第124話 対峙
「くそっ!!」
「どうなっているんだ!?」
「何で強化兵が全滅するんだ!?」
強化兵たちが全滅したことを知らされ、砦の外をアデマス軍が囲み始めたことにより、砦内にいる三島家・山科家・南川家の当主たちは、慌てたように声を張り上げていた。
ここまで強化薬を使用した兵によって、苦も無く敵を追い詰めていた。
それなのに、どうして急に強化兵が全滅するようなことになったのか理解できないでいたからだ。
「まさか……」
「どうした? 三島殿……」
戸惑いを見せる中、1人三島が何かを思いついたかのように呟いた。
その呟きに、山科が反応する。
「あの強化兵たちが使用した薬は欠陥品だったのでは?」
強化兵が全滅したのは、突然苦しみだし、戦える状況ではなくなったからという報告だった。
これまで順調だったというのに突然そんなことになるということは、必ず原因があるはずだ。
そこで三島が思いついたのは、使用した薬が欠陥品だったからではないかと結論付けたようだ。
「……何故そう思うのですかな?」
三島の疑問に、南川が質問で返す。
彼がそう思う理由が知りたいからだ。
「我々は斎藤…王の策に賛同したのが最後だった」
「あぁ、それゆえこのように、残ったアデマス貴族の始末を言い渡されたわけです」
アデマス王国を、敷島の人間が乗っ取る。
その考えを斎藤家当主重蔵から知らされた時、この三家は反対をした。
しかし、重蔵が他家の当主たちの協力を得ることに成功したという話を聞いて、彼らも協力をする事を申し出た。
そのため、王となった重蔵の心証からすれば、敷島の他家よりも下に置いているに違いない。
三島のその考えに、山科と南川も賛同する。
この仕事を任されていることこそが、重蔵にとってはそういう位置づけでいるということの証と取れる。
このようなアデマス貴族の掃討などと言う仕事は、自分たちでなくてもいいはずなのだから。
「もしかしたら、あと少しの所で我々をワザと失敗をさせようと考えているのでは……?」
「まさか……」
「そんな……」
三島の意見に、山科と南川はいくらなんでもと言おうとした。
だが、彼らも完全には否定できないでいた。
斎藤家当主の重蔵のアデマス王国奪取というに案に、予想以上の家がすぐに賛成の意を示した。
今世の敷島の者たちの間に、自分たちはアデマス王国の支配下に収まっている器ではないという思いが燻っていたからだろう。
菱山家と五十嵐家が無くなってしまったことで、完全に歯止めを失ったと言って良い。
その菱山家と五十嵐家と関係のあった自分たちは、敷島内で生き残るためにも最後に賛成するしかなかった。
国の奪取に成功して王となった重蔵からすると、自分たちのような存在は、いつ裏切るか分からない目の上のたん瘤でしかない。
これから敷島の者を中心とした国を盤石なものにするためにも、早期に処分するという考えを持っていてもおかしくない。
処分するにしても、何らかの理由がなければならない。
その理由が、今この時なのかもしれないということだ。
「……そう考えると、撤退は駄目だ」
「あぁ、何としてもこの場で乗り切らなければ……」
「我々が生き残る術はない!」
強さに自信がある彼らだが、敵との数を考えると勝利する見込みはかなり低い。
それでも、ここで撤退をすれば自分たちは任務失敗の責を負われ、何かしらの処罰を受けることになる。
それが当主である自分たちだけで済めば良いが、一族全員粛正されるという可能性もあるかもしれない。
勝てるか分からないからと言っても、この場からの撤退という選択は取れない。
この場で何としても敵を抑え込むことを決意し、3人は部下たちに徹底抗戦の命令を課すことにした。
◆◆◆◆◆
「フンッ!!」
「ぐあっ!!」「ギャッ!!」
砦から出てきた敷島の者たちは、アデマス軍側の兵を刀でバッタバッタと斬り殺していく。
敷島が1人に対し、アデマス軍の兵は多人数で囲んでの戦闘を仕掛ける。
数的有利ではあってに実力が違い過ぎるため、アデマス軍の兵の減りが激しい。
「クッ!! 一騎当千とはよくいったものだ……」
多数で囲んで攻めかかっても、多少の怪我を負わせることはできても致命傷を与えられない。
恐らく、これまでの戦法からいって、今砦の外に出てきている者たちは敷島の中でも下っ端のはず。
その下っ端を捨て駒にして、まずこちら側の数を減らすのが目的なのだろう。
そんな下っ端ですらこれだけの強さをしているこの状況に、アデマス軍を率いるリンドンは忌々し気に歯噛みした。
◆◆◆◆◆
「よし、よし!」
「アデマスの兵は思っている以上に弱いぞ!」
「これなら奴らを撤退させることもできるかもしれない!」
実力がある者の指示は絶対。
捨て駒と分かりつつも、最初に敵へと攻めかかっていった者たちは指示に従い必死に戦う。
まずは下っ端を送り込み、敵兵の強さを計る。
三家の当主たちは、敷島にとってセオリーともいえる方法に出る。
蓋を開けてみれば、下っ端の連中は期待以上に敵の数を減らしている。
このままいけば、敵を退ける可能性が出てきたことに、彼らは僅かに安堵した。
「そうはいかないな……」
「「「っっっ!?」」」
三家の当主たちに光明が見えた束の間、突如殺気を感じると共に何者かに話しかけられた。
彼らが殺気を感じた方角に目を向けると、そこには1人の青年が立っていた。
「き、貴様!! 何者だ!?」
気配も感じさえずに砦の防壁の上に立っていた青年に、三島が慌てて話しかける。
「三島・山科・南川……」
「っ!?」
「何故我々を……」
砦の防壁の上に立つ男は、3人を見て小さく呟く。
その呟きに、山科と南川が更に驚く。
男が、名乗ってもいない自分たちのことを知っている口ぶりだからだ。
「……貴様、あの魔無しか……?」
「へ~……、その口ぶりからすると、やっぱりそっちは俺の存在に気付いているか……」
男の顔を見た三島が、疑わし気に話しかけてくる。
その質問に、防壁の上に立つ男こと、限は笑みを浮かべた。
オリアーナが重蔵の側に就いている。
そのことからも、自分が生きていることは敷島の者たちに知らされている可能性があると思っていた。
島を追い出される前、三島なんてまともに会話をしたのは片手で数える程度だった。
なのに、自分のことが分かるなんて、重蔵かオリアーナから知らされていたということだろう。
「親父に付いているんだ。お前たちには死んでもらう」
「何だと……?」
「魔無しごときが!」
「舐めるなよ!」
復讐対象である重蔵の配下に就いている。
それだけで、限にとっては彼らも殺害対象だ。
限は殺意を込めて彼らに刀を向け、3人も刀を抜いて限に構えをとった。
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