい。

 限がそのこと訝しんでいると、何人かの視線が足下の死体に向いていることに気付く。

 この兵が何かあるのかと思い、もう一度顔を見てみると、限はあることに気が付いた。


「……あれっ? こいつ一馬かずま……だったか?」


 あっさり殺してしまったために何者なのか興味がなかったが、よく見たら彼の顔に見覚えがあった。

 山科家分家の一馬という男で、限が敷島にいた時、かなり名の通った存在だった。


「だからか……」


 彼のことを思いだしたことで、限は敵たちが戸惑った原因を理解した。

 三島・山科・南川の三家の中で一番の実力者が、最初に、しかもあっさりと最初に殺されたため、すぐに受け入れられなかったのだろう。

 しかし、敷島の人間なら、この程度のことで戸惑いを見せるべきではない。


「シッ!!」


 戸惑ってくれているのなら、それを利用しない手はない。

 限は地を蹴り、近くにいる敵たちへ接近した。


「「「「「っっっ!?」」」」」


“ドサドサッ……!!”


 接近した限は、固まっていた敷島兵の集団をすり抜けるように移動する。

 そして、限が通り抜けた道の付近にいた敵たちは、バタバタと倒れて行った。


「おいおい、どうした? 反応くらいしろよ}


 刀に付いた血を垂らしながら、限は倒れた敵に向けて話しかける。

 これも倒れた者に向けているようだが、周囲にいる敵を嘲るために言っているようだ。


「こ、このっ!!」「や、野郎!!」


 実力者である一馬だけでなく、仲間を数人殺されたことで状況を理解したのか、敷島兵たちは限に向かって動き出した。。


「ガッ!!」「グエッ!!」


「動きも判断力も鈍いんだよ」


 敷島の人間にしては、何もかもがお粗末だ。

 襲い掛かってきた敵を返り討ちにし、限はつまらなそうに呟く。


「何で親父がお前たち三家に討伐戦を任せたのかと思っていたが、これで分かった気がするぜ……」


「何だと……?」


 自分たちが討伐戦を任されたのは、菱山家と五十嵐家の傘下だったために斎藤家に就くのが遅れたからのはず。

 しかし、何年も前に放逐された限が、そんな情報を知っているはずがない。

 そうなると、まるで斎藤家に就くのが遅れた以外に理由があるかのようだ。

 限がため息交じりに呟いた言葉が聞き捨てられず、南川は思わず反応した。


「敷島のくせに実力が低いからだ」


「「「なっ、何だと!?」」」


 限の言葉に、三家の当主たちは顔を赤くする。

 敷島の中でも名の知れた三家であるはずの自分たちの実力が、魔無しで有名だった限に侮られたためだ。


「お前たち!! 魔無しなんぞに何をしている!!」


「さっさと奴を殺せ!!」


「「「「「お、おぉ!!」」」」」


 怒りの混じった三島と山科の声に、敵たちも反応する。

 話は聞いていたが、魔無しの限を相手にこうもあっさりと仲間が殺られるとは思っていなかった。

 しかし、もう魔無しだとか言っていられる相手ではない。


「……フゥ~」


 敵の殺気が強くなった。

 それすら遅いと言いたくなりつつ、限は溜め息を吐いた。

 敵と判断したらすぐに気持ちを切り替えろと言うのが、限が敷島にいた時学んだことだ。

 敷島のことは嫌いだが、戦いの専門家としての知識は正しいと、これまで生き抜いてきたことで理解している。

 限でも出来ることが、この三家の連中にはできていない。


「ギャッ!!」「グフッ!!」


「お前ら、本来島の外に出れる実力じゃないんじゃないか? この程度じゃ、あっという間に終わっちまうぞ」


 ようやく本気で攻めかかってくる気になったようだが、全く相手にならない。

 敵の攻撃を躱しては斬りつけ、攻めてくるタイミングが少しでも遅くなれば自分から斬りかかる。

 あまりにも相手にならないため、限はせっかくの復讐の機会だというのにつまらなくなってきた。


「クッ!! なんて奴だ!!」


「こいつが本当にあの魔無しだと……」


 続々と仲間が殺されて行く。

 このままでは、たった1人に全滅させられてしまう。

 そう考えた三島と山科は、焦燥感に駆られる。


「お前たち! あれ・・を使え!」


「りょ、了解!」


 この状況を打開するため、南川が大きな声を上げる。

 彼の指示を受けた兵たちは、懐に隠していたものを取り出して口の中に放り込んだ。


「ぐうっ!!」


「ようやく使ったか……」


 兵たちが変身を開始する。

 それを見て、限は笑みを浮かべる。

 彼らがこうするのを待っていたからだ。


「ハハッ!! 一般の強化兵なんかと一緒にするなよ!」


 肥大化した筋肉と魔力。

 彼らが飲んだのは強化薬だ。

 一般兵が使用しているのと同じ薬だが、たしかに強化の具合が違うようだ。

 変身し終えた兵たちを見て、指示を出した南川は、まるで勝利を確信したように限へと向かって高笑いを上げた。


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